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第16話 王都監査会への帰還
王都へ戻る馬車の中で、私は一度も窓の外から目を逸らさなかった。
追い出された時は、石畳の音すら耳障りだった。今は違う。証拠箱の重みが、私の背筋を支えている。
戸籍局へ着くと、正門でアグネスが待っていた。
「遅かったじゃない」
「証拠を集めていたので」
「いい顔ね」
彼女は短く笑い、私たちを裏口の保管室へ通した。そこには監査会用の長机と、閲覧許可の下りた原本が並んでいる。局内の若い職員たちが私を見る目は、侮蔑より気まずさに近かった。
「補正頁の原台帳、フェルナーの照会記録、教会写し、送金簿。全部そろえたわ」
アグネスが確認し、深く頷く。
「今回は逃がさない」
監査会の開始時刻が近づくと、廊下のざわめきが大きくなった。オスカーとセラフィナが来たのだろう。かつてなら、その足音だけで胸が縮んだかもしれない。
けれど今、私の隣にはクラウスがいる。
「足は震えていないか」
「少しだけ」
「なら問題ない。完全に震えない人間は、たいてい鈍い」
私は吹き出しそうになった。こんな直前にそんなことを言う公爵は他にいない。
「終わったら、あなたの包帯を替えます」
「その約束で十分だ」
扉が開いた。
今度は被告のように呼ばれたのではない。私は証人として、自分の名前を取り戻しに行く。




