表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
プロメテウスの火を求めて   作者: 藤村 としゆき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/6

第4話 無言の追跡者


 トラックが路肩に停車している。その脇を、古戸ふるとの車が猛スピードで通過した。


 その直後、トラックのエンジンが、うなりを上げて発進する。スピードを上げて古戸の車を追跡し始めた。


 ──


「古戸さん! さっきのトラックが、すごいスピードで追ってくるよ」


「やはり追手か。君たち、掴まっていろ」


 トラックがすぐ後ろまで迫っている。古戸はアクセルを踏んだ。

 車は加速し、あっという間にトラックとの距離が開く。


「この車に、パワーでは勝てんさ」


 古戸は、誇らしげに言った。だが、数秒後、バックミラーにトラックの姿が見えた。


「馬鹿な……!?」


 古戸はさらにアクセルを踏む。車間距離が開くが、トラックがすぐに縮めてくる。


 前方に、停車している一般車が見えた。古戸は、素早くハンドルを切り、ぎりぎりでその車のそばを通過した。


 サトルは振り向いてリアウィンドウ越しに後ろを見た。トラックは停止車両に激突して火花を上げた。停止車両は道路わきにふっとび、トラックはそのまま進んでくる。


「うわあ、あいつ、まともじゃないよ」


 トラックはぐんぐん迫り、古戸の車のリアバンパーに体当たりすると、車内が揺れた。


「きゃあ!」


「やりやがった!」


サトルとマキは、悲鳴をあげた。


「こっちをスピンさせる気だな。見てろ」


 古戸はハンドルを切り、車を左右に振って、トラックの体当たりをかわした。だが、トラックもその動きについてくる。


「なんて反応の速さだ。人間業とは思えん。」


 2台は田舎道を疾走する。前に『高笠巣峠こうかさすとうげ』の案内標識が見えた。


「ついにここまで来た。だが、やつを何とかしないと。サトルくん、運転手の顔は見えたか?」


「見えない。この位置からじゃ、見えないよ」


 2台は峠道に入った。曲がりくねった道路を猛スピードで進む。急カーブを曲がると、後部座席のサトルとマキは、左右に転げた。


 だが、トラックは後輪が滑ってガードレールにぶつかっても、スピードを緩める気配はない。 


「見えたよ、古戸さん。運転席が」


 またトラックが体当たりした後、サトルが言った。


「どんなやつだった?」


「誰もいない。誰も乗ってないのに、ハンドルが動いてるよ」


「あたしも見たわ。誰もいないのに、どういうことなの?」


 マキが叫んだ。


「完成していたのか。『オリュンポス』社が開発したAIの自動運転だ」


 古戸は、舌打ちした。


「自動運転?」


「やつは、正確無比なマシーンということだ。人間と違って、死を恐れることもなく、あきらめることもない。……来るぞ」


 トラックは横に並び、幅寄せしてきた。古戸の車は、山側の岩肌とトラックに挟まれて、火花が飛び散った。


「ぐっ……、潰される!」


 古戸は、ハンドルを素早く切った。

 車が大きく傾き、片輪走行になった。そしてそのまま、岩肌を道路の代わりにして走る。


 「きゃあ!」


 サトルとマキは、傾いた車の後部座席を転がり、ドアの内側に叩きつけられる。サトルはマキの下敷きなった。


「いてて……」


「サトルくん、どこ触ってんのよ!」


「違うよ、マキちゃ……」


 マキの平手打ちが飛ぶ。

 車は加速して、トラックの前に出た。サトルたちも、倒れるように水平に戻った。


「危なかった。しかし、このままではやられる」


「古戸さん。さっきから見てて気づいたんだけど」


 頬をさすりながら、サトルが言った。


「何だ? サトルくん」


「古戸さん。俺の言う通りに車を動かして!」


 トラックが、次つぎとまた体当たりしてくる。しかし、古戸の車は、それをことごとくかわした。

 

「次は左だ! 古戸さん」


「次は右から来る!」


 サトルは、『予知』の能力を使って、古戸に指示を出していた。AIの正確で素早い反応よりも、サトルの予知が一歩、上回った。


 「こっちだ」


 古戸はハンドルを切り、横道に入った。


「この林道が、『高笠巣山』への道だ。ここからは未舗装だ。揺れるぞ!」


 荒れた道を飛ばす。トラックも、後輪をスライドさせ、当然のように林道に入ってくる。


「しつこいやつだ」


 勾配こうばいがきつくなってきた。上り坂なら、トラックは不利だろう。3人は後ろを見た。

 だが、トラックは、それまでと変わらずにパワフルに追ってくる。


「くそう。このままでは…」


「大丈夫だ、古戸さん。俺の言う通りにしてくれ」


「サトルくん? どうする気だ」


 2台は、林道の未舗装路グラベルを走る。道中のカーブは、これまでの峠道よりいっそう急で、道幅も狭くなっている。ただ走るだけでも危険な道だ。


 だが、AIが運転するトラックは、そんなことはお構いなしだ。道路のマップはすべて把握している。オーバースピードでコースアウトすることはない。


 たとえ深夜で、ヘッドライトがなくとも走れる。


「まだ。まだだ、古戸さん」


 サトルはフロントガラス越しに前を見ながら言った。


「よし、ここだ。ここでアクセルを全開にして。そして、次のカーブで外側、崖側に車を寄せて曲がるんだ」


「何だって? サトルくん。危険すぎる。一歩間違えれば、崖下に真っ逆さまだぞ!」


「俺を信じてくれ」


「サトルくん……!」


 マキが、サトルに抱きついた。サトルもマキの肩を抱いた。


「……わかった」


 古戸が、スピードを上げた。トラックも、それに追走する。カーブが目前に迫る。カーブの先は見えない。


 古戸がカーブのアウト側の、崖側にコースを取る。コースアウトしないぎりぎりだ。トラックのAIは、イン側の、山側のコースを選んだ。


 2台がほぼ同時にカーブを曲がり切ると、内側の、トラック側の目の前に、落石があった。かなり大きい岩だ。

 古戸の車は、外側でぎりぎり岩をかわしたが、トラックは避け切れずにそのまま岩に突っ込んだ。


 衝撃で、トラックの車体が、大きく飛び跳ねた。そのまま、勢い余って宙を飛んだ。


 古戸がブレーキを踏むと、砂煙を上げてスピンし、道の端ぎりぎりで停車した。3人とも、あわてて外に出た。


 トラックが、咆哮ほうこうをあげて崖下に落下していくのが見えた。やがて轟音を立てて地面に激突し、炎上した。


 3人とも、その様子を声もなく見つめていた。オイルの焼ける臭いが漂ってくる。


「あの岩、最近の落石なんだ。AIは、あそこに岩があるのを知らない」


「サトルくんは、予知で見えてたのね」


 ──しばらく3人は崖下を見ていた。やがて、古戸が口を開いた。


「行こう、2人とも。もうすぐだ」


 ボロボロになった古戸の車に、3人は乗り込んだ。ドアが歪み、フロントガラスも割れている。


 ──しばらく走ると、林道は行き止まりになった。


「車で行けるのは、ここまでだ」


 全員、車を降りた。林道の脇に、『高笠巣山 登山道』と書かれた木の板がある。


「こっちだ。この道を行けば、30分ほどで山頂だ。サトルくん、杖を忘れるな」


「古戸さん、なんか、杖がうっすらと光ってるような……」


「目的地に近づいてるってことだ。行こう」


 古戸を先頭に、登山道を行く。しばらく歩くと、サトルとマキは息が切れたが、古戸は涼しい顔をしている。日は、すでに傾きかけていた。


 「ここだ」


 狭い登山道から一転して、開けた場所に出た。山頂だ。だが、木々に囲まれて、見通しは悪い。木々の一方だけが開けて、遠くの街並みを見下ろせた。


「杖がさっきよりも強く光ってる……!」


「約束の場所と時間が近づいている証拠だ。あとは杖を然るべき場所に差し込むだけだ。だが……」


「だが、何?」


「お出迎えだ」


 木々の影から、黒服の男たちが表れた。


「ここまでご苦労だったな」


 黒服のうちの1人があざけるように言った。


「貴様らもな」


 古戸が言い返すと、黒服の集団が左右に分かれた。その間から、1人の男が歩み出た。


 奇妙な格好をした老人だった。

 白髪の巻き毛で頭は覆われ、あごにはこれまた白く長いひげを蓄えていた。

 古代ギリシアのキトンを身にまとい、その裾から見える足には、金色のサンダルを履いていた。


「久しぶりだな。ハデス」


 老人が、古戸に向かって言った。


「ああ……。兄さん」


 古戸が答えた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
古戸さんのドライビングテクニックもすごかったけど 追手がそうと知った時は ファ?!と言いたくなりましたよ 結構ハラハラしました。
なんか 読んじゃった カーアクションお見事! そして最後のセリフがびっくり 思わず ファ?と言ってしまいました
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ