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TWO ONLY TWO 唯二無二・唯一無二という固定観念が存在しない異世界で  作者: VIKASH
【魔法学校篇】:ANIMALZ AND ZOOLOGICAL GARDEN

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222/223

222話 ティタインとブラックソルト



 ―― Titain & Blacksalt ――



 門の外に立っていた影は、しばらく動かなかった。



 まるで、境界そのものを観察しているようだった。



 スーペリアの奥。  

 この場所は、ただ辿り着けば入れるわけではない。門を前にした瞬間、多くの者は恐怖し、錯覚し、自我を乱される。自分が何者だったかさえ忘れる者もいる。



 だが――その影は違った。



 ゆっくりと、一歩。



 石畳へ足を乗せる。



 その瞬間、空気がわずかに軋んだ。




「……へえ」




 ティタインが目を細める。



 来訪者は黒い外套を纏っていた。  

 背丈は大きい。肩幅も広い。だが、歩き方には妙な軽さがある。



 そして何より――。




「魔力が……ないし」




 トシが屋根の上で羽を揺らした。




「クルッポー……本当に生き物か?」




 影は門を潜り、ようやく月光の下へ姿を現した。



 黒い肌。



 獣じみた鼻梁。



 牙の覗く口元。



 そして、人型でありながら、明らかに“豚”に近い輪郭。



 その男は、ゆっくり頭を下げた。




「どうも、始めましてじゃないっすか?」




 低く濁った声。




「オイラ、黒塩〈ブラックソルト〉っす。

 よろしくっす。さっきはどうもっす」




 ティタインはじっと相手を見る。



 魔力が存在しない。



 それは、この世界において異常だった。



 魔力とは生命力。  

 生命力とは存在の証明。



 つまり魔力を持たぬ者とは、本来“生きていない”はずなのだ。



 だが、目の前の男は確かに立っている。



 息をしている。



 心臓も動いている。



 それなのに――空っぽだった。



 まるで、世界という枠組みから切り離されているかのように。




「ちしし、面白いし」




 ティタインが笑う。




「おいブタ、ペットになるし」



「いやっすね。

 喋れるブタはもう家畜じゃないっす」




 ブラックソルトは肩を竦めた。



 背中には一本の大剣。  

 幅広で、鈍い鉄色をした無骨な剣だった。




「ん? もしかして……。

 試験を受けに来たし?」



「そうっすよ」



「不合格にしたはずだし」



「そりゃ困るっすねぇ」



「でも来たし」



「そうっすよ」




 そこで初めて、ブラックソルトはティタインの目を真っ直ぐ見た。



 その瞬間だった。



 空気が裂ける。




「――分割〈ディヴィジョン〉」




 ティタインの指先が、静かに横へ払われた。



 瞬間。



 ブラックソルトの周囲で空間が“ズレる”。



 石畳が断層のように分かれ、重力の向きが歪み、上下の感覚が消失する。



 本来なら、それだけで終わっていた。



 能力者なら、自らの魔力回路を断たれ、立つことすらできなくなる。



 だが。




「おっと、おっと。

 なんでっすかね? 効かないっすね」




 ブラックソルトが、一歩踏み込む。



 ズレていた空間が、音もなく元へ戻った。



 ティタインの笑みが、少し深くなる。




「ちし」




 ブラックソルトは剣を抜いた。



 重い音。



 だが構えは静かだった。



 力任せではない。  

 無駄がない。



 まるで長年、実戦だけで研ぎ澄まされた型。




「単純明快っすよ」




 ブラックソルトは言う。




「“虚無”」




 次の瞬間。



 地面を蹴る。



 爆発的だった。



 巨体に似合わぬ速度。



 一歩で間合いを潰し、剣が振り下ろされる。



 ティタインは笑ったまま後ろへ跳ぶ。



「トシ」


「クルッポー」




 黒い羽が舞う。



 瞬間、ティタインの片目がカラスのものへ変わる。



 視界が分割される。



 上空視点。



 死角の補足。



 未来予測に近い空間把握。



 それがトシの能力だった。



 ティタインはその能力を“分割”し、自分へ接続している。



 さらには――。




「ブシ」




 水が爆ぜる。



 庭中の水分が一斉に持ち上がり、巨大な顎となってブラックソルトへ襲いかかった。



 だが。




「消去っす」




 ブラックソルトが剣を振る。



 その瞬間、水が消失した。



 斬ったのではない。



 霧散でもない。



 “無かったこと”になった。



 ティタインの目が細まる。




「どゆこと? 

 あ、能力そのものを打ち消してるし」


「さすがっすね」




 ブラックソルトは止まらない。



 踏み込み。



 横薙ぎ。



 突き。



 一撃一撃は荒々しいのに、奇妙なほど理に適っている。



 ティタインは軽やかに避け続ける。



 その動きは踊りに近かった。




「シツジ」


「承知しました」




 鍵が鳴る。



 カラン。



 空間の一部が封鎖される。



 見えない檻。



 座標固定。



 侵入禁止領域。



 シツジの鍵は“管理”の力。



 この家そのものの法則を操作する能力。



 ブラックソルトの足元が止まる。



 拘束成功――のはずだった。



 だが。




「御免」



 ブラックソルトが前へ出る。



 鍵の拘束が砕けた。



 否。



 “無効化された”。



 シツジが初めて眉を動かす。




「……管理権限を消した?」


「さあ、どうっすかね?」




 ブラックソルトは鼻を鳴らす。




「邪魔だったから、無くしただけっすよ」




 ティタインはそこで、ようやく着地した。



 楽しそうだった。



 心底。




「すごいし」




 ブラックソルトは剣を肩へ乗せる。




「そりゃどうもっす」


「本当に魔力ないし?」


「ん~そうっすね」


「なのに能力は使えるし」


「生まれつきだ」


「変わっとるし」


「師匠にも言われたっすよ」




 ティタインは、少しだけ黙った。



 そして。



 笑う。




「ちしし」




 次の瞬間。



 空気が変わった。



 トシが羽を広げる。



 ブシが水中から完全に姿を現す。



 シツジの鍵束が、一斉に浮かび上がる。



 ティタインの周囲で、三つの能力が同時に分割されていく。



 視界。



 暴力。



 管理。



 それらが混ざり合い、彼女の中へ流れ込む。



 金色の髪がふわりと浮いた。



 ブラックソルトは目を細める。




「……いいんすか?」


「ティタインは監視役だし」




 少女は笑う。




「強くないと……困るし」




 瞬間。



 消えた。



 ブラックソルトの視界から。



 否。



 認識そのものがズレた。



 上から。



 横から。



 背後から。



 三方向同時。



 ティタインが現れる。



 ブラックソルトは直感で剣を振った。



 轟音。



 衝撃。



 石畳が砕け飛ぶ。



 だが。




「よっこいしょ」




 ティタインの指が、ブラックソルトの肩へ触れる。




「分割」




 その瞬間。



 ブラックソルトの剣と身体の“繋がり”が断たれた。



 感覚が消える。



 握っているはずなのに、自分の武器ではない。



 脳と肉体の接続がズレる。



 常人なら発狂する。



 だが。


「――無効」




 ブラックソルトが呟く。



 世界が戻る。



 ティタインの指先が離れた。



 初めて、彼女の目に驚きが宿る。




「今のも消すし?」



「そうっすね」



「……ぷふ、おもすろ」




 沈黙。



 夜風だけが流れる。



 そして。



 ティタインは、ゆっくり笑った。



 今までで一番。



 楽しそうに。




「合格候補、初めてかもしれんし」




 トシが低く鳴く。



 シツジは静かに目を伏せた。



 ブシは水面を揺らす。



 誰も口にはしない。



 だが理解していた。



 この男は異物だ。



 この世界の法則から外れている。



 だからこそ――。

 ティタインは興味を持った。




「おいブタ、間違えたし。

 ブラックソルト」



「ん? なんすか?」



「次は、本番だし」




 門の奥。



 さらに深い場所。



 スーペリアの中核へ続く道が、静かに開いていく。



 そこから漂ってくる気配は、先程までとは比べ物にならない。



 濃密な魔力。



 圧力。



 歪み。



 まるで世界の深淵そのもの。



 だがブラックソルトは怯まない。



 剣を担ぎ直し、鼻を鳴らす。




「彼女の言葉を借りるならば……。

 『望むところだ』っすかね?」




 ティタインは振り返る。



 その笑みは、子供のように無邪気で。



 同時に、天災のように危険だった。




「じゃあ――遊戯の時間だし」






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