65 違和感の正体
帰り道。
空はもう夕焼けを過ぎて、
薄い群青色に変わり始めている。
街灯がぽつり、ぽつりと点いて、
足元にやわらかい光を落とす。
並んで歩く。
距離は変わらない。
でも、どこか静かすぎる。
「ねえ」
凛が言う。
「なに」
前を見たまま返す。
「もしさ」
「うん」
少しだけ間。
その“間”が、やけに長く感じる。
「この時間、なくなったらどうする?」
足音が、一瞬だけずれる。
(……なんで)
胸の奥に、小さく何かが引っかかる。
「……なんでそんなこと言う」
少しだけ低い声になる。
凛は軽く肩をすくめて、
「ちょっと気になっただけ」
そう言って、笑う。
その笑い方は、いつもと同じ形なのに――
(……違う)
目が、笑ってない。
どこか遠くを見ているみたいな、
焦点が合っていないみたいな、
そんな目。
風が吹く。
少し冷たい。
季節が、また一歩進んだみたいに。
「なくならねえよ」
言い切る。
強く。
根拠なんてないのに。
でも、そう言うしかなかった。
凛は一瞬だけこっちを見て、
それから、小さく頷く。
「そっか」
その声は、やけに静かで。
納得したようにも、
諦めたようにも聞こえた。
また前を向く。
歩き出す。
足音が、また揃う。
同じリズム。
同じ距離。
何も変わっていないはずなのに――
さっきの一言だけが、
空気の中に残っている。
“なくなったらどうする?”
その言葉が、
ただの仮定じゃない気がして。
でも、
その“正体”には、まだ届かない。
隣にいる。
すぐ触れられる距離。
それなのに――
どこか、手の届かない場所にいるみたいだった。




