第2章 彼女の事情は
やばい・・・まだ完結してない・・・。執筆間に合うだろうか・・・(汗
「おっじゃまっしまーすっ!」
愛梨1人、元気良く挨拶をし、真っ先に奥のリビングへ飛び込んでいった。後を追うように控えめの挨拶を述べた男3人が部屋へ上がらせてもらった。高級マンションの中にある一つの家が未璃の自宅である。挨拶はするもの中から返事は無く、誰も帰っていない様子だった。蓮はスーパーで買った食品をキッチンに置いて、カレーの支度を手際良く始めた。
「伊崎ってこんなマンションに住んでたのかよ・・・知らんかった」
「すげぇ、天井高いしエレベーターあるし、警備システムまで・・・」
信也と亮はベランダから町を一望できる景色を目の当たりにし、感嘆の声を漏らしていた。自分の家でもないのにソファーへ無遠慮に座る愛梨は自慢げに話した。
「このマンションはねー、そんじょそこらのマンションなんかとは大違いだよ?」
「・・で、何であたしまで連れてこられてるのよ」
不機嫌そうな面をするのは、同じクラスの日下部沙紀だ。
「いいじゃーん、人数多い方がカレーはおいしんだよー」
「ふんっ、別にカレー好きじゃないし」
沙紀は下校時に愛梨に見つかり、ほぼ強制的に勉強会に連れて来られたのだ。そのせいか彼女はイマイチ機嫌があまり好くないだろう。
「じゃぁ勉強しようよ、もう来年で受験生だし」
未璃の一言によりようやく勉強が執り行なわれた。その間、蓮1人台所に残りカレーを作っていた。
1時間以上が経過した頃だった。問題集に顔を寄せ眉が強ばっている亮は突然大声を上げて絨毯に寝そべった。
「あーっ! もう無理だ、こんな問題できねぇよぉ」
「お前ほんと数学苦手だな。どうすんだよ来年」
亮に言われからだを起こして「俺は来年より今だ! 今を楽しむんだっ」と現実逃避をした。それを見ていた未璃がそろそろ時間だと思い、夕食にしようと持ち掛けた。夕食にすれば、少しは亮の気分転換にでもなるだろうという計らいでもあった。
「えっと、神風君だよね。カレー出来てる?」
「今ちょうど完成したところ」
すると沙紀が台所へ向かって蓮のカレーを覗き始めた。
「へぇ、上手いわねあんた。ま、味は知らないけど」
彼女は元々毒舌気味であり、このように人を褒めて貶すことがある。だがそんな毒舌に惑わされず、蓮は小皿にカレーをよそい口に運んだ。無視をされてイラッときた沙紀はさらに毒舌を続けた。
「そもそも、なんでカレーだなんてガキくさいもん作ることになってんのよ。もっと大人な料理作りなさいよ」
勝った、と思わんばかりの目付きで蓮を睨む。それでも蓮は無言のまま味を確認すると、頷いて火を止めた。無視をされて頭にきた沙紀は手を伸ばして蓮の頭を力尽くでこちらに向けた。抵抗する事無く蓮の瞳が自分に向いた。
「ちょっと、あんた聞いて・・・っ」
言いかけた言葉が喉の奥で詰まってしまった。何故か思考が急停止し頭の中が真っ白に包まれ、ただただ蓮の瞳を見詰めてしまっていた。蓮の瞳から写る自分が頬を赤く染めていたのに気がつき、我へ帰ってきた沙紀は手を下ろして視線の向けばの無さに戸惑っていた。
「おい」と呼ばれて噛みつつも返事をして視線を再び蓮へ戻した。すると蓮の手が口に向かって伸び、何かが口内に侵入された。
「むぐぉ!」
変な声を上げると同時に手を引いた。口内に侵入した何かは、甘い香りが広がった。
「なっなひすんほ!(なっなにすんの!)」
「単なる苺だ。スーパーで安売りしてたからカレーの具材といっしょに買ったんだ」
「ほうはなひ!(そうじゃない!)」
苺を含みながら苺のように頬を赤く染める沙紀を眺めて未璃達は笑いを起こした。
「神風君面白いね。 沙紀もいちゃつける風に言わないの」
苺を食べ終わり恥ずかしさを声の大きさに変えて言い返した。
「うるさい! それにお前、いきなり何するの!」
「空腹そうだったから苺を食べさした」
「はぁ?! あんた正気!? 女の子になんてことすんのよ!」
「甘くなかったか?」
「ちっがぁぁぁうっ!!」
会話が成り立たないことに苛立ちを通り越してもどかしさを覚えた沙紀だった。
カレーをテーブルに並べ、行儀良く手を合わせた。一言を言うと同時に皆がスプーンを握った。出来たての香りが勉強で空腹にさせた胃をくすぐっていた。
「・・・うめぇ。 これ超美味い!」
「すっごーい、お肉軟らかーい」
一口食べただけで口の中に広がる香りとまろやかさ。辛さはちょうどいい中辛で、市販のカレー粉を使用しただけなのにその出来はプロ並みである。
「牛肉は圧力鍋を使ったからすごくやわらかくなってるだろ。それと特製スパイスを混ぜて・・・」
蓮は嬉しそうに自らの技術と自慢のテクニックを長々と話した。そんな話は無視してカレーを食べる亮は、ふとある事に気付き蓮の説明を割って入って未璃に訊いた。
「伊崎の家って親はどこにいんの?」
その質問をした瞬間、その場の空気が氷の様に凍てつき未璃と愛梨の口元まで運んでいたスプーンが動きを止めた。何故だか、2人の緩やかだった表情は、いつの間にか硬く強張り視線を下に下ろして暗くなっている。
「ど、どうした・・・?」
声をかけても返事は無く、答えられないようであった。
「おい、2人とも・・・」
言いかけたところで、俯いていた愛梨が答えた。顔を上げて無理やりの笑顔で。
「ごめん、それは聞かないで。人それぞれ、家庭の事情は結構複雑でしょ? 他人にそんなことを―――」
愛梨を制するように俯きながら未璃が「愛梨、いいよっ」と言った。何故か力がこもり気味でもその声は、声が枯れているようである。
「私のお母さんね、年前に急病で亡くなったんだ。5年前に病気で死んじゃったの。お父さんはショックと苦しさから仕事も失敗してヤケなギャンブルで作った借金を残してどっか行っちゃったんだ。それでも私達は保証人になってたお姉ちゃんと2人で頑張って生活してた。私にとってお姉ちゃんは姉妹であり、お母さんであり、お父さんでもあったんだよ。すっごく優しくて、綺麗で、頭も運動神経も良くて、私の憧れ。そんなお姉ちゃんが私は大好き」
次々と未璃は自らの過去を開かしていった。その姿は仕組まれたロボットが冷たく、淋しく語る様である・・・。
「・・・でも、そのお姉ちゃんまで、2年からこの家に戻って来なくなっちゃって・・・。連絡も一切取れないけど、私はまたお姉ちゃんと一緒に暮らしたいんだ・・・」
話を終えた頃、何とも言えない物苦しい空気に包まれていることに蓮は気付いた。楽しく食べていたカレーも今となっては味も美味に感じられなかった・・・。
気がつけば時刻は8時。亮と慎は「門限がある」とでも誤魔化し、部屋から去った。言わずとも明らかにその空気から逃れるための言い訳だったのだ。また、沙紀も塾があると言い出て行ったが、どうしてもただ、この冷たく冷え落ちた場から避けたいというようにしか、蓮には思えない。
結局、蓮と未璃、愛梨が残って片付けをすることとなった。変わることのない静けさを保ちながら・・・。
蓮が食器を洗っている頃だった。片付けを始めた後、暫くの間見えなかった未璃が蓮の隣へ姿を現した。無言のまま彼女は蓮が重ねた食器を拭き始めた。
「・・・さっきはありがとう」
「何の事さ」
「さっきの話。あの話をすると哀れな瞳で私を見るようになるんだ。話をしたその後は可哀想に慰めの言葉をかける。私、それが大っ嫌いなんだよね。お母さんが死んじゃったからって悲しくなんか無いし、お父さんが借金残してどっか言っちゃったからって慰めの言葉なんかいらないよ。―――だって、私にはお姉ちゃんが居るんだもん。今はきっと仕事が大変だから連絡もよこせないだけで、すぐに帰ってくるんだもん」
彼女の頬には涙を流した跡が残っており、それは蛍光灯に照らされて綺麗に輝いていた。
「でもね、愛梨と蓮君は違った。他の人とは違う今まで通りの眼差しで私を見てくれてた。私、何だかそれがうれしかったんだよねぇ。・・・変だよね、こんなの・・・」
無理やりの笑顔をつくって彼女は、「ごめんね。気にしないで?」と言い涙でくしゃくしゃになりそうな自分を隠すように、蓮の目の前から消えた。
「うれしかった」と伊崎に言われた一言。今まで誰に言われても何とも思うことなどは無かった。だが、彼女言いわれたその一言は、蓮の心の中を揺さぶる何かが含まれていたのだ。この17年間で一度も味わうことがなかった感覚に蓮はどうすればいいのか分からなくなってしまった。
(俺、信頼されてるのか?)
ドアのノブを握ってゆっくりと回す。ドアは素直に開いて我が家へと帰宅した。
音で気づいたのだろうか、兄・祐介が顔を出して迎えた。返事をして靴を脱ぎ、一歩踏み入れた瞬間ーーー先ほど自力で立っていたのが嘘かのように廊下に顔をから倒れた。
急に全身から力という力が失せ、魂のない抜け殻のような鬱らな目でそれを理解していたが、受け身をとる力すら湧かずに額を強く打ちつける。
「何だ、どうしたぁっ!?」
それに驚いて祐介はご飯のシャモジを握ったまま駆けつけた。
「全身の筋肉に力が入らない・・・。悪いけど、水をくれ・・・」
祐介は素早く水が入ったコップを持ってきて指先を痙攣させながら手を出した連に渡した。横になってるまま飲むものだからコップに入っていた水の半分は連の口から頬へと伝ってこぼれる。お構いなく水を飲み干した。
「何だよ、急に倒れて。高校で何かあったのかよ」
連は仰向けになり、祐介へ話した。
「・・・高校ってのは面倒なところだな。勉強を毎日のように教えてもらって、終わったと思ったら今度は家に帰って勉強だの部活だのと・・・。たったの一日だったが、これほど面倒な仕事だとは思わなかった」
「んなこと言うなよぉ。お前の仕事は伊崎未璃の護衛だけなんだからさ、勉強とか、授業とか、どうでもいいんだよ。何も本当に高校生を演じろっていってる訳じゃないんだしさぁ?」
先ほどの台詞に似合わない、頬を緩ませたまま連は話した。
「いや、俺は仮とはいえ一応高校生だ。それに勉強をしなければ護衛以前に退学になってしまう。彼女の側を離れるのでは依頼を未完遂どころか、借金全額返済も出来ない」
「・・・なんだよ、初めての高校生活楽しめそうじゃんか」
「来週には中間テストがあるそうだ。今日から勉強しないと赤点を取ることになるかもしれない。英語はいいんだがそれ以外はさっぱりだな・・・」
(何だかんだで、行けなかったはずの高校に通うことが楽しかったんだな、連・・・)
「顔、トロけてるぞ」
はっとして頬のあたりの筋肉を触ってみた。知らぬ間に緩んで笑みであったことをようやく知ったのだ。次第に彼の頬は紅潮した。
「ところで飯は?」
頬を引き締まらせ普段の表情に戻して答えた。
「食べてきた。今日はいらない」
するともったいなさそうに「えーっ、何だよ。せっかく朝の残りとはいえ飛騨牛のステーキが食べれたのにぃ。極上の。結構高かったんだぜー、確か10万くらいしたっけなー」
親に「駄目」と叱られた小学生の様に口を尖らせ部屋へと戻る。その背後には今朝から昼の出来事までを思い出した連が、自力で立ち上がり、自慢のハンドガンをリロードしている音にも気づかずに・・・。
・・・その後、家計が苦しい時期無駄なものを買った兄は弟にこっぴどく叱られたことは・・・言うまでもない。
第2章 彼女の事情は 完
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