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81 好きの形

 

 帰り道。


 夜はもう深くて、

 街灯の光だけが、ぽつぽつと道を照らしている。


 周りには人も少なくて、

 足音だけがやけに響く。


 並んで歩く。


 距離は、変わらない。


 でも――


 どこか決定的に違う空気。


「ねえ」


 凛が言う。


 少しだけ小さい声。


「なに」


 すぐに返す。


 間を空けるのが怖くて。


「まだ好き?」


 その一言で、


 時間が止まったみたいになる。


 足音が、遠く感じる。


「……好きだよ」


 迷わなかった。


 考える前に、出ていた。


 それだけは、変わっていなかったから。


 凛が少しだけ目を伏せる。


 街灯の光が、まつ毛に影を落とす。


「そっか」


 短く頷く。


 その声は、どこか柔らかい。


「私も」


 続けて言う。


 でも――


 その言葉のあとに、


 ほんのわずかな“間”がある。


 前なら、なかった間。


 同じ言葉のはずなのに、


 重さが違う。


 意味が、少しだけズレている。


 風が吹く。


 冷たい空気が、二人の間を通り抜ける。


「……」


 何も言えない。


 “好き”って言葉で、


 全部が戻るわけじゃないって、


 分かってしまったから。


 前の“好き”は、


 近づくための言葉だった。


 今の“好き”は――


 離れていくのを止められないまま、


 ただ残っている感情みたいだった。


 隣にいる。


 好き同士のはずなのに、


 触れない。


 埋まらない距離がある。


 凛が少しだけ顔を上げる。


 何か言いたそうに見えるけど、


 結局、何も言わない。


 そのまま、また前を向く。


 街灯の光が、二人を照らす。


 でも、その光は一つじゃなくて、


 別々に落ちているみたいだった。


 同じ“好き”。


 でも、同じ形じゃない。


 その違いだけが、


 静かに、確実に、


 二人の間に残っていた。

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