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恋愛病死 ― 愛は、最後に名前がつく ―  作者: 椿
第6章:すれ違い
70/107

70 逃げ

 

 昼休み。


 教室はざわざわしていて、

 あちこちで笑い声や椅子の音が混ざっている。


 その中で、二人の間だけ少し静かだった。


 窓際の席。


 外は晴れているのに、空気はどこか重い。


「今度の休みさ」


 何気ないふりをして、声をかける。


「うん」


 凛はパンの袋を開けながら、軽く返す。


「どっか行く?」


 少しだけ間を置いて、言う。


 前なら、もっと自然に言えたはずの言葉。


「……ごめん、その日無理」


 すぐじゃない。


 ほんの一拍遅れてからの返事。


「最近多くない?」


 思ったままが出る。


 抑えられなかった。


「……そう?」


 凛は目を上げずに言う。


 視線はずっと手元のまま。


「避けてる?」


 一歩踏み込む。


 聞かないほうがいいって、どこかで分かっているのに。


「避けてない」


 即答。


 迷いはない。


 言葉だけなら、はっきりしてる。


 でも――


 そのあと。


 一瞬だけ。


 視線が揺れる。


 そして、逸らす。


 窓の外へ。


 何かから逃げるみたいに。


「……」


 その沈黙が、答えみたいに感じる。


 教室のざわめきが急に遠くなる。


 周りは変わってないのに、


 ここだけ切り取られたみたいに静かになる。


「ほんとに?」


 重ねて聞きそうになる。


 でも――


 やめる。


 これ以上踏み込んだら、


 何かが決定的に壊れそうで。


「……」


 凛は何も言わない。


 ただ、パンを一口かじる。


 味なんて分かってなさそうな顔で。


「……そっか」


 結局、それしか言えない。


 軽く流すみたいに。


 何もなかったことにするみたいに。


 凛は小さく頷く。


「うん」


 それだけ。


 会話は終わる。


 あっさりと。


 でも、


 その“終わり方”が、


 やけに引っかかる。


 逃げてる。


 はっきりとは言わないけど、


 確実に距離を取っている。


 それが分かってしまう。


 でも――


 追えない。


 追ったら、


 本当に離れていく気がして。


 だから、


 何も言えないまま、


 時間だけが過ぎていった。

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