07 日常の温度
帰り道。
校門を出ると、昼の熱気はすっかり引いていた。
空はゆっくりと色を変えていて、青から橙へ、そして少しずつ紫が混ざり始めている。
部活帰りの声が遠くに聞こえて、グラウンドの土の匂いが風に乗ってくる。
アスファルトには夕日の光が斜めに差し込んで、長い影を作っていた。
並んで歩く。
でも――
特に会話はない。
足音だけが、規則的に重なる。
信号の音、遠くを走る車の音、どこかの家から漂ってくる夕飯の匂い。
そんなものに紛れて、沈黙が続く。
でも――
嫌じゃない。
むしろ、どこか落ち着く。
「ねえ」
凛が、少しだけ前を向いたまま言う。
「なに」
「こういうの」
「なにが」
凛は歩く速度を少しだけ落として、俺と並ぶ。
夕日の光が横から差して、髪の端がやわらかく光る。
「一緒に帰るの、普通になってきたね」
「……そうだな」
言ってから、自分でも少しだけ驚く。
否定する理由が、もう思いつかない。
「これも症状だよ」
「便利だなその理論」
「でしょ?」
凛は満足そうに笑って、また一歩前に出る。
そのまま、半歩分だけ先を歩く。
風が吹いて、凛の髪が揺れる。
そのたびに、夕日の光がちらつく。
俺はその背中を見ながら、歩く。
小さなリュック。
少し跳ねる歩き方。
何気ない仕草が、やけに目に残る。
(……これ、ほんとに病気か?)
胸の奥にあるこの感覚。
騒がしくもなくて、苦しくもなくて、
ただ静かに続いていく感じ。
むしろ――
少しだけ、心地いい。
分かれ道が近づく。
いつも通りなら、ここで別れるはずなのに、
今日はなぜか、その距離が短く感じた。
空はもう、ほとんど紫に変わっている。
街灯が、ひとつずつ灯り始めていた。




