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恋愛病死 ― 愛は、最後に名前がつく ―  作者: 椿
第6章:すれ違い
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67 既読無視問題

 

 朝。


 教室はいつも通りのざわめきで、

 昨日の夜の静けさが嘘みたいに消えている。


 でも――


 胸の奥に残った違和感だけは、消えていない。


 凛は、いつも通り来ている。


 席に座って、友達と少し話して、

 普通に笑っている。


(……普通だな)


 そう思う。


 思うけど、


 昨日の“既読”が、頭から離れない。


 昼休み。


 タイミングを見て、声をかける。


「昨日さ」


「うん」


 凛は振り向く。


 いつも通りの顔。


「既読ついてたよな」


 少しだけ、間を置いて言う。


 責めるつもりはない。


 ただ、確認みたいな。


「あー……ごめん」


 すぐに返ってくる。


 軽い。


 拍子抜けするくらい、軽い。


「忘れてた」


 そのまま、あっさり言う。


 悪びれた感じもなくて、


 本当に“ちょっとしたこと”みたいに。


「……そっか」


 それしか言えなかった。


 それ以上、言葉が出てこない。


 凛は少しだけこっちを見て、


「怒ってる?」


 軽く聞く。


 まるで、冗談の延長みたいに。


「いや別に」


 反射的に答える。


 すぐに。


 考えるより先に。


(怒ってる)


 心の中では、そう思ってるのに。


 でも、それを言葉にするほどでもない。


 怒るほどのことじゃない。


 たったそれだけのこと。


 なのに――


「そっか」


 凛はあっさり頷く。


 そのまま話題を変える。


「てかさ、今日の授業さ――」


 また、いつも通りの流れ。


 笑って、話して、


 何もなかったみたいに。


 教室の音が戻る。


 周りの声が混ざる。


 全部、普通。


 何もおかしくない。


 なのに――


 胸の奥に、小さく残る。


 ほんの些細なこと。


 でも、


 その“軽さ”が、


 妙に引っかかる。


 昨日の夜。


 既読がついたまま、返ってこなかった時間。


 それを、


 同じ重さで扱っていない気がして。


 同じ“当たり前”の中にいるはずなのに、


 少しだけズレている。


 そのズレが、


 小さいまま、


 確実に刺さっていた。

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