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11 一緒に帰る理由①

 

 放課後。


 教室の空気がゆっくりほどけていく。

 部活に向かう足音、友達同士の笑い声、椅子を引く音。


 窓の外は、少しだけ曇っていて、夕焼けは今日は控えめだった。

 白っぽい空の下で、校庭の色もどこか淡く見える。


 カバンを肩にかけて、昇降口へ向かう。

 靴を履き替えて外に出ると、湿った風が頬に当たった。


 そのまま、自然に並んで歩き出す。


 もう、それが当たり前みたいに。


 しばらく無言で歩いてから、ふと口を開く。


「なんで毎日一緒に帰ってるんだっけ」


 自分でも、少し唐突だと思った。


 凛は前を向いたまま、すぐに答える。


「同じ方向だから」


「遠回りしてるよな」


「してるね」


 あっさり肯定。


「じゃあ理由違うだろ」


 凛は少しだけ歩く速度を落とす。


 アスファルトに落ちた小さな水たまりを避けながら、ほんの少し考えるように視線を上げた。


「……習慣?」


「雑だな」


「じゃあユウタは?」


「俺?」


「なんで帰ってるの」


 足が一瞬だけ止まりかける。


 でも、すぐにまた歩き出す。


「……なんとなく」


 言ってから、自分でも妙にしっくりくる。


 凛は横目でこっちを見て、小さく笑った。


「それ、正解」


「なんでだよ」


 少しだけ風が吹く。


 電線がかすかに鳴って、遠くで犬の鳴き声が聞こえた。


「理由つけると終わるから」


「怖いこと言うな」


「だってそうでしょ?」


 凛はくるっとこっちを振り向く。


 その表情は、いつもみたいに軽いのに、

 どこかだけ少し本気が混じっている。


「こういうのは、なんとなく続くのがいいの」


 また前を向いて歩き出す。


 その背中を、少しだけ遅れて追いかける。


(……なんとなく、か)


 特別な約束も、理由もない。


 でも毎日こうして並んで歩いている。


 それが、いつの間にか当たり前になっている。


 空は相変わらず曇ったままで、夕焼けは見えない。

 でも、そのぶん光がやわらかくて、街全体がぼんやりとした色に包まれていた。


 その中で――


 凛の言葉だけが、やけにくっきりと残る。


 “なんとなく続くのがいい”


 足音が重なる。


 距離も、ペースも、何もかもが自然すぎて――


 逆に、少しだけ不思議だった。

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