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歴史の陰 無口が世界で愛されるのには理由がある  作者: かづ


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人生に自由がない⑧

ロレンスとの関係はそのデート一回では終わらない様にしたい。


このデート中は、娼婦となった自分がまた貴族になったように思えるのだから。

こんな光り輝く場でまた私が生きられるという事が、最近行き詰まりを感じていた暗くジメジメしたあの環境から出られたことが私をそちらへと走らせる原動力となっていた。


最後にカフェに返ってきて反省会と称して私の感想をぶつけた。

「今日やってみて私未だ不完全燃焼なのですが、ロレンス様はいかがでしょうか?」

ここで『私はもう結構だ』と言われたら駄目だと思い、言葉をつなぐ。

「まさか、あの、たどたどしい状態で満足ですか?あれを見せれば、あなたが女性に不慣れで、緊張し、童貞であることはほとんどの令嬢にはそれとなく伝わりますが、よろしいでしょうか」

正直童貞がばれても問題ないのだが、彼の自尊心を(くじ)く言葉として選んだ。

今はなんとしても彼の反発心、向上心に訴えて、もう少しこの関係を続けなければと思わせることが重要だった。

彼は少し考えたが、ちょっと苦笑いをしながら答えた。

「そうだな。確かに一回でリードができるようになれるとは思っていなかったが・・・、ダンスのように何度も練習する時間もな・・・」


出来る限り回数を重ねて、私に対して本当の婚約者と同じような感情を持たせるようにしたい。


だから障害に対しては天秤を持ち出して皿に乗せるようにすることが必要である。

「そうですか。では、あなたの愛はその程度だという事です」

「な⁉」

「時間を惜しんで尽くすことができないのですから、あなたにとって婚約者はその程度の存在という事でしょ」

この言葉で彼は自分の愛を証明するためになんとしても私との時間を取ってくれるはずだ。

練習という名の私の本番の時間。

だから丁寧に彼が心の底からうんと言えるように言葉を重ねる。

「婚約者はご自身にとってどのような存在か考えて見られると良いでしょう。ご自身が学び訓練する時間を取ることは出来ても、婚約者の為に時間を割くことは出来ないというのであれば、それは大変お可哀想な婚約者になるでしょう。彼女は親元離れ心淋しいのは確実で、それを支えてくれるはずの夫は自身のことには時間は割けるが、妻には時間を取りたくないというのならば、後悔と共に実家を大変恋しく思うでしょうね」

少し焦りを感じながら、納得の表情を作り真剣な表情に変わった。

「確かに、何も犠牲にせずに、欲しい物を得るなど傲慢だったな。キャロルの言う通り、こちらの学びの時間も取れるようにしよう。済まないが、もう少し付き合ってくれ」

「勿論でございます。わたくしも不完全燃焼でしたし、もっと色々な状況を想定してやってみるのもいいかもしれませんね」

笑顔で、受け入れ今後の予定を話した。


これでまだ細い糸をつなぐことができた。貴族社会へと繋いでくれるかもしれない細い糸だ。

私はこれをなんとしても上手くやるのだ。


何度も手を変え品を変え、彼との時間を作って、話、体験し、どういう時に嬉しいと感じるのか、どういう時に男らしさを感じるのか、どういう時に男性を意識するのかを研究していく。


会っている時間が長くなればなるほどに、情が産まれ、一緒に行動をすれば、相手の習慣や癖を理解することができる。


それによって相手の思考をコントロールし、また相手の行動を縛ることができる。

彼は都合のいいことに自分の運命に真っ直ぐに進んでくれるのだ。

必要だと思ったことに素直に挑戦し、行動してくれた。全く私にとって扱いやすい男であった。


そしてとうとう婚約者が来る日が迫ってきたと聞かされた。

これは今まで積み上げたものの終了を意味する。


大体一ヵ月くらいの付き合いではあったが、それなりの回数会うことができた。


私が積み上げた時間がロレンスの気持ちを動かすことができたのかが分かる。

今日も2時間くらいだが街を練り歩き景色の良い場所や平民のデートスポットはどいうところなのかを見て回った後、またカフェに戻ってきて反省会を開き正面にいる彼に話かける。

「結構色々挑戦しましたし、もうどこへ行こうとロレンス様は彼女をリードすることができるでしょう」

「そうだな。色々経験できたし、私も満足だ」

ロレンスの顔はいつもと変わらず明るい。自分の境遇とロレンスのそれとでは明らかな違いがある。

それが分かるからこそ、彼の明るさに対してこっちの心は暗く沈んでいくのが分かった。

だから、次の言葉が出るまで少し時間がかかってしまった。

この場の空気が重くなっていくのを感じてなんと振り払おうと意を決して奮起し顔を上げて彼を睨み真剣な表情で伝えた。

「ただまだ、一番大事なことをお伝えできていません。・・・それはいかがしましょうか」

「一番大事なこと?」

彼はとぼけている訳ではないにしても、あまりにも素直に清らかな反応で聞き返してきた。

「一番大切なベットの上でのリードの取り方ですよ。・・・それはまだですよね。学んでみるのは、・・・いかがでしょうか」

顔色はそれほど変わりないが、どうやら私を女だと意識させることには成功しているように見える。

彼の喉が何かを飲み下す動きをした。

おそらく様々な思考がロレンスの中で渦巻いているのだろう。

答えを出すのに時間がかかっている。時間がかかるとは天秤にどっちが得だろうかと乗せているという事だ。


人間は理性と本能で生きている。


理性で考えることができれば、正しいことを選べると思っているが、逆だ。

本能の方がより正しい答えを瞬時に導き出せる。

あまりにもすぐに出てくることを理性は理屈をくっ付けて正当化したり、仕方がないと思うよう仕向けているのだ。

本能は人に見透かされ易いという特徴があるのだが、正解であることに変わりはない。


本能の欲求は近い所と遠い所の欲求の二種類ある。


そしてそれは多くの者が近い欲求に向かう。

遠い所にある本能の欲求は見なかったことにして、忘れたことにして、気づかなかったことにされているだけである。


例えば、ロレンスのように立派な公爵になるという目標があってもそれは遠い所の欲求だ。

その前に、食欲、睡眠欲、性欲がある。これが近い所の欲求だ。


人は誰しもこの本能からくる近い所の欲求を満たさずに遠い所の欲求を求めようとは思わないのだ。


そして理性とは欲望を叶えるために損得を考えることだ。

だから、近い所にある本能からくる欲求を最大限にできるように理屈を考え、叶える言い訳を作り上げる作業に他ならない。


だから人は欲望に堕ちるのだ。

どんな聖人であれ、人間というこの体を持つ者は皆欲求をいかに叶えるかで生きているのだ。

これに抗うということは死んでしまうことだってある。人間ならば近い欲望を叶えるのが当たり前である。

だから私は彼の背中を押す。これは悪い事ではないのだから。


「ロレンス様はとても優秀です。女性というモノについてはまだ本当の意味で理解できていませんが、それでもご自身が上に立ち、リードしたいという目標を持たれたことや今回のことを私に依頼してくださった行動に現れたように、本能的に分かっているのだと思います」

「本能的に分かっている事?」

「そうです。ロレンス様は本当はご存じのはずです。ロレンス様は彼女に対して常にどんな時でも上に立ちたいと思っておいでです。そしてそれはどんな時も、つまり、ベットの上であったとしてもそうありたいと思っているはずです。だから娼婦である私に依頼を出したのでしょ?そしてこれは実は女性もそうなのです。男性に求められ、そして男に付き従いたいという欲求があるのです。あなたに求めらる事が何よりも欲していて、何よりも大きな喜びとして現れるのです。これが最も原始的であり、永遠に続く男女の関係といえるでしょう。ですから、ロレンス様が選んだ選択はその本質を見ているのです。他の女性でなく、娼婦である私を選んだのも、全ての経験を齎せれくれると本能が選んだのです。ロレンス様の言い方で言えば、運命と申しましょうか。ロレンス様が娼婦である私を選んだのは、本能的に、運命的に私を欲していると言えましょう。ですから、ここで私と経験を重ねても、それは自然であり、運命であり、美しい本能が成したこと、というだけですなのですよ」


また彼が何かを飲み下したのが見えた。


最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます。

精鋭の読者のお陰で続けられています。

本当にありがとうございます。


喜怒哀楽の何か感じたら、評価、ブックマークをお願いします。

今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。

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