第3章 神風兄弟
更新遅れました。申し訳ないです・・・orz
中間テスト真っ只中。科目は苦手な英語。未璃だけではなく、誰もが嫌い、ペン先は進むことが少ない。両手で頭を抱え、苦しく悩み続けている時、斜め向かいに寝息を立て、すやすやと気持ちよさそうに夢の世界へ飛んでいる蓮を見た。
テストが始まって25分。終了まで後35分はあるというのに、彼は構わず答案用紙を机の中に置いている。
(諦めたのかな)
いつまでも彼に気を向いている訳にもいかない。再び彼女は集中し直し、問題文をひたすら読み続けた。
第3章
数日後の、テスト返却日・・・。
皆に恐怖を絶望を与えるそれは、今日、クラスの全員の下へ返された。誰もが頭を抱え唸りを上げている中、ただ1人無事平然といられる男がいた。
「何ぃ?! 蓮が満点だとぉ!」
誰もが反対をした。この英語以外は大した点数ではなのに、英語のテスト中昼寝をしていたのに、100点を記録するなど信じられるわけが無い。クラスのみんなが蓮の机を取り囲んだ。
「どういうことだ! お前カンニングしたろ!」
「いや、していないけど」
「じゃぁなんでだよ! お前が満点取れるんだよ!」
まるで蓮に満点取れるはずがないと言いたげな台詞だった。
確かに蓮は頭があまり良くない。だが、賞金稼ぎをはじめた頃から国外の賞金稼ぎと接する機会が増え、自然と英語だの中国語だの他国の言葉を理解し、話せるまでになっていたのだ。そのお陰で英語のテストのみ100点を繰り出したのだった。
だが、やはり彼自身の正体を明かすわけにはいかない。とりあえず「おっ俺、昔アメリカに住んでたんだよ」と言い訳してみた。
「うっそー! 連君帰国子女だったの?」
「すげー。アメリカのどこに住んでたんだ?」
思っていたよりすんなりと理解をしてくれたようだ。
だが、安心したのも、つかの間のことである。
日当たりが悪い。家の窓から覗けるのは僅かな太陽光とそれを遮るように聳え立つビル。そんなジディの家で祐介と二人、オセロをやりながら(最近彼らのブームらしい)のんびりと会話をしていた。
「・・・で、最近どうなんだ。仕事は」
そう問いかけながらジディは黒い駒をボードへ置いた。ひっくり返したのは三つ。祐介は眉を寄せた。
「ん・・・まぁ悪くも無いらしいぜ。学校の友達とはそれなりの距離を置いて仲良くしてるらしいし、<あの娘>とも一応会話できる程度の関係を保っているらしいっ・・・よ」
祐介が置いた白い駒がボードの角を取り、今度はジディが顔をしかめた。
「むぅ。高校かいな。連は何だかんだ、お前さんより辛い人生を送ってきたからな。あの子にとって、高校は良い思い出にでもなるだわさ。ほれ」
見事に反撃を成功したジディに祐介が怯む。
「何年まえだか・・・。親に捨てられて街を這いずり回ってた時、あんたに俺ら兄弟は拾われた。いつまでもあんたの世話になるわけにはいかない。だから俺たちはあんたの力を借りつつ、賞金稼ぎとなった。ってね」
駒我いくつか白へひっくり返されるがジディが顔色変えずに続けた。
「わしは普通の仕事を探せばいいと進めたんだがなぁ。わしらの様な<裏の仕事>に手を出したら将来の安全は保障されんぞ」
「でも俺達は誓ったんだよ。金をいっぱい集めて、強くなって俺達を捨てた親を捜し出して・・・そして―――」
「復讐は悲しみと苦しみを生むだけだ。良い事なんざこれっぽっちもないんだぞ?!」
一瞬だけ、一瞬だけ祐介の瞳が本気であった。だが―――。
「なぁーんっちって! 冗談だよ! びっくりした?」
目を大きく開いて舌を小馬鹿に振った。ジディは安堵ため息と共にトドメの駒を置いてボード上を黒駒色に染めてやった。
「あっ、ジジィ! 何しやがる!!」
「年寄りをからかうお前さんが悪いんだわさ。肝に命じとけや」
オセロを片づけてソファーにどっしり座り直す。そこで祐介は本音を吐いた。
「あいつが、連にはほんと悪いと思ってる。まだ小6だったあいつを俺は巻き込んじまった」
「何もお前が悪いわけじゃないわい。とはいえど、頭脳派のお前は弟のバックアップ。結局お前は弟に助けられてるんだよ。皮肉だねぇ」
「俺は連に通わせる事ができなかった高校生活を味わって、楽しんでもらいたい。だからこの仕事あいつには監視のみ、そのほかの仕事は俺が片づけてるんだ」
体を起こし直し、メガネをクイッと手慣れた手つきで持ち上げる。
「所で、あの娘はなんで監視されなきゃいけないんだ? ジディ、依頼者はあれ以来来てないのかよ」
「いや、こないだ一度わしの所へ訪れてな。調子はどうか、と聞いて帰ってしもうたわい」
今神風兄弟は身元不明の人物から依頼を受けている。仕事に支障は差ほど無いが、こちらとて依頼人の情報ぐらい知らないわけにはいかない。下手をすれば依頼人の裏には自分達のような賞金稼ぎが関わっている、なんて事も少なくない。
ジディは何度か面会していても本人達が直接会わないとやはり不安なところがあるのだ。
「じゃぁ今度そいつが来たら俺を呼んでくれ。そいつと会って話さないとわかんない事なんていくらでもあるし」
それは6時限目の頃である。
普段と変わらぬ風景の中で普通の高校生のように授業を受けていた頃だ。連は苦手な数学に頭をフル回転で集中をしていたのだが、どうしても解けぬ難問についに屈してしまう。それを察した未璃は斜め後ろの席から声をかけた。
「あ、またこの問題解けないの?」
この所2人は気兼ね無く会話ができている。気が付けば彼女から話しかけていた。
「俺、数学苦手だから・・・」
「しょうがないなぁ、ほらノート見せて」
彼女の言う通り、解き途中のノートを見せ丁寧に説明をうけた。その2人の姿を見れば誰もが2人の関係を勘違いしなくもない。
遠くの席から愛梨は未璃の微笑む顔を見て安心をした。
未璃家庭の事情故になかなか笑顔を見せなくなっていた。
だが、連が彼女の前に現れてから今まで、彼女の頬が次第に緩んでいっていたのだ。
(みーちゃん、よかったね・・・)
愛梨は2人をそっと応援をしている。これからも友達でいられること。そして、それ以上になれることを・・・。
そんな時だった。
連の何年も鍛え上げられた人並み越えの動態視力を備える瞳は、その小さく、赤く不自然に輝く光を捉えていた。そして、それが伊崎未璃の額に浮かんでいたのも。
瞬時に判断した。連は突然未璃を抱えながら倒れ込んだ。机にぶつかろうが周囲が驚こうが構うはずがない。連はたった今、賞金稼ぎ(バウンティハンター)としての機能が働いているのだから。
「全員頭を伏せろ!!」
だが連の叫んだ言葉に従う者はこのクラスにいなかった。皆がざわざわと騒ぎ始め、教師も連の不審な動作さに不安を覚えた。
バウンティハンターと化した連は窓に寄って外をゆっくりと覗いた。さらにポケットに忍ばせてある非常用ハンドガンにも手を伸ばす。
間違いない。今さっき、未璃の額の上で浮かぶ赤い光の点はライフルのレーザーサイトだ。レーザーサイトはライフルなど長距離から放つ銃の弾を、より目標に的中させるための直進する光だ。
それが彼女に向けられたということは、未璃は何らかの人物、組織に命を狙われている事が証明される。
息を呑み、窓の向こうを確認する。そこには何らか人が居るはずだ。しかし、窓の向こうの別館屋上には人の気配が全くしない。
安心は出来ないがこのままこの部屋にいると未璃はいずれ殺されるだろう。そう考えた連は彼女の方を振り向いて、そこでようやく我に返った。
クラス中の視線は痛いものだ。しんっと静まり返ってしまったその場は非常に息苦しい。伊崎は絶句してこちらを見つめている。
もっともやってはいけないことをしてしまったと、気づいた頃には手遅れの連だった・・・。
第3章 神風兄弟
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