2章第7話 魔具
「放て『サンダーボルト』!」
手にした魔具を突き出して叫んだ。
魔具を持った手からイナズマが走る。と、言っても良いのかわからないほどしか、電撃は発生しなかった……。
擬音で例えるなら、バリバリッ! が予想。でもこれは、バチッ! といった具合に、静電気が飛んで行ったくらいにしか効果は無かった。
流石にこれは……。リオン……これホントに使えるんですか?
疑問を抱いていると、クレハがこっちを見てニヤけているのに気がついた。
「フフッ、やたら大袈裟に叫んだかと思ったらそれって……」
「クスクス笑ってんじゃねえよ。ちょっとやり方変えてみるから」
もう少しだけ魔具に希望を持って、使い方を変えてみよう。リオンが使っていた、あの剣に纏わせるのをやってみる事にした。
それよりも少し気になった事がある。魔具は手に持ったままでしか使えないのか、という事だ。試しに雷の魔具を道具入れに仕舞った。
それに加えて先程よりも集中して、というより頭の中にイメージを作りながら使ってみる。
「帯びろ『落雷』」
剣に手をかざして詠唱した。すると、リオンまでとは言わないが、確実に剣が音を立てて電気を帯びた。成功だ。魔具は持たなくてもいいらしい。
「おっ! 成功したぞクレハ! ちょっと試しに振ってみる!」
「ちょ、こっちに向けては振らないでよね〜」
「ああ、わかってるって」
電気を帯びた剣を何も無い宙へ向けて振り下ろした。
まだ電気は帯びたままだ。まだまだいける!
振り下ろした剣を斬り上げ、見よう見真似の回転斬りへと繋げた。決まった、ハズ。
これだけでも格好良さを感じて、言葉にできぬ喜びと高まりを感じた。
「なんか子供みたいだね」
「うっさい。とりあえずやってみればわかる」
「ふ〜ん。で、どんな感じでやればいいの?」
「えっとな、頭の中でこうしたいっていうのをイメージしながら、用途に合わせた言葉を言った後、それに合った魔法っぽい単語を詠唱したら発動する仕組みみたいだ。やり方自体は、さっき俺がやったみたいな感じだな。色々な事に使えるって言ってたから試してみようぜ」
クレハは、なんとなくでそれを理解した様で、剣に手をかざして詠唱を開始する。
「私の場合だったら……帯びろ『火炎』」
クレハの剣が炎を帯びた。あちらも成功した様だ。
「おおっ! これ凄いね!」
「人に子供っぽいとか言っておきながらお前もじゃねぇか……」
「ん? 何か言った?」
「いいえ、何も」
危ない。自分から死にに行くところだった……。たぶんあのままだと、確実に斬りかかって来そうな雰囲気だったよ……。
一定時間経つと、かかっていた魔法は消えるようで、二人とも剣は通常の状態に戻っていた。
「ねぇ、レント。これ使って特訓の続きしない?」
「なっ!?」
ちょっと待ってくれ。なんかクレハの奴、帰って来てからキャラ変わってないかな? やたらと好戦的な気がするよ……。
「まぁ、いいや。物は試しにやってみるか」
「じゃあ、早速始めてみようよっ」
「待て、一つ条件がある」
「何よ?」
「頼むから手加減してください」
あの雰囲気のままやったら絶対死ぬ。死ぬは大袈裟にしても確実にケガする。誰だよアレにあんな物持たせた奴は……俺とリオンか……。
「いいよっ! ていうか元々そのつもりだったしね〜。手加減しないと特訓にならないし、強くはないとはいえ魔法の力まで使うんだからそこはちゃんとわかってますよ」
よかった……ちゃんと正気だった。
「じゃあ、改めまして。いくよっ!」
「ああ! 帯びろ『落雷』」
「帯びろ『火炎』」
互いの剣が電気と炎を帯びる。
クレハが一気に間合いを詰めて来て、鍔迫り合いになった。簡単に押し切られると思ったが、どうやら剣が帯びている電気のせいで、クレハの持つ剣伝いに軽く感電して力を入れ辛い様だった。かくいう俺の方も炎の熱気が暑いってもんじゃない。
この仕様は特訓には向いていないようだった。
「なぁ、剣の特訓の時には魔法の力使うのやめにしないか? マトモに出来る気がしないんだが」
「同感。レントの電気の所為で、手が痺れて仕方がないのよ」
魔法の力は使える、という事はわかったから成果自体は無かったとは言えないが、ほぼ無意味なテンションの高ぶりにより起こった悲劇と言えるだろう。反省。
それからある程度して、お互いが回復した後、色々試してみる事にした。
「ちょっとだけ試したい事があったんだよねぇ〜」
「ん?」
「爆ぜろ『爆炎』」
クレハは何もない場所へ手をかざして、魔具の力を引き出す詠唱をした。すると、言った名前程のものでは無い、ごく小規模ではあったが、手をかざした先の少し離れた場所で小さな爆発が起こった。嘘だろ……なんでそんな威力出るんだよ……。
「あの小石を狙ってみました」
「そういうのって狙ってだせるもんなのかよ……!」
ここでもそういうセンスの違いみたいなものがあるんですね……。まぁ、単にクレハがああいう攻撃的な魔具の使用に向いてるってだけかもしれないし、俺は俺で色々試してみるか。直接攻撃系は俺には向いてない様だし。
なら。
「クレハ、俺をもっと鍛えてくれないか? 時間はあるからさ」
「急に改まってどうしたの?」
「いや、俺にはあまり魔具の直接的攻撃魔法の使用は向いてないらしいから。自分自身をもっと鍛えないと。今のままじゃ駄目だと思うんだ。だって、前闘技大会で勝てたのはマグレみたいなもんだし、体力も全然無い。魔具に頼ってばかりじゃ早い内に確実に死ぬ事になると思うから。生きて帰る為にも、ね?」
そうだ。俺は闘技大会に勝ち、リオンから魔具を貰って完全に浮かれていた。自分自身はまだ弱いのに、力を手に入れた気になっている。危ない状況だ。気を引き締めないといずれ死ぬ。ここはゲームの世界じゃないんだから。
「わかった。レントがそう言うなら私は手伝うよ」
「ありがとう」
その代わりもっと厳しくしていくからね! と、そう言ってくれたクレハに、純粋に感謝した。
「それで、もっと鍛えてるのはいいんだけど、これからどうするの?」
「ああ、それなら考えてはある。クレハが承諾してくれたから、当分の間はこの街に留まって特訓の続きだ。たまに魔具の可能性を確かめたりしながらね」
「オーケー。レントも冒険者になったから時間とお金を気にしなくて済む様になったから、特訓にも専念出来るよっ」
俺のヒモ生活脱却は嬉しいのだが、それと同時に働けと笑いながら訴えかけてくるクレハは、少し怖かった。
口調が子供っぽい所為で忘れがちなのだが、クレハは案外守銭奴だったり、俺の面倒を見てくれたりと、何かとオカン体質なのである。じゃなかったらとっくの昔に破綻していてもおかしくは無い事に気がついた。
住む世界が変わろうとも、世知辛いのはどこも同じ様だった……。
「ところでよ、魔具ってそんなに希少価値高いなら、あまり人目につく所で使わない方がいいんじゃないのか?」
魔物倒して稼ぐにしても、魔具を使った方が楽なのだろうが、人目につくところでの乱用は出来るだけ控えた方が良さそうだった。希少価値が高いという事は、それだけ危険であるといっている様なものだからな。
「確かにそうだね……じゃあ、使うのは早朝のほっとんど誰もいない時間帯だけにしよっか」
「ああ、わかった。どちらにせよメインは自己鍛練にしたかったからな。じゃあ、ついでに今の時間なら誰も居ないだろうから魔窟にでも入るか?」
「そうだね。すぐそこだし、実戦で試すいい機会だねっ」
それから俺達は、ここからすぐ近くにある魔窟へと向かった。
魔物と戦うのは、ミカーヴァの街以来だろうか。ミカーヴァの街よりも魔大陸に近い為、ここの魔物はミカーヴァの街の魔物より強いそうだ。そしてここの魔窟は広いらしい。どんなのが出てくるのやら。
「なぁ、アレってダッシュラビットだよな?」
そこに居たのは、ミカーヴァの街の魔窟にも居た、ダッシュラビットの色違いにしか見えないものだった。
「違うよ。アレはダッシュラビットの上位種にあたるフレアラビットだよ!」
そういえば、前に魔法について聞いた事がある。人間で魔法が使えるのは勇者だけ。でも魔物の中にはそれに似たものを使えるヤツが居るらしいのだ。それの一つがコイツというわけか。
「こんな場所にあんなのが居たら危ないじゃない! 周りは草と木に囲まれてるっていうのに!」
あまりにも場所が悪い。だが、出くわしたのが森の中じゃなかっただけマシと思うべきか……,。
「それでどうすればいい!? 今は周りに誰も居ないから魔具は使えるぞ!」
今居る場所はどちらかといえば草原に近い。戦う上で木々が燃えるという心配は少なくて済んだようだ。それでも出来るだけ早く倒した方が良さそうな事に変わりは無かった。
「私がやる。帯びろ『火炎』」
なっ! クレハの奴、火を使う相手に火で攻撃するって……何考えてんだよ……。
「何か策はあるのかっ!」
「無いわよ! 名前も聞いた事あるだけ。この程度なら……ゴリ押すっ!」
クレハらしいといえばクレハらしいのだろうが……無策で未知の相手に突っ込むって……。
案の定、クレハが突っ込もうとして足止めを食らっていた。
観察する限り、フレアラビットは宙に火球を作り、それを飛ばしてくる。そしてそれに紛れながら突進を仕掛けて来るようだ。厄介な相手だ。
クレハが、足止めを食らいながらもどうにかそれを捌いているのが凄いくらいだ。そんな動きなど出来ない俺からしてみれば、正直、え? 何それどうやってんの? という状態である。飛んで来る火球を、炎を帯びた剣の側面で受け流し対応していた。
攻撃策が無いだけで、クレハ一人で十分対応出来ているなら、俺は攻撃策を考えておこう。
何か策は無いものかと探していると、ある事を思い出した。電気を帯びた剣でクレハと鍔迫り合いになった時、触れていたクレハは感電していたと言っていた。もしかしたら大気中にも剣伝いに電気を放てるかもしれない。
試してみる事にした。
「帯びろ『落雷』」
持っていた剣が電気を帯びる。そのまま剣を振りかぶって、近くの木目掛けて振り下ろした。すると、先程魔具単体で放った電撃よりも強い電気が、木目掛けて飛んで行った。恐らく先程はイメージしてなくて威力自体が弱かった所為もありそうだが、こちらの方が使い勝手は良さそうだった。
「ちょっと! 人が戦ってる間に何してんのよっ!」
「いや、すまん。ちょっと試してたところだ」
「いいからどうにか考えてよね!」
クレハは、自分の手に負えなくなると他人に放るタイプの人の様だ。何それヒデェ。
それはともかく、使えそうなものは見つかった。そしてそこでもう一つある事を思い出した。リオンがくれた魔具は炎と雷の力だけでは無い。あと一つ、氷の力の魔具を貰っていたのを忘れていた。
火に氷を使うのもどうなのかという話にはなるが、物理的な障壁という意味では一番良い。
早速、魔具に込められた氷の力を引き出す詠唱を開始する。
「帯びろ『氷塊』」
剣が氷に包まれた。成功だ!
「少し離れろっ! クレハ!」
「えっ? 何!? うわっ!」
氷を帯びた剣を地面に突き立てて、クレハとフレアラビットの間に向けて剣を振り上げた。
剣の刺さっていた地面から一メートル程の氷柱が突き上げてくる。クレハとフレアラビットの間辺りまでざっと四〜五メートル。この距離でフレアラビットがこちらに攻撃して来ないのはクレハの対応で精一杯だからなのだろう。突き上げてくる氷柱は、クレハとフレアラビットの間付近まで伸びていった。
よしっ! いけた! フレアラビットは足止めを食らい、どうにかそれを溶かそうと火球を当てたり、ほぼ無意味な突進を繰り返していた。幸い、まだクレハの剣は炎を帯びている。
「クレハっ! フレアラビットみたいにして氷の障壁ごと斬れっ! お前の爆発と剣の威力ならいける!」
「えっ?! わ、わかった! やってみる!」
フレアラビットの火球により、少しずつ溶かされ始めた氷の障壁はまだ持ちそうだった。その間にクレハは、爆発の為の詠唱を開始していた。
「爆ぜろ『爆炎』」
炎の魔法の力は、氷の障壁の側面で爆発する。それにより、氷の障壁は一気に溶けた。
そこに炎を帯びた、クレハの剣が炸裂する。クレハの剣は、薄くなった氷の障壁を裁ち切り、そのままフレアラビットを裁断した。
「やった!」
その後、氷柱はすぐに溶けてくれたので後処理は素材の回収だけで済んだ。相変わらず、俺はまだそれだけは出来ないので、クレハに任せた。
「それにしても良く思いついたねぇ〜」
「いや、クレハがフレアラビットの相手してくれてたから考える時間が十分あっただけだ。あれくらいやろうと思えば誰にでも出来る」
「なんか素っ気ないなぁ〜褒めてるのに」
「そうかよ」
うーん……何故だ? 何故納得がいかない?
……そうか……わかった。
「俺達は魔具の力が使えたから、今回は勝てた。でも普通はアイツも剣一本で戦う相手だ。魔法の力を使って勝てている様じゃダメなんだろうよ。それに今マトモに戦えるのは、やっぱりクレハだけなんだよ。二人で協力出来ればクレハだってあそこまで苦労してないはずだ。簡単に言えば、俺はまだ魔具を使わないとこれからの魔物とロクにやりあえない戦力外ってワケだ。やっぱり自己鍛練は必要だ。魔具に頼るばかりだと確実に何も出来なくなる時が来る」
今回で完全にわかった。俺は弱い。魔具を使うにはまだ早い。幸いにも、鍛えてくれる人は居るのだから。自らを鍛え上げなくては。生きて行く為にも。
「じゃあ、強化メニューで特訓再開しようか。今日からは流石に厳しいだろうから明日からね。ビシバシいくよ〜、それまで休んでおくように!」
「あっ、ああ」
その日の夜、久しぶりに宿の同じ部屋で寝る事になった。ていうか、収入を得た今でも何故同じ部屋なのかは、謎ではあるのだが本人曰く、節約なのだそうだ。だが、恐らく一番大きな理由は俺におかれた過度の信頼? なのであろう事は容易に想像出来た。一応は俺も男なんですけどね。ハイ。そこまでヘタレだと思われているのだろうか……。
考えていると何故か悲しくなって来て、そこからは何も考えずに寝る事にした。
翌日与えられた特訓の強化メニューは、元の世界で暇な時、たまに見ていた運動部の練習風景を更に厳しくした様なメニューだった……。それに加えて剣の練習までそこにプラスして組み込まれているのだから、ハードそのものである。
ちょっと待ってくれ。元帰宅部の俺にいきなりこれを与えますかね。確かに厳しくしてくれとは言いましたよ。でもこれは流石にハード過ぎるのでは? と、目線を送ろうとしたが、睨み返されそうだし自分から頼んだ事なので承諾して取り組む事にした。
一つだけ言わせて貰うなら、恐らくクレハはああ見えてSっ気が強いのだろうと思う。
今後それで俺に悪影響が出ない事を願って、俺は特訓メニューを開始した。




