2章第6話 友達
ラグズアークへ到着した頃、ラーズさんから少しだけこの街について聞いた。
幸いにもこの街は、冒険者が殆どで、冒険者ギルドが盛んな街らしい。勇者の情報を集めるにはもってこいかもしれない。
でも、少し前にアカツキが言っていた。冒険者は基本的に勇者を良く思ってはいないと。その辺に注意しながら、今は情報を集めるしかない。
猶予がどれだけあるかはわからない。だからこそ出来る限り早く……。
ラグズアークに着いた。王都とはうって変わって、どちらかというとミカーヴァに近い様相をした街並みだった。そこら中、冒険者で溢れかえっていた。
「よしっ、着いたぞ。すまないんだが、俺はこれ以上ここには居られなくてな。流石に時間の融通が利かなそうなんだ。クレハちゃんはレント、お前に任せる。お前なら出来るから……自信持って、絶対助けろよ!」
「はいっ! 今までありがとうございました」
ラーズさんと別れた後、俺は冒険者ギルドに隣接した食堂へ向かう事にした。
酒場もあるにはあるのだが、酔った人間にマトモな話が出来るかはわからない。なら、とりあえずは食堂に居る冒険者に話を訊く事にした。
食堂に着くなり、冒険者の人に勇者について訊いた。
「すみませんが、勇者についてお尋ねしたいのですが……」
「ん? なんだい兄ちゃん。と……その身なりは冒険者か。勇者に興味があるのか?」
「はい。勇者をちょっと今探してまして」
「なんだって勇者を探してんのかわからんが、俺は勇者の居場所は知らねぇな」
流石に最初から当たりは引けないか……。
「だが、勇者に関してならちょっと知ってるぜ」
「ホントですか!? 何でもいいので情報をください!」
今はとにかく勇者に関する情報が欲しかった。
「いいぜ。知ってるかもしれんが、勇者は冒険者を嫌ってる。俺が聞いた話によると、勇者が勇者になる前の幼い頃、両親を強盗に殺されたらしい。その強盗が冒険者だったそうだ。そのせいからか、俺達冒険者に関わろうとしない。それに今では、勇者の討伐対象である魔族に加えて魔物まで狩り始めたときた。こっちが狩って生活資金稼ごうとしても、下手すりゃ全部狩られてる、何て事もあるらしい」
「そうだったんですか……」
わかった事は二つ。一つは、勇者は冒険者を嫌ってる事。まぁ、親を殺されてたんじゃ嫌うのも無理はない。寧ろ嫌わない方がおかしい程だ。そしてもう一つは、勇者は最近魔窟の魔物まで狩り始めたという事。こちらはかなり有力なのではないか? とりあえず礼を言って場所を変える事にした。
「情報、ありがとうございました」
「ああ」
幸い何かを要求される事は無かった。あの人に聞いて正解だったようだ。まだ勇者の場所はわかってはいない。仕方ないが、次は酒場の方に行ってみるか。魔窟での戦闘終わりに寄っている冒険者が居そうなものだ。
酒場はやはり、魔窟帰りの冒険者で賑わっていた。酒が入っているせいか、食堂に比べて遥かに賑やかだった。その中で酒がかなり入ってる冒険者を敢えて選んで話し掛けた。
「すみませんが、勇者が何処に居るかご存知ですか?」
「ああん!? 勇者だって!?」
やはり勇者嫌いの冒険者のヤケ酒なのだろうと予測する。
「勇者だったら、さっき俺らの狩り場に来て獲物を掻っ攫っていきやがったぜ。あのコソ泥野郎が!! 人の仕事奪いやがって……!」
「そうですか、わかりました」
勇者の居場所はわかった。ならもう用は無い。これ以上絡まれる前に、俺はその場を逃げる様にして離れた。
勇者は今、この街の魔窟に居る。この街に一番近い魔窟の場所は、ラーズさんから聞いて把握している。俺は、この街の魔窟に向けて移動を開始した。
魔窟に着いた。そしてそこに、リオンは居た。素人でもわかる半端ではない存在感。滲み出る気迫。前に会った時よりも更に強くなっているというのか……?
そこで見るからに強そうな魔物が発生した。リオンはそれに気づくと、静かに何かを呟き、右手に持った剣に左手をなぞらせた。剣が電気を纏った。
あれが攻撃魔法か。治癒魔法しか見た事が無かったから攻撃魔法は初めて見る。そしてこの世界で初めて電気というものを見た。存在はしているのか。
リオンはその、電気を纏った剣を構えた。そして消える。否、既にその魔物の後ろに居た。魔物は感電しながら真っ二つに斬れた。
速すぎる。やはり前よりも速さが上がっていた。あれが勇者の力なのか……?! その圧倒的な強さを目の当たりにして、動揺し、話し掛けるタイミングを掴めずにいた。
魔物を倒すと、リオンから発せられていた気迫が消える。
「ん? 誰だ? そこに居るのは」
リオンがこちらに気づいた。俺はすぐさま声を上げながら前に出る。
「すまない。驚かせたか?」
「いや、それで君は……あっ」
どうした? まさかあの時の事を覚えているというのか?
「もしかして俺を覚えているのか?」
「うん。見た時に思い出したよ。君は少し印象が強かったからね。服も見た事の無いものだったし。久しぶり、君はあれから冒険者になったのかい?」
リオンの顔つきが強張る。
「ああ、俺はあの後冒険者になった。世界を回るために。リオンはあれからどうしたんだ?」
「世界を回るため? どうしてだい? 僕はあの後、王都で国王の息子になった。親の居ない僕を息子にしてくれたんだ」
「そうだったのか……俺は、親友の遺言、みたいなものかな。それで今世界を回ってるんだ」
「そうか……」
国王の養子になったのか……。リオンにもリオンの事情があるのだろう。
「それで、話は変わるんだが頼みがある。リオン、君が冒険者を嫌っているのも知っている。それでも頼みたい事があるんだ。時間が無い」
リオンの顔つきが更に強張った。
「何かな」
「ラグズガードに、魔族が居る。それを倒して欲しいんだ。俺は弱いから、俺じゃ力が足りない」
「魔族を倒したいなら他の冒険者を集めればいいじゃないか。わざわざ僕に頼まなくても」
「他じゃ駄目なんだ。リオン、君だからこそ頼みたいんだ。頼む」
俺は頭を下げて頼んだ。
「何故僕に頼む? 僕が冒険者を嫌う事を知っていながら」
「それは……アカツキが連れ去られたからだ」
焦って上手く喋れない。
「アカツキ? 誰だい? その人は」
「アカツキは……クレハは、俺の『大切な人』だ。正直に言うと魔族がリオンを指定して来た。敵の罠かもしれない。でも……頼む。俺も行きたいけど、俺だと足手まといにしかならないから……頼む……クレハを助けてくれ。いや、クレハを……助けてください」
俺は地面に頭をつけて頼んだ。少し涙ぐんでしまっている。それを見てリオンは驚いていた。
「そうか……君はもしかしたら、他の冒険者とは違うのかもしれないね。君の頼みは、他の冒険者と同じ自己欲のものだ。でも君の頼みは同時に、誰か他の人のためでもある」
リオンの顔が綻んだ。
「レント、頭を上げてくれ。わかったよ、君の大切な人を助けに行けばいいんだね」
「いい……のか……? ありがとう、ありがとう……」
「君を見ていると、どうも君がアレらと同じ冒険者だとは思えないよ。君には何処か僕と似た所を感じるんだよね」
ただ――と言い淀んだリオンは一息ついて続ける。
「君も来るんだ、レント。僕だけでは行かない。大切な人なんだろう?」
「なっ」
自分は邪魔になるだけだと言ったばかりで理解もしているだろうリオン。
「護らないといけないのが君ひとり増えたところで何も変わらないさ」
そう言って笑ったリオンへ苦笑いを浮かべながら頷き、共に歩き始める。
敵の待つ岬、ラグズガードへ向けて。
現在6話終盤を改稿したため、7話までの間を執筆中になります。
申し訳ありません。