表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
106/108

106 完成

 

 夜。


 完全に日が落ちて、街は静かな光に包まれていた。

 白い街灯が等間隔に並び、足元を淡く照らしている。


 遠くで車が走る音。

 どこかの家から漏れるテレビの音。

 それ以外は、ほとんど何もない。


 帰り道。


 二人は、ゆっくりと歩いている。


 急ぐ理由も、引き止める理由もないまま。


 ただ、同じ速度で。


「ねえユウタ」


 凛が、少しだけ前を見たまま言う。


 その声は、今までで一番静かで、

 でも一番はっきりしていた。


「なに」


 ユウタも、同じように前を向いたまま返す。


 隣にいるのに、どこか遠い距離。


 でも――


 もう、遠くない。


「これでさ」


 凛が、ほんの少しだけ足を緩める。


 靴音が、一瞬だけずれる。


 その間に、夜の空気が入り込む。


 少し笑う。


 あの頃と同じ、やわらかい笑い方。


 でもそこには、


 迷いも、痛みも、もうほとんど残っていない。


「完成だね」


 その言葉が、静かに落ちる。


 風もなく、音もなく、ただそのまま。


 夜の中に溶けるように。


 ユウタは、少しだけ目を細める。


(……ああ)


 分かる。


 足りなかったもの。

 欠けていた意味。

 名前のなかった感情。


 全部が、今ここで繋がった。


 始まりから終わりまで。


 バラバラだった時間が、


 一本の線になる。


 恋だった時間。

 苦しかった時間。

 離れた時間。

 そして、今。


 その全部を含めて――


 ひとつになる。


「……そうだな」


 小さく答える。


 それで十分だった。


 二人の間に、もう説明はいらない。


 風が、遅れて吹く。


 夜の空気が、やさしく通り抜ける。


 そのとき。


 ほんの一瞬だけ、


 二人の影が、重なった。


 でもすぐに、離れる。


 重ならないままでいい。


 それでも、完成しているから。


 足音が、また揃う。


 同じ速さで、同じ方向へ。


 でも――


 どこかで分かっている。


 この道が、もうすぐ終わることを。


 夜は静かに続いていく。


 その中で、


 二人の物語だけが、


 きれいに、閉じようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ