78 間
放課後。
教室にはほとんど人がいなくて、
窓の外の光も、少しずつ弱くなっている。
机と椅子だけが残る静かな空間。
隣にいる。
距離は、いつもと同じはず。
でも――
空気が違う。
「……」
沈黙。
音がないわけじゃない。
遠くから、部活の声やボールの弾む音が聞こえる。
廊下を誰かが走る足音も、かすかに響く。
それでも、
ここだけ切り取られたみたいに静かだった。
前なら平気だった。
何も話さなくても、
一緒にいるだけでよかった。
沈黙も、ちゃんと共有できていた。
でも、今は違う。
この“間”が、
重い。
何か言わないといけない気がする。
このままだと、
どんどん離れていく気がして。
「……あのさ」
声を出しかける。
でも、続かない。
何を言えばいいのか分からない。
軽い話題?
それとも――
ちゃんと向き合う話?
どっちも違う気がして、
言葉が止まる。
凛も同じみたいで、
何も言わない。
ただ、前を見ている。
机の上に置かれた手が、
少しだけ動く。
でも、それだけ。
「……」
また沈黙。
さっきよりも、少し長い。
時間がゆっくり流れているみたいに感じる。
時計の秒針の音が、
やけに大きく聞こえる。
カチ、カチ、と
そのたびに、
何も言えていない時間が積み重なる。
(なんか言えよ)
心の中で、自分に言う。
でも、
出てこない。
言葉が、見つからない。
見つけたとしても、
それを口にする勇気がない。
沈黙が怖いのに、
その沈黙を壊せない。
その矛盾が、
余計に苦しくする。
隣にいる。
こんなに近いのに、
届かない。
その“間”だけが、
はっきりと存在していた。




