69 距離
帰り道。
空はもう暗くなり始めていて、
街灯の光が、ぽつぽつと道を照らしている。
隣にいる。
いつもの位置。
手を伸ばせば触れられる距離。
でも――
(遠い)
歩く。
足音だけが、静かに重なる。
リズムは揃っているのに、
どこか噛み合っていない。
「……」
何か言おうとする。
でも、言葉が浮かばない。
何を話せばいいのか、分からない。
凛も何も言わない。
前を見たまま、歩いている。
その横顔は、街灯の影で少し見えにくい。
「……」
沈黙。
前なら、この時間は心地よかった。
言葉がなくても平気で、
むしろ、それが自然だった。
一緒にいるだけでよかった。
でも――
今は違う。
同じ沈黙なのに、
重い。
空気が詰まるみたいに、苦しい。
風が吹く。
少し冷たい。
季節がまた進んだみたいな風。
その中で、
距離だけは変わらない。
近いまま。
なのに、
触れられない。
触れない。
理由は分からない。
ただ、
前とは違う何かがある。
凛が少しだけ歩く速度を変える。
それに合わせる。
ぴったり揃う。
それでも――
埋まらない。
「……」
また沈黙。
言葉にすれば、壊れそうで。
言わなければ、このまま続きそうで。
どっちも選べないまま、
ただ歩く。
隣にいるのに、
遠い。
同じ距離なのに、
届かない。
その感覚だけが、
はっきりと残っていた。




