第24話 8月17日-2 空を翔る
どうもこんにちは。
第24話です。
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街の静けさが、少しだけ気持ち悪かった。七日間、何も起きていないことのほうが気になっていた。嵐の前の静けさ、そんなところかもしれない。白群高校の部活棟の階段を一人降りながら、直近のことに思いを馳せていた。
昼前、毎日の義務で不可解部に顔を出した後だ。
今日は風名どころか剣にも会えなかった。そのことに一抹の寂しさを覚える。会わないことに慣れたと思っていたのに、違った。
いないと落ち着かないことに、今さら気づいた。
風名に関しては会っていないどころか既読無視されている。「よい夏休みを」なんて文言に対して返事に困ったのかもしれない。と五木は思っていた。
ここまで尾を引くようなやらかしをしてしまっただろうか。思い返しても、何が悪かったのか分からない。
今日も風名にメッセージを送ろうとして、結局やめた。送る理由もきっかけもない。それに、送ったところで、何も返って来なかったときのことを考えると怖い。
画面を見つめる。それを待っていたかのように端末が短く鳴動した。
文字を認識した瞬間、足が勝手に動きかけた。開く。五木は階段を降りるのをやめ、落ちるように一階へ、部活棟の出入口へ走る。
外に出る。周囲には誰もいない。
胴に朱雀の鎧、脚に麒麟の脛当てとブーツを顕し、空中を蹴る。地面が離れていく。近くに見える逸美原駅付近の高層マンション――二十五階建てくらいのその高さを目指す。
(逸美原神社、狼三頭)
送られてきたのはそれだけだった。風名が遅れをとるとは思えないが、返信する時間も惜しい。
あの広い境内と公園、もしかしたら方山にいるかもしれない。着いてからのことを考えるのはやめた。
現在の高度は七十メートル以上。さらに上を目指す。五キロ先の目的地の森林も、すでに視界に入っていた。
全身に朱雀の鎧。赤いフルプレートには赤い羽根飾りがあしらわれ、背には巨大な金属の翼。兜は頭をすべて覆っている。ハウンスカルに見えるが、その突起は嘴のようになっていた。
朱雀の鎧は、中国由来の神獣とは思えないほど西洋甲冑じみている。もっとも世界の鎧について造詣深い五木ではない。
マンションの高さの倍程度まで上昇した。ここまで一分足らず。
生身では時速百キロを超える飛行に耐えられない。
急降下する。三秒の自由落下で時速百キロを超える。速度は十分。
翼をはためかせ弧を描く。方向を水平に調整する。これならば三分くらいか。間に合わなかった先は、考えないようにした。意識するほど離れず、頭のどこかに残っていた。
飛行中は集中力を要するものの本当に暇だ。哨戒するほどのことはない。厭でも何かを思考することになる。考えないようにしていた風名の探し方を再び考えてしまう。
五獣の力でも、風名の場所まではわからない。
過去の風名とのやり取りに思考が巡った。
「ほら、こうやると何か感じない?」
入学直後だったか。風名は得意げに魔法を見せてくれた。彼女の掌の上で桜の花びらが躍る――いや、見せてくれたのは自分の為だった、と五木は思い出す。
「……いや、特に何も」
もっともその時、五木はその花びらよりも風名の手を見ていた。
何が理由で不可解部に入る羽目になったのかわからなかった五木に、風名と剣はいろいろ試した。とはいえ、剣が何をしてくれたかは覚えていない。薄情なものである。
風名が魔法を見せるのは、五木に魔力を感じることができるかどうかを知るためだった。
「魔力はだめかぁ。……五行君は魔法系じゃないのかな?」
顎に手をやる仕草、何かを考えているらしい。
「魔法使いじゃなくても相手の魔力を感じられるようになるって話は聞いたことあるね」
「でもそれって対象の魔法使いを信頼するくらいの関係性にならないとダメって」
「確かに僕たちは出逢ったばかりだからね。五行としてはこの……化物の間に放り込まれて困っているだろう」
剣はこの時、五木に向かって化物を自称していた。そう言うたびに剣の無表情が少し悲しげな空気を纏うのを五木は感じていた。
風名のことは信頼している。剣も同様だ。
風名が魔法で応戦したとき一定の距離にいればその存在を感じられるのではないか。
そんな期待を五木は抱いた。
思考を回想から引き戻す。
神社の上空の近くに差し掛かっていた。神社に隣接する公園、そのある箇所がドーム状の結界のようなものに覆われていた。あからさま過ぎる。
ドームの真上に一人の人間が浮遊していることに五木は気が付いた。
こんな上空にいるのは、ただの人間ではない。距離が縮むにつれ、その姿が徐々に鮮明になった。
鳥の着ぐるみ――人間大の鳥から皮を剥いでそのまま身に着けたような装束の青年だった。額の辺りからは嘴が伸びている。――剣を持つツグミの悪魔。
既に剣――細身の片手剣を構えている。
五木はその名を知らない。
そんなものに構っている暇はない。時間が、惜しい。打ち抜けるか。
「私は序列五十三番の大総裁、カイム! いざ尋常にしょ――」
「邪魔だぁ!」
召喚士の配置した駒――悪魔カイムが名乗りを終えることはなかった。
その装甲と百キロ超の速度を頼りにそのまま突っ込むとカイムに激突する。
五木を多少の衝撃が襲ったものの、その一撃でカイムは腹から上下に分かれ、光の粒となり霧散した。ちなみに五木にはカイムという名前とそのあとしか聞こえていなかった。
後で風名に聞くか、調べてみるとしよう、五木はそう思った。
妨害が入ったものの、結界の上部に辿り着いた。
ここに風名がいる確信はない。だが、上空に悪魔がいたことも相まって怪しいのはそこだけだ。
既に連絡から数分が経過した。召喚士の駒はまだいるかもしれない。警戒しつつ降下する。結界は五木を阻むことなく侵入を許した。
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次回、縮まる距離。
「第25話 8月17日-3 急接近」




