第1話 古の導き
『神に逆らうなど、この不届き者が!』
雷鳴のような声が響いた。
『汝の罪、永遠の苦しみで贖うがいい!』
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──サトルはベッドから跳び起きた。
「……また、あの夢か」
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「じゃ、行ってきます」
父親の遺影に手を合わせてから、サトルは制服に袖を通し、玄関を出た。
──途中、公園のベンチに座って、サトルはため息をついた。
「父さんが死んでからもう3年か。最近、あの夢をよく見るようになったな」
サトルが地面を見ていると、人影が目に入った。
「よう、ヤマカン。何をたそがれてるんだよ」
サトルが顔を上げると、同じ高校のクラスメイトと、取り巻きが2人いる。
「倉戸か。なんか用かよ」
ヤマカンというのは、倉戸がサトルを呼ぶあだ名だ。サトルがテストでヤマカンがよく当たるから、ということだ。
「それにしてもサトル。お前、よくヤマカンが当たるよな。テストの問題、知ってんじゃねえの?」
「またその話かよ。お前もしつこいな」
「俺にも教えろよ。ヤマカン」
「知らないって言ってるだろ」
「この野郎! ヤマカンのくせに」
倉戸は、いきなり殴りかかってきた。だが、サトルは、倉戸が動く前に、すでに体を動かしていた。倉戸の拳は、宙を切る。
子供のころからできる、サトルの能力だ。わずかに先の未来が見えるのだ。
再び倉戸が放ったパンチを、難なくかわし足を引っかける。倉戸は前のめりに倒れて、地面にキスをした。
「この野郎! おい、お前たち」
口の砂を拭いながら倉戸が叫ぶと、取り巻きの2人が駆け寄って加勢した。
サトルは、その能力で、1対1の喧嘩では負けない。しかし、3対1では限界がある。倉戸と取り巻きの3人がかりで殴られた。
「さっさと言えよ! でないと……」
倉戸の振り上げた拳が、空中で静止した。誰かが、腕をつかんでいる。
「誰だ!?」
倉戸がふり向くと、見知らぬ中年男が立っていた。紺色のスーツに身を包み、ワイシャツにノーネクタイだ。
男は、倉戸を見て言った。
「若いときはケンカもするだろうが、3対1とは、多勢に無勢じゃないか。もうそれくらいにしたらどうだい?」
「何だと! おっさん……」
倉戸は、男の手を振り払った。
しばしの間、にらみ合うふたり。だが、中年男の眼光の鋭さに気圧され、倉戸も取り巻きの2人もひるんだ。
「けっ……。今日はこのくらいにしといてやる!」
捨て台詞を吐いて、倉戸たちは公園を出て行った。途中、子供のサッカーボールを、あらぬ方向に蹴り飛ばした。
「やられたな」
男は、サトルを助け起こした。
「倉戸のやつ、いつも、やたらと絡んできてさ。あいつ、父親が大企業に勤めてるって、自慢してるんだ」
「もしかして、『オリュンポス』の、日本支社か?」
「よくわかったね、おじさん。そうなんだ」
──『オリュンポス』社。
それは世界的な超巨大企業だ。時価総額は某国の国家予算を超え、社会インフラのすべてを牛耳ってる。通信、金融、医療、物流、エネルギー等々。
最近は、AIの開発にも力を入れている。日常生活で、この会社の関わらないものはない、というほどだ。
「私も、かつてオリュンポスに勤めてたんだ。リストラされたけどね。それはそうと、サトルくん。君に話があって来たんだ」
「え、おじさん。俺の名前を知ってんの?」
「私は古戸だ。もちろん知ってるよ、神田 悟くん」
「古戸……。で、話って?」
「サトルくん。君は、これから、ある時、ある場所に、ある物を持って、ある人と一緒に行かなければならない」
「え、ええ? な、何で?」
「そうしないと、人類の文明は崩壊してしまうからだ」
「はああ? 古戸さんだっけ、何言ってんの」
「私がそこへ導く。一緒に行こう」
「ええ? 行くわけないじゃん。文明が何だって? そんなこと、信じられないよ。助けてくれてありがとうだけど、行かないよ」
「行かないのかね?」
「あのね。今どき、未成年を連れまわしたら、誘拐だよ?」
「でも、文明が崩壊するよりはいいだろう」
「まだ言ってんの。じゃあ、俺もう行くよ。さよなら」
足早に立ち去るサトルを、古戸は立って眺めていた。
公園を出たところで、車道に黒塗りの高級車が停車するのを、サトルは見た。車の中から、3人の黒服の男が飛び出した。
先頭の男が、無言でサトルを捕まえようとする。だが、サトルはひらりと身をかわした。男の動きの一歩先が見えているからだ。
「何だよ! あんたら」
男たちは応えない。最初の男と、他の2人も別々に掴みかかってくると、動きを読み切れず、サトルは腕を掴まれてしまった。
「何すんだよ。放せ!」
男2人がサトルの両脇を掴み、1人が黒塗りのドアを開け、中に押し込もうとした。
「おい」
いつの間にか居た古戸が、ドアを開けた男の頬桁を殴り飛ばした。男は、ドアの枠に頭をぶつけ、倒れた。
残る2人のうち1人が、サトルから手を放して、古戸に向かった。もう1人はサトルを保持している。
男の1人が古戸と格闘するが、歯が立たない。
その隙に、腕を掴んでいるもう1人の男に、サトルは肘鉄を喰らわせた。男は、前のめりになってよろめいた。
「このガキ!」
男は何度か拳を振るが、サトルには当たらない。
古戸が2人目の男も倒すと、最初の男が起き上がり、上着の懐に手を突っ込んだ。
「あっ!」
サトルが声を上げた。
男は拳銃を抜くと、古戸に向けて撃つ。さらに2発の銃声が響いた。
「古戸さん!」
サトルが叫んだ。




