71 ぶつかる
放課後。
教室にはもうほとんど人がいない。
夕焼けが窓から差し込んで、
床や机の影を長く引き伸ばしている。
オレンジ色の光。
静かすぎる空間。
逃げ場がない。
「なんでさ」
気づいたら、口に出ていた。
抑えるつもりだったのに。
「なに」
凛は振り向く。
いつもと同じトーン。
でも、その“普通”が、逆に引っかかる。
「なんでちゃんと話さないんだよ」
言ってしまう。
積もっていたものが、そのまま出る。
「話してるじゃん」
少しだけ間を置いてからの返事。
でも、内容は軽い。
「してねえよ」
被せるように言う。
もう止まらない。
空気が変わる。
さっきまでの静けさとは違う、
張り詰めた沈黙。
夕焼けの光が、やけに強く感じる。
凛の表情が、少しだけ硬くなる。
「……ユウタさ」
低い声。
静かだけど、はっきりしている。
「なんだよ」
睨むみたいに返す。
引けない。
引きたくない。
「踏み込みすぎ」
その一言。
短くて、
鋭い。
「は?」
一瞬、意味が分からない。
いや、分かってる。
分かってるけど、
受け入れたくない。
「心配してるだけだろ」
すぐに返す。
正当化するみたいに。
「それが重いの」
被せられる。
今度は、はっきりと。
逃げない言葉。
胸に刺さる。
「……は?」
もう一度、同じ言葉が出る。
今度は、さっきよりも低く。
「大丈夫って言ってるじゃん」
凛の声も少し強くなる。
「なんで信じてくれないの」
その言葉に、詰まる。
信じてないわけじゃない。
でも――
「信じてるよ」
言いながら、自分でも分かる。
説得力がない。
「じゃあなんでそんな聞くの」
間髪入れずに返される。
逃げ場がない。
「……それは」
言葉が続かない。
理由はある。
でも、うまく言えない。
「ほら」
小さくため息。
その仕草が、距離を決定的にする。
「やっぱり、踏み込みすぎなんだよ」
もう一度。
今度は、少しだけ疲れた声で。
教室が静まり返る。
外から聞こえていた部活の音も、
いつの間にか遠くなっている。
夕焼けの色が、少しずつ薄れていく。
何かが、終わりに向かってるみたいに。
「……」
何も言えない。
言い返せない。
さっきまでの勢いが、全部消える。
代わりに残るのは、
鈍い痛みだけ。
近づこうとした分だけ、
突き放された感覚。
一歩踏み込んだら、
一歩以上離された。
その距離が、
もう戻らない気がして。
ただ、立ち尽くすしかなかった。




