閑話 魔女の思惑
「何やら人族の国で楽しく遊んでいたと眷属どもが騒いでいた。我が最愛の妻は、我を放っても平気なのか? このまま浮島に閉じ込めて出すのは辞める」
そう言って妾を力任せに抱くのは、最愛の夫、大陸の秩序を守る古竜ディシェディル。透き通る白い髪、陶器の様な白肌に紅玉の様な真っ赤な瞳を持つ、この世で一番の美丈夫だ。
ここは夫が造った世界。今は二人となって狭い筈の浮島は随分と広くなった。
「何、妾が揶揄った者達が婚姻を結ぶ運びとなったゆえ、顔を出したまでの事。あやつらには龍脈で世話になったからな」
「ああ、面白い魂の者か。乳繰り合う様唆したそうだな。そなたにしては珍しい行いをしていたと思っていたのだ。結局どうなった? 」
「ふふ、あるべく姿を受け入れ収まった。あれは記憶が邪魔をしていたが元から女であった。でなければ、記憶が無くとも生まれた時から男らしく育っていただろう。元に戻してやったのだ」
「なれば、もう境界から出なくとも良くなったのか? 」
そう言って、最愛の夫は妾の首筋に顔を埋める。
「メノウィルバスを後ろ盾として送ったから、三百年程は平気だろう。お前様の体調も良くなり、淀みもある程度野に放つ事で楽になったのだろう? 少しは妾を構ってくれるだろうか」
「ふ、構うどころか我はそなたから離れぬ。倅も暫くは帰って来ないでよい」
「帰らぬどころか、あやつは番を見事迎えたのだ。乞うても暫くは帰らぬ。その内、自分の世界から出て来ぬ様になるかも知れん」
「それでよい。ここ数十年龍脈が淀んで気分が優れなかった分、我はそなたを愛でるのに忙しい」
「嬉しい事を言ってくれる。お前様の為なら何でも聞いてやろう。何が良い? 」
「そうだな……取り敢えずはそなたは一切も歩いてはならない。我の腕の中で眠り、我の腕のみで移動し、我の腕の中で笑っていると良い」
相変わらずの偏愛に、妾の唇は弧を描く。
竜種は悠久の時を生きる為に番への想いが強く、愛が偏執しやすい。
その歪んだ愛こそ、妾には愛しく、そして狂おしい程に切望する。
メノウィルバスも、あの王子の竜種の血が違え薄まろうとも、しっかりとその性質を受け継いでいるだろう。
「我に抱かれながら他の者の事を考えるなど、許されない。我が妻はどうやら放って置かれ過ぎて我の愛がどれ程の質量を持っているのか忘れたらしい」
そう言って妾の肩に歯を立てる夫の艶やかな髪を撫で、妾はもう閉じた境界の向こうへの思いを霧散させた。
あれらが重い愛に潰されねば良い。
魔女はアデリーネの本質と、ダリウスの偏愛を鑑みて肉体的接触を増やせば自覚すると思い、揶揄いに二人の距離を近付け、ダリウスはそれに気付いて乗っかった節があります。
ダリウスは元々の性質が、器の力に引かれて力を増した感じですね。
ダリウスは笑いながら周囲を威嚇して、自分の愛情を見せ付けます。邪魔者も笑いながらアデリーネの前だろうと潰します。それで彼女が怯えてもデロデロに甘やかして有耶無耶にします。
メノウは彩香の知らない所で邪魔者を排除し、彼女の目の前では素知らぬ体を取ります。表向きは穏やかな愛情を注ぎます。しかし、じわじわと自分一人の世界へと囲います。全て無自覚ですが。
どっちがマシでしょうね( ´_ゝ`)
10話で終わる筈がここまでお付き合いありがとうございます。題名詐欺もここまで来ればいっそ清々しいです。
本編は「ヒロイン彩香の場合5」で完結です。後は小話を数話書きたいと思います。読んで頂き、ありがとうございます。