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第10話 8月6日-1 五勢力

どうもこんにちは。

第10話です。

どうぞよろしくお願いします。

 白騎士が訪れる十六時まで、まだ時間があった。それまでの時間を宿題に費やそうとしたものの、どうしても落ち着かない。五木(いつき)は調査を兼ねた散歩と称して家を出ることにした。

 決して宿題から逃げたいわけではない。そんな誰に向けたでもない弁明を五木は心の中でした。


 白騎士はいつ来るのかを言ってくれなかった。不可解部の面々でそれぞれどんな目に遭ったかをグループ通話で報告し合っていた時である。

 自分が一番ひどい目に遭っていると五木は思いながら話をしていた最中、白騎士が時間を言っていなかったことに気が付いた。


 それは赤騎士をのした剣も同様だったようで、風名(かぜな)だけが六日十六時という来訪の時間を知っていた。白騎士は紳士然としているがどこか抜けている人物らしい。もう一人、赤騎士に関しては(つるぎ)のせいで魂が抜けかけていたので責めることはできない。


 悪魔マルコシアス。風名はそう言った。黒騎士に推測を話したところ当たっていたらしい。伝聞だけでそこまで言い当てるのだから、大したものだ。


「兄さん、お出かけですか?」


 居間に入った時、話しかけてきたのは五木の妹、雅金(あかね)だ。銀縁の眼鏡に、腰まである長い髪。「知的」という言葉を擬人化したような上の妹だ。


 夏休みだというのにセーラー服にスカートだ。学校に用でもあるのだろうか。


「ああ、ちょっと散歩にな」


 少しぶっきらぼうに答える。何かしらコメントがあることは予測できている。

 四人のきょうだいたちは何かしらにおいて出来がいい、というのは五木の評価だ。その中で頭一つ抜き出ているのが長女の雅金だ。


 五行家の第二子。五木の一つ下の中学三年生。


 頭脳明晰(ずのうめいせき)、品行方正。これでスポーツは平均の一枚上。ほかのきょうだいは文武どっちかがあまりよろしくなかったりする。


「そうですか、気を付けて行ってきてくださいね」


 いつもなら、宿題はしたのか、なんて母親みたいな小言を言ってくる雅金なのだが、今日は違ったらしい。


「? 出かけないのですか?」


 小言を言ってこないことに硬直した五木を見、首を傾げて雅金は言った。


「……なあ、何か僕に言いたいことはないか?」


 何も言われなきゃ何も言われないで少し寂しい気持ちもある。


「はあ、では一言だけ、ゴールデンウィーク明けのようなことは困りますからね。それに、兄さんもいい大人になろうとしています。私が一挙手一投足に対して口を挟むのもどうかと――」

「じゃあ、行ってくる。鍵頼むな」


 一言と前置きしておいてそれで済まない雅金の言葉を五木は遮った。

 この敬語・眼鏡属性の妹が五木は少し苦手だった。無論、嫌いなわけではないが。


「はい、行ってらっしゃい」 


 雅金の声を背に家を出る。施錠音を確認し歩き出す。近頃はどこもかしこも物騒だ。悪魔がいなくても。

 よくある住宅街だ。一戸建てだけではなく、低層のマンション、アパートもちらほらある。


 空は晴れている。時折吹く微風(そよかぜ)が夏の暑さには心地よかった。


 三か月前のゴールデンウィークの出来事――不可解部の記録『File01 五行のきょうだい』。覚えているのは、きょうだいの中で五木だけだった。


 他の四人はと言うと都合よく記憶の改竄(かいざん)が行われたようで、五木はどうやらその間一人旅に出ていたことになっているらしかった。

 実際は旅に出たわけではない。いなかったのは、いなくなったのはきょうだいたちの方だった。


 陰陽五行(いんよういつゆき)の野望を阻止した形にはなったが、五木にとってはきょうだいを救うための戦いだった。そのことは雅金をはじめとしたきょうだいたちは知らない。


 ゴールデンウィーク明け、その朝に家に帰った時のことを雅金は言っていたのだろう。


 五月六日、登校の準備をしに未明に戻った五木は打撲、擦過傷をはじめとした怪我を負っていた。疲れからか、家に入った瞬間玄関で寝てしまい、きょうだいにその姿を発見され、多大な心配をかけてしまったのだった。


 過去の事件を振り返るのはそこまでにして、五木の思考は今回の事件へと巡る。白騎士はまだ目的を明らかにしていなかった。


 風名によれば、五勢力の一つである色の騎士団(コロル・エクェス)は、悪魔を狩る活動を行っているらしい。


 そもそも五勢力という言葉自体、昨日まで知らなかった。


 ゴールデンウィークの事件はおろか、今日に至るまで、全く関わりがなかったから聞く機会がなかったというのは言い訳だろう。

 端末の画面の向こうでは「それくらい知ってるでしょ」と言いたげな顔をしているのが想像できるが、素直に教えを乞うことにした。もったいぶることもなく、さらりと風名はわかりやすく説明してくれた。


 五勢力、その大半が人類に危機や害をもたらす存在へのカウンター集団だということらしい。

 世界の裏側で大きな影響力を持つ五つの組織。


 悪魔を狩る、色の騎士団(コロル・エクェス)


 妖怪退治集団、四ツ橋(よつはし)


 知識の守護者、学院(アカデメイア)


 暗殺者集団、四死使師(しししし)


 そして、たった一人で他勢力の抑止となる新興の、一人法師(ひとりほうし)


 簡潔な説明を聞く限り、四死使師と一人法師は他とは異なり、異彩を放っているように感じられる。


 そういえば、陰陽五行は四ツ橋と学院(アカデメイア)の名を口にしていた。「五獣を使うのに四ツ橋、学院(アカデメイア)のシステムを応用した」とかなんとか。

 その時は決戦の緊張感と彼への怒りで聞き流していたが、五勢力は有名らしい。


 騎士団がいるということは悪魔がらみ、と風名は言っていた。

 騎士団だけは全メンバーが基本は欧米にいるらしく、複数名が日本にいるということはそういうことだろうとのことである。


 今のところ夜にしか事件が起こっていない。だが、その目的も不明である現状、白昼堂々とことを起こさない可能性はゼロではない。解決が早いに越したことはないが、あの翼の生えた狼、悪魔に関して、五木には全くとっかかりとなる知識はない。


 昨日、白騎士はあの翼の生えた狼を「悪魔」だと言った。そう言われても五木にはピンとくるものがなかった。悪魔といえば山羊の頭に蝙蝠の翼、三叉の槍――そんなイメージだが、由来すらわからない。


 悪魔の種類を知らず、この国で宗教に触れず育った人間に、サタンとルシフェルの違いを説明できる者は少ない。


 やはり一人で考えても無駄だろう。リフレッシュを目的とする散歩で疲弊しては元も子もない。しばらく何も考えずに歩くことにした。

今回もお読みいただきありがとうございます。

感想をいただけると励みになりますのでよろしくお願いします。

次回、五木は空を飛ぶ獣を見かける

「第11話 8月6日-2 雷の獣」

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