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第14話 元婚約者は救恤金を数え違えた

 ブルーノの私室から出てきた帳面は、驚くほど丁寧だった。


 汚職をする人間ほど、数字だけは律儀に揃える。おかげで追いやすい。


 私は夜通しで帳面を洗い、銀行家から預かった送金記録と突き合わせた。架空世帯へ流した救恤金、白曜慈善会へ移した寄付金、さらに王都財務局の臨時補填金。その三つが最終的にオスカーの管轄口座へ合流している。


「見事な二重取りですね」


 私は呆れた。


「死人に麦を配ったことにして領地の金を抜き、その不足を慈善寄付で埋めたように見せ、王都から補填金まで取る。しかも帳尻合わせは私を偽物にして黙らせるつもりだった」


 ヨハンが眉をしかめる。


「人を数える仕事をしていて、人を紙としてしか見ていない」


「だから数え違えたんです」


 私は帳面の端を叩いた。


「紙の上の死人はパンを食べません。でも実際の寡婦と病人は食べる。現場へ出れば、すぐに穴が空く」


 クラウスは私の前へ王都監査会への召喚状を置いた。


「王都が来いと言っている」


「ちょうどよかったです」


 私は証拠箱、教会写し、ブルーノの自白書、送金記録を順に並べた。


「今度は私が呼ばれたのではなく、呼びつけたと思うことにします」


 オスカーは金に強い男だった。けれど人間の腹と記憶は、いつだって帳簿より面倒なのだ。


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