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76 いつも通り

 

 放課後。


 教室にはまだ少しだけ人が残っていて、

 笑い声や机を引く音が、ばらばらに響いている。


 その中で、二人の間だけ少し静かだった。


「帰る?」


 何気ない一言。


 前と同じ、いつもの聞き方。


「……うん」


 少しだけ間があってからの返事。


 それだけで、前とは違うと分かる。


 カバンを持つ。


 タイミングも、微妙にずれる。


 どちらかが合わせることもなく、


 そのまま教室を出る。


 廊下。


 窓から入る夕方の光が、白い床に長く伸びている。


 足音が並ぶ。


 でも、ぴったりじゃない。


 少しだけズレている。


 並んで歩く。


 距離は遠くない。


 近すぎもしない。


 ちょうどいいはずの距離。


 なのに――


 何かが違う。


「今日さ」


 ぽつりと話す。


 会話は、ある。


「うん」


 返事も、ある。


 途切れない程度には続く。


 でも、


 言葉の一つ一つが軽い。


 どこか表面だけをなぞっているみたいで、


 深く入ってこない。


 笑う。


 タイミングも合っている。


 ぎこちなくはない。


 それなのに――


(なんか、違う)


 前は、もっと自然だった。


 言葉がなくても伝わって、


 沈黙さえ共有できていた。


 今は、


 会話があるのに、


 伝わらない。


 風が吹く。


 二人の間をすり抜ける。


 その隙間が、


 やけに広く感じる。


 隣にいる。


 ちゃんと並んでいる。


 それなのに、


 どこか、他人みたいだった。


 同じ時間を過ごしているはずなのに、


 同じ場所にいないみたいな感覚だけが、


 静かに残っていた。

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