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第一章「文化祭がやってくる!」

『イジメられっ子の僕がオタサーの姫になっちゃった?』第四作、連載開始です!


今回は秋の文化祭編。


クラスの演劇に、文研の作品展示。すっかり学校生活にも馴染んできた直人ですが、今度はどんな騒動に巻き込まれるのでしょうか?


全五章を予定しています。


それでは第一章、お楽しみください!

挿絵(By みてみん)


 十月。


 夏休みが終わって、しばらく経ったある日のこと。


 いつものように登校すると、校舎の中がなんだか騒がしくなっていた。


 廊下には段ボール箱が積まれ、色画用紙や模造紙を抱えた生徒たちが行き交っている。


 教室の前では、何人かの男子が大きな板を運ぼうとしていた。


「おい、そっち持って!」


「いや、これ廊下通れるのか?」


「斜めにすればいけるって!」


 ……あ、危ないなぁ。


 僕は板を抱えた男子たちを避けながら、教室へ入った。


 そういえば、もうすぐ文化祭なんだっけ。


 うちの学校では、文化祭になるとクラスごとにいくつかのグループに分かれて、屋台や展示、演劇なんかをやることになっている。


 普段は静かな校舎も、この時期になると急に賑やかになる。


「おはよう、中村さん」


「あ、小林くん。おはよう!」


 席に着こうとしたところで、同じクラスの小林くんに声をかけられた。


「あのさ、今日のお昼休み、ちょっと時間ある?」


「ん? どうしたの?」


「文化祭の演劇のことで、みんなで集まることになってて」


「演劇? あっ、ああ、そうだったね!」


 そういえば、六月頃に文化祭のグループ分けがあったんだった。


 あのとき、小林くんはグループチャットに入るタイミングを逃してしまい、一人で困っていた。


 それを見かけた僕が声をかけ、彩香も一緒に参加することになったのだ。


 ……ただ、あれから何か月も経っていたので、すっかり忘れかけていた。


「……中村さん、もしかして忘れてた?」


「えっ!? い、いや、そんなことないよ!」


「本当に?」


「ほら、僕も文化祭は楽しみにしてたし!」


 小林くんは少し呆れたように笑った。


「じゃあ、お昼休みに集まるからね。藤原さんにも連絡しておいたから」


「うん、わかった!」


 小林くんは軽く手を振って、自分の席へ戻っていった。


 ……そういえば、演劇をやるって言ってたけど、具体的に何をするんだろう?


 僕は演劇なんて小学校の学芸会以来やったことがない。


 まあ、文化祭の出し物だし、そんなに難しいことはしないよね。


 そう思いながら、僕はカバンを机の横にかけた。


     ◇


 お昼休み。


 演劇グループのメンバーが、教室の後ろに集まっていた。


 机をいくつかくっつけて、その上にプリントが置かれていた。


「それじゃあ、今日は配役と準備の担当を決めたいと思います」


 小林くんがプリントを配りながら説明を始めた。


 見ると、演劇のあらすじと登場人物が書かれていた。


「へえ、オリジナルなんだ」


 僕がつぶやくと、隣に座っていた彩香が顔を覗き込んできた。


「うん。みんなで考えたんだけど。ちょっと童話みたいなお話なんだよ」


「そうなんだ」


 舞台は、中世ヨーロッパ風の架空の王国。


 その国には、国民に厳しく、誰も逆らうことのできない女王がいた。


 ある日、女王の命令によって、二人の若い騎士に困難な使命が与えられる。


 誰も達成できないと思われた試練だったが、二人は友情と勇気によって困難を乗り越え、見事に使命を果たす。


 そして、そんな二人を見た女王も、少しずつ自分の行いを反省するようになる。


 ……なるほど。


 なんだか『走れメロス』みたいな話だなぁ。


「これ、結構面白そうだね」


「でしょ? 最後はちゃんとハッピーエンドになるみたいよ」


 彩香は嬉しそうに笑った。


「それで、まずは役を決めたいんだけど……」


 小林くんが登場人物の一覧を読み上げていく。


 主人公となる二人の騎士。


 隣国からやってきたお姫様。


 そして、悪役となる女王。


 ほかにも何人かの兵士や家臣が登場するらしい。


「俺、騎士やってもいいよ」


「じゃあ俺も!」


 男子たちが手を挙げる。


 どうやら主人公の二人は、あっさり決まりそうだった。


「じゃあ、お姫様はどうしようか?」


「あ、それなら私やりたい!」


 彩香が元気よく手を挙げた。


「藤原さん、似合いそう!」


「うん、いいんじゃない?」


 周りの女子たちも賛成している。


 確かに彩香なら、お姫様の衣装も似合いそうだ。


 普段から明るくて、こういうイベントには積極的だし。


「じゃあ、藤原さんがお姫様で……次は女王様なんだけど」


 小林くんがプリントを見ながら考え込む。


「女王って、結構台詞が多いんだよね」


「そうだねぇ……」


 みんなが顔を見合わせる。


 女王は悪役だから、ちょっと威厳のある演技が必要らしい。


 まあ、演劇が得意な人がやればいいんじゃないかな。


 僕は小道具とか、あまり大変そうじゃない役回りがいいかも。


 ……なんて思っていたら。


「あっ、直人は?」


 彩香が突然、僕の方を見た。


「……えっ?」


「直人、女王様やってみたら?」


「ええっ!? 僕!?」


 思わず声が大きくなってしまった。


「よさそう! 絶対似合うと思う!」


「い、いや、僕ってそんなに意地悪そうに見える?」


「違う違う!」


 彩香が慌てて首を横に振った。


「女王様の衣装が似合いそうだなって!」


「……そうか、衣装ね」


 ちょっと安心した。


 ……いや、安心していいのかな?


「中村さん、結構いいかも!」


「うん、かわいい女王様になりそう!」


 ほかの女子たちまで賛成し始めた。


 ちょ、ちょっと待ってよ。


 僕、まだやるって言ってないんだけど!


「でもさ、女王様ってもっとこう……大人っぽい人がやるんじゃないの?」


「衣装とかメイクで何とかなるよ!」


 彩香が自信満々に答えた。


「直人、髪も長いし、絶対きれいになるって!」


「……そうかなぁ」


 なんだか、もう決まったような雰囲気になっている。


 すると、小林くんが台本を差し出してきた。


「とりあえず、ちょっとだけセリフを読んでみてよ?」


「えっ、今?」


「うん。雰囲気だけでいいから」


 僕はプリントを受け取った。


 女王の台詞には、なかなか偉そうなことが書かれている。


 ええっと……。


「……愚かな騎士たちよ。わたくしの命令に従いなさい!」


 ちょっと大げさに声を張り上げてみた。


挿絵(By みてみん)


 すると。


「おおっ!」


「いいじゃん!」


「結構似合ってる!」


 みんなが笑い始めた。


「えっ、そ、そう?」


「直人、もっと偉そうに!」


 彩香が面白がっている。


 ……もう。


 まあ、せっかくだし。


「おーっほっほっほ! この国では、わたくしの命令が絶対なのです!」


 今度は思い切って、いかにも悪役の女王様らしい口調で言ってみた。


「ははははっ!」


「中村さん、すごい!」


「もう女王で決まりじゃん!」


 ……ええっ!?


 どうしてそうなるの!?


「じゃあ、中村さん、女王役でいい?」


 小林くんまで笑いながら尋ねてくる。


「う、うん……まあ、いいけど……」


「やった!」


 彩香が嬉しそうに手を叩いた。


「直人と一緒に舞台に立てるね!」


「あはは……そうだね」


 なんだか、勢いで決まってしまった。


 まあ、悪役の女王様なんて、普段は絶対にできない経験だし。


 でも、ちょっと楽しそうかも。


 その後は、ほかの配役も決めていった。


 主人公の騎士役を引き受けた男子たちは、早くも剣を振る真似をしていた。


「俺、最後に女王へ剣を突きつける役やりたい!」


「いや、そんなシーンないから!」


「じゃあ追加しようぜ!」


「勝手に話変えないでよ!」


 みんな、好き勝手なことを言っている。


 ……大丈夫かな、この演劇。


 配役が決まると、次は大道具や衣装の担当を決めることになった。


 お城の背景を作るグループ。


 剣や盾などの小道具を用意するグループ。


 衣装を準備するグループ。


 照明や音響を担当する人たち。


 思っていたより、ずいぶん本格的だ。


「衣装は、なるべくみんなで協力して準備しようと思うんだけど」


 小林くんが説明する。


「女王様の衣装は、ちょっと大変そうだよね」


「そうだねぇ……」


 彩香が僕の方を見る。


「直人、ドレス待ち遠しいね!」


「えっ、僕が作るの!?」


「違うよ! 着る方!」


「あ、そっちね!」


 ……びっくりした。


 裁縫なんて、美和に教えてもらったくらいしか経験がない。


 そんな僕にドレスを作れと言われても困ってしまう。


「じゃあ、直人の衣装は私も手伝うから!」


「うん、ありがとう!」


 こうして、僕は文化祭で悪役の女王様を演じることになった。


 ……まさか高校二年生になって、女王様になる日が来るなんて思わなかったなぁ。


     ◇


 午後の休み時間。


 廊下へ出ると、隣のクラスから慎太郎が歩いてきた。


「あ、慎太郎!」


「おう、直人」


「ねえ、慎太郎のクラスって、文化祭で何やるの?」


「ああ、うちは喫茶店だってさ」


「へえ、いいね!」


 喫茶店かぁ。


 文化祭らしくて楽しそうだ。


「じゃあ、慎太郎もウェイターやるの?」


「いや、俺は裏方の方かな。準備とか片付けとか」


「えー、そうなんだ」


「なんだよ」


「慎太郎のウェイター姿、ちょっと見てみたかったのに」


「……何を期待してるんだよ」


 慎太郎が呆れたように笑う。


「そういえば、結城さんは接客の担当になったみたいだぞ」


「えっ? 雫ちゃんが?」


「ああ。ウェイトレスだって」


「へええ!」


 思わず声が弾んでしまった。


 雫ちゃんのウェイトレス姿かぁ。


 絶対かわいいだろうなぁ。


「僕、見に行ってもいい?」


「いいけど……普通に客として来ればいいだろ」


「うん! 楽しみ!」


「……本人は結構緊張してたぞ」


「あはは、そうだろうね」


 雫ちゃんは、夏コミの頃から少しずつ積極的になってきたけれど、もともとはおとなしい性格だ。


 知らない人たちに注文を聞いて回るのは、ちょっと大変かもしれない。


「でも、雫ちゃんも頑張ってるんだね」


「ああ。最近、いろいろ張り切ってるみたいだな」


「うんうん!」


 僕が頷くと、慎太郎は何か思い出したように尋ねてきた。


「そういえば、直人のクラスは何やるんだ?」


「あ、僕のところは演劇だよ」


「演劇?」


「うん。僕も出ることになったんだ」


「へえ、何の役?」


「……女王様」


「…………」


 慎太郎が黙ってしまった。


「……何その反応」


「いや……」


 慎太郎は少し考えてから、笑い始めた。


「ははっ、女王様か!」


「ちょっと! 笑わないでよ!」


「いや、悪い悪い。なんか想像したらさ」


「もう!」


 僕は頬を膨らませた。


「ちゃんと悪役の女王様をやるんだからね!」


「わかったって」


 慎太郎はまだ少し笑っている。


「でも、似合うと思うぞ」


「……えっ?」


「女王様の衣装。直人なら結構似合うんじゃないか?」


「そ、そうかな?」


「ああ」


 慎太郎は何でもないように答えた。


 ……なんだろう。


 ちょっとだけ恥ずかしい。


「ま、まあ、まだ衣装もできてないけどね!」


「そっか。じゃあ本番、楽しみにしてるよ」


「うん!」


 僕は笑って頷いた。


 そういえば、慎太郎とは文化祭のときも、普通に一緒に遊べると思っていたけど。


 今回はお互い忙しそうだなぁ。


 喫茶店にも行きたいし、文研の展示もあるし。


 ……あれ?


 もしかして、文化祭って結構忙しいイベントなのかな?


     ◇


 放課後。


 僕と慎太郎は、いつものように現代文学研究会の部室へ向かった。


 通称、文研。


 もともとは、漫画やゲーム、アニメなんかが好きな生徒たちが集まって、放課後にだらだらと過ごしているような部活だった。


 ……いや、一応、名前の通り現代文学を研究する部活なんだけどね。


 でも、ちゃんと創作活動をしているのは、今のところ西園寺先輩くらいだった気がする。


 ところが最近、その文研にも少し変化が起きていた。


「失礼しまーす」


 僕が部室の扉を開ける。


 すると、奥のパソコンから賑やかな音楽が聞こえてきた。


 画面には、華やかなステージの上で歌って踊る女の子たちが映っている。


「あれ? 先輩、何見てるんですか?」


 僕が声をかけると、西園寺先輩が振り返った。


「ああ、直人君。お疲れさま」


「お疲れさまです!」


「ちょっとライブの映像を見てたんだよ」


「ライブ?」


 僕はパソコンの画面を覗き込んだ。


 五人組の女の子たちが、明るい照明の下で歌いながら踊っている。


 衣装もかわいらしくて、なんだか楽しそうだ。


 すると、慎太郎が画面を見ながら言った。


「あっ、これStella Beatsでしたっけ?」


「おっ、佐藤君も知ってるの?」


「最近、人気ありますよね。先輩、好きなんですか?」


「うん。最近ちょっと気になっててね」


 西園寺先輩は嬉しそうに頷いた。


「曲もいいし、ライブの演出も結構凝ってるんだよ」


「へえ……」


 Stella Beatsかぁ。


 名前くらいは聞いたことがある。


 最近、ネットの動画でもよく見かけるアイドルグループだったはずだ。


 僕も画面を眺めてみた。


 五人の女の子たちは、息の合った動きで踊っている。


 ……と思ったら。


「……あれ?」


 僕は思わず首をかしげた。


「今の子、なんか変な動きしなかった?」


「変な動き?」


「うん。なんか、こう……シュッて」


 手を動かして説明しようとした。


「シュッ?」


「すごい速さで後ろに回ったような……」


「ああ、その子ね。Rinちゃんっていうんだけど、何か格闘技をやってるらしいよ」


「格闘技? 空手とか?」


「いや、なんとかっていう中国武術だったかな」


「中国武術……ジャッキー・チェンみたいなやつ?」


「ああ、そういう感じなのかな」


「へえ。アイドルなのにすごいね」


 僕は感心しながら画面を見つめた。


「こういうステージの見せ方って、創作の参考にもなるんだよ」


 西園寺先輩が、ちょっと得意げに言った。


「映像の切り替え方とか、キャラクターの見せ方とかね」


「なるほど……」


 僕と慎太郎は頷いた。


 ……なんて、三人で動画を眺めていた、そのときだった。


「……みなさん?」


 背後から、静かな声が聞こえた。


「…………」


 僕たちは同時に振り返った。


 部室の入口には、雫ちゃんが立っていた。


 手にはスケッチブックと、何枚かのプリント。


 いつもと変わらない、おとなしそうな雰囲気。


 ……なのに。


「文化祭の準備は、どうなってるんですか?」


「……あっ」


 西園寺先輩が、そっと動画を止めた。


「いや、結城さん。これはちょっと参考資料をね……」


「参考資料ですか?」


「う、うん。映像の演出とか……」


「……そうなんですね」


 雫ちゃんはにっこり笑った。


「それじゃあ、参考資料はあとで見てくださいね」


「……はい」


 ……あれ?


 西園寺先輩まで、ちょっと押されてない?


     ◇


「それでは、みなさん集まってください!」


 雫ちゃんが机の上にプリントを並べた。


 僕たちも慌てて席に着く。


 ちなみに、長谷川くんもすでに部室にいた。


 机に突っ伏して、スマホをいじっていたところだった。


「長谷川さんもお願いします!」


「……あ、はい」


 長谷川くんが、ゆっくりと顔を上げる。


 ……なんだろう。


 最近の長谷川くん、ちょっと元気がないような。


「まず、文化祭の出し物についてです!」


 雫ちゃんがプリントを一枚取り出した。


 そこには大きく、


『現代文学研究会 文化祭作品展示計画』


 と書かれていた。


「……おお」


 僕は思わず声を漏らした。


 なんだか、すごくちゃんとしている。


「今年は、みなさんの作品を集めた合同作品集を作りたいと思います!」


「作品集?」


「はい!」


 雫ちゃんは嬉しそうに頷いた。


「小説やイラスト、評論など、みなさんが作ったものを一冊にまとめるんです!」


「へえ、いいね!」


 僕は思わず身を乗り出した。


 文化祭で自分たちの作品を展示するなんて、なんだか本当の創作サークルみたいだ。


 ……いや、本当は創作サークルなんだけど。


「それで、こちらが担当と予定表になります」


 雫ちゃんがもう一枚プリントを配る。


 見ると、名前の横に担当する作品や提出期限が書かれていた。


「まず中村さんには、短編小説を一本お願いします」


「あ、うん!」


「以前、小説を書いてたって言ってましたよね?」


「うん。そんなに大したものじゃないけど……」


「ぜひ読ませてください!」


 雫ちゃんの目が輝いていた。


「私、挿絵も描いてみたいんです!」


「えっ、本当に?」


「はい!」


 雫ちゃんは嬉しそうに頷いた。


「表紙も描いてみたいので、できればキャラクターの設定も教えてください!」


「わあ、いいね!」


 僕まで嬉しくなってきた。


 自分の書いた小説に、誰かが絵を描いてくれる。


 なんだか、そういうのにちょっと憧れていた。


 しかも雫ちゃんの絵は、夏休みに見せてもらったけれど、かなり上手だった。


「じゃあ、僕も頑張って書くよ!」


「はい! よろしくお願いします!」


 雫ちゃんが満面の笑顔を浮かべた。


 ……うん。


 これは楽しみだなぁ。


「それから、佐藤くんにはゲームのシナリオについてのコラムをお願いしたいんですけど」


「えっ、俺?」


「はい。ゲームに詳しいって聞いたので」


「ああ……まあ、そうだけど」


「短いものでもいいので、お願いします!」


「わかった。考えてみるよ」


 慎太郎は素直に頷いた。


 その隣で、長谷川くんが何かを察したように顔を上げる。


「……あのさ、雫ちゃん」


「はい?」


「もしかして、俺も何か書くの?」


「もちろんです!」


「……やっぱり」


 長谷川くんが肩を落とした。


「長谷川さんにも、作品を一つお願いします!」


「いや、でもさ……」


「何か書いてみたいもの、ありませんか?」


「うーん……」


 長谷川くんは腕を組んで考え込んだ。


「ラノベの感想とかなら書けるけど……」


「それでもいいと思います!」


「えっ、いいの?」


「ただし、ちゃんと読み物になるようにまとめてくださいね!」


「……ちゃんと?」


「はい!」


 雫ちゃんが元気よく答える。


「ただ面白かった、つまらなかっただけじゃなくて、どうしてそう思ったのかを書くんです!」


「…………」


 長谷川くんが僕の方を見た。


 ……いや、そんな顔されても困るよ。


挿絵(By みてみん)


「……なあ、直人」


「ん?」


「文研って、こんな部活だったっけ?」


「……あはは」


 僕は思わず苦笑した。


 確かに、以前の文研はもっとのんびりしていた。


 放課後に集まって、漫画やゲームの話をして。


 たまに誰かが持ってきたゲームで遊んで。


 西園寺先輩が自作ゲームを作っている横で、僕たちはだらだらと過ごしていた。


 ……うん。


 改めて考えると、結構ひどい部活だったかもしれない。


「……俺、もっと自由な部活だと思ってたんだけどなぁ」


 長谷川くんがぼやく。


「今までが自由すぎたんじゃないか?」


 慎太郎が笑いながら言った。


「いや、それはそうなんだけどさ……」


 そんな僕たちを見ながら、西園寺先輩が嬉しそうに笑っていた。


「いやぁ、いいね。こういうの」


「先輩?」


「やっぱり、みんなで作品を作るって楽しいじゃないか」


 西園寺先輩は雫ちゃんのプリントを眺めながら頷いた。


「僕も今までは一人で作ってることが多かったからね。こうやってみんなで活動できるのは嬉しいよ」


「……先輩」


 雫ちゃんが、ちょっと照れくさそうに笑った。


「私、西園寺先輩みたいに、ちゃんと作品を作れるようになりたいんです」


「うん。結城さんなら、きっとできるよ」


「ありがとうございます!」


 雫ちゃんは嬉しそうに頭を下げた。


 ……ああ、なるほど。


 雫ちゃん、本当に創作活動が楽しくなってきたんだなぁ。


 夏休みに初めて西園寺先輩と会ってから、ずいぶん変わった気がする。


 以前は、自分の描いた絵を人に見せることさえ恥ずかしがっていたのに。


 今では、みんなの作品をまとめて展示しようとしている。


 なんだか、僕もちょっと嬉しい。


「それで、みなさん!」


 雫ちゃんが再びプリントを持ち上げた。


「提出期限なんですけど!」


「……えっ?」


 僕はプリントを見直した。


 そこには、


『第一稿提出 来週』


 と書かれていた。


「…………」


 ……来週?


「あ、あの、雫ちゃん?」


「はい!」


「これ、来週までに書くの?」


「はい! そのあとで校正やレイアウト、印刷もありますから!」


「……そ、そうなんだ」


「特に中村さんの小説は、私が挿絵を描く時間も必要なので、できれば早めにお願いします!」


「……あはは」


 僕は乾いた笑いを漏らした。


 ……あれっ、ちょっと待って。


 僕、さっき文化祭の演劇に出ることになったばかりなんだけど。


 そっちも準備しないといけないんだよね?


「……直人」


 隣から慎太郎が小声で話しかけてきた。


「なんか、大変なことになったな」


「……うん」


「小説、間に合うのか?」


「……頑張る」


 すると、長谷川くんがぼそっと言った。


「……なあ、これさ」


「ん?」


「雫ちゃんを文研に連れてきたの、直人だよな?」


「……えっ?」


「お前があの子を連れてきたんだぞ」


「ちょ、ちょっと待ってよ!」


 僕は慌てて首を横に振った。


「僕のせいなの!?」


「いや、別に悪いって言ってるわけじゃないけどさ……」


 長谷川くんが遠い目をする。


「……昔はもっと平和だったなぁって」


「もう! 雫ちゃんに聞こえるよ!」


 僕たちが小声で話していると。


「……みなさん?」


「「「……はいっ!」」」


 三人同時に背筋を伸ばした。


挿絵(By みてみん)


 雫ちゃんが、にっこりと笑っている。


「何か質問がありますか?」


「い、いえ、特にありません!」


 僕は慌てて答えた。


「そうですか?」


「う、うん!」


「それなら、みなさんで頑張りましょうね!」


「……はーい」


 ……なんだろう。


 雫ちゃん、こんなに頼もしい子だったっけ?


 西園寺先輩は、そんな僕たちを見て楽しそうに笑っていた。


 ……先輩。


 ちょっとくらい助けてくれてもいいんじゃないかなぁ。


     ◇


 その後も、文化祭の展示についての話し合いは続いた。


 西園寺先輩が以前から作っていた自作ゲームも出展することになり、雫ちゃんのイラストと僕の小説も一緒に展示する。


 作品集のほかに、部室の壁にはイラストや作品紹介のポスターを貼ることになった。


 机の配置も変えて、来場者が自由に作品を読めるようにするらしい。


「へえ、結構本格的だね」


 僕が感心していると、雫ちゃんが頷いた。


「はい! せっかく文化祭なんですから、いろんな人に見てもらいたいです!」


「うん、そうだね!」


 僕も笑って頷いた。


 自分の書いた小説を誰かに読んでもらう。


 ちょっと恥ずかしいけれど、楽しみでもある。


 それに、雫ちゃんが挿絵を描いてくれるなら、きっといい作品になると思う。


「そういえば雫ちゃん、クラスの喫茶店の方は大丈夫なの?」


 僕はふと思い出して尋ねた。


「えっ?」


「ほら、慎太郎から聞いたよ。ウェイトレスやるんでしょ?」


「あっ……はい」


 雫ちゃんは急に恥ずかしそうになった。


「そ、その……クラスで担当を決めたときに、私もやってみようかなって……」


「へえ、いいね!」


「でも、知らない人に注文を聞いたりするのって、ちょっと緊張しますよね……」


「あはは、大丈夫だよ!」


 僕は笑って答えた。


「雫ちゃんなら、きっと上手にできるよ!」


「そ、そうでしょうか……」


「うん! 僕も絶対見に行くから!」


「えっ!?」


 雫ちゃんが顔を赤くした。


「そ、それは……ちょっと恥ずかしいです……」


「えー、なんで?」


「だって……」


 雫ちゃんは困ったように笑う。


 ……あはは。


 やっぱり、こういうところは以前と変わらないんだね。


 すると、長谷川くんが横から口を挟んできた。


「じゃあ俺も見に行こうかな」


「えっ?」


「雫ちゃんのウェイトレス姿、ちょっと気になるし」


「長谷川さん!」


 雫ちゃんが少し頬を膨らませた。


「その前に、ちゃんと原稿を仕上げてくださいね!」


「……はい」


 長谷川くんは再び肩を落とした。


 ……あははは。


 なんだか、すっかり立場が逆転しちゃったなぁ。


 そう思いながら、僕は雫ちゃんの笑顔を眺めていた。


     ◇


 夕方。


 ようやく今日の話し合いが終わり、僕はスマホの予定表を開いた。


 文化祭まで、あと少し。


 クラスでは演劇の準備が始まる。


 女王様の衣装合わせもあるし、台本も覚えなければいけない。


 文研では短編小説を書くことになった。


 しかも、雫ちゃんが挿絵を描くので、原稿は早めに仕上げる必要がある。


「…………」


 僕は予定表を見つめた。


 ……あれ?


 なんだか、思っていたよりずいぶん忙しくない?


「どうした、直人?」


 慎太郎が隣から覗き込んできた。


「いや……ちょっと予定を確認してたんだけど……」


「うん」


「演劇の準備があって、小説も書かないといけなくて……」


「そうだな」


「衣装合わせとか、練習とかもあるんだよね」


「うん」


「…………」


 慎太郎は僕の顔を見て、少し笑った。


「まあ、頑張れよ」


「……他人事みたいに言わないでよ!」


「いや、俺だって喫茶店の準備があるし」


「そうだけどさぁ……」


 僕は思わず机に突っ伏した。


 ……なんだろう。


 文化祭って、もっと気楽で楽しいイベントだと思ってたんだけどなぁ。


 すると。


「中村さん!」


 雫ちゃんが、にっこり笑いながら近づいてきた。


「小説、楽しみにしてますね!」


「……うん」


「私も頑張ってイラストを描きますから!」


「……わかったよ!」


 僕は顔を上げて笑った。


 雫ちゃんが、こんなに楽しみにしてくれているんだ。


 僕だって、ちゃんと頑張らないとね。


「じゃあ、来週までに第一稿をお願いします!」


「……えっ、やっぱり来週?」


「はい!」


「……あはは」


 僕は再び机に突っ伏した。


 ……もう。


 文研って、いつからこんなに厳しい部活になっちゃったんだろう。


「……なあ、直人」


 長谷川くんが、どこか遠い目をしながらつぶやいた。


「昔の文研が懐かしいな……」


「……うん」


 僕も思わず頷いてしまった。


 その向こうでは、西園寺先輩が楽しそうに雫ちゃんと作品の相談をしている。


 ……先輩だけは、すごく嬉しそうだなぁ。


 まあ、でも。


 ちょっと大変そうだけど、みんなで何かを作るのも楽しそうだ。


 僕はもう一度スマホの予定表を眺めた。


 演劇に、小説に、文化祭の準備。


 ……うん。


 今年の秋は、ずいぶん忙しくなりそうだ。


 そんなことを考えながら、僕は小さくため息をついた。


 ……それにしても。


 文化祭って、こんなに大変なイベントだったっけ?


     ――第一章 おわり。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!


今回から文化祭編がスタートしました。


女王様役になってしまった直人に、創作活動に目覚めてすっかりしっかり者になった雫ちゃん。以前とはずいぶん雰囲気の変わった文研ですが、これからどうなるのでしょうか?


ちなみに、部室のPCに登場したStella Beatsは、拙作『八極拳しか知らない私がアイドルにスカウトされたんですが、何か?』に登場するアイドルグループです。


次回は、久しぶりに直人のお父さんが帰ってきます。


引き続きよろしくお願いします!

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