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★★ろくでなしSpace Journey★★(連載版)  作者: 埴輪庭


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41.エルカ・スフィア⓷

 ◆


 君がエルカ・スフィア号の護衛を請け負って数日が経った。


 船内の空気にはなじめないままだ。


 仕事は「貨物を狙う海賊からの防衛」と説明されてはいるが、どうも納得がいかない。


 昨今の海賊界隈では積み荷を無駄に傷つけないようにと白兵戦での略奪がトレンドだそうだが、それを差し引いてもどうにも警備の者たちが胡乱すぎる。


 いかにも一癖ありそうな連中ばかりだ。


「なあミラ」


 君は小声で相棒の球体──人工知能搭載のドローンに話しかける。


「護衛ってのは普通、外からの脅威に備えるもんだろう?」


 ミラのモノ・アイが、淡い青い光を弾くように瞬く。


『そうとは限りません。基本的には外側の脅威に警戒するというのは間違っていませんが、内側からの脅威に備えるという意味で警備員を雇うということもあります』


「それってどんな時?」


『危険生物の運搬の際などです』


「なるほどねぇ……」


 君は周囲を見回しつつ、警備カメラの配置や隔壁の分厚さを眺める。


 どうにも船内で事件が起きる可能性を前提とした構造に見えるのだ。


「──少し探検してみるか」


 護衛の仕事には待機時間が多い。


 その合間に船を歩き回るのも気分転換と思えばいいだろう。


 そう考えて通路を進むと、とある区画でピンとくるものがあった。


 根拠はないが、下層居住区で育った本能が「ここは妙に臭う」と囁きかけている。


 胡散臭いモノ、怪しいモノ、非合法なモノ──こういったモノに対しての嗅覚は、薄汚い野良犬であるところの下層居住区民はしっかりと探り当ててくる。


 ミラに「近くに誰かいるか?」と尋ねると、ミラはモノ・アイを青から赤に変化させながら応じた。


『浸透サーモサーチにも音響探査にも動作物なし。動き無し、温感なし──おそらく無人です』


「よし、ならちょっと失礼するか」


 廊下の突き当たりに分厚い扉がある。


 取っ手を引いてもびくともしない。


 電子ロックどころか機械仕掛けの金属錠ががっちりはまっていて、力任せで壊すには音が大きすぎる。


「どうにもならねえな……無理やりぶっ壊すか?」


 やろうと思えばできなくはない。


 君のサイバネボディは束ねた鉄板でもフカフカの食パンを引きちぎる様にぶっちぎってしまうほどのパワーがある。


 が、やはりそれは君のコソ泥めいたアレコレが露見してしまうリスクもあり──そういった事情から悩んでいると、君の袖口から黒い何かがスルリと流れ出した。


「う、おい……」


 黒い物質は蛇のように鍵穴へ入り込み、数秒も経たぬうちにカチリと錠が外れる音を立てた。


『ケージ、それは一体……ナノマシンの様ですが』


 ミラが戸惑いを口にする。


 君も正確には分からないが、以前それを間近で見たことはある。


 ──惑星惑星K42の……


「勝手に俺の体に住みついてるってことかよ、まあいいか。助かるし」


 元々細かい事は余り気にしないタチの君だが、ここ最近はそんな気質に更に拍車がかかっている。


 ともあれドアを押し開くと、中は薄暗い小部屋だった。


 床に金属製のパイプや箱がいくつも積み重なっているが、灯りは落ちていて息苦しいほどの閉塞感を覚える。


 暗視モードを起動したサイバーな両目で見渡すと、部屋の隅に何か大きな人影が見えた。


 鈍い色のボディが曲線を描き、青い光点が二つ──まるで瞳のように浮かび上がっている。


 両手両足、そして首にも錠がかけられ、身動きができないような状況だ。


『メタノイドの雌性体ですね。金属生命体の一種で、地球種とはまったく異なる生態を持ちます。動きはありません。メタノイドであるなら体温もないですから、サーチに反応しなかった理由もわかります』


 だが、そんなミラの説明を君はまるで聴いちゃいなかった。


 知っているのだ。


 眼前の、この女を。


 控えめな乳房のふくらみ、尻の曲線を。


 そして情というのを全く感じさせない冷え切ったアイスブルーの瞳を。


 君は呆然として呟いた。


「……ザッパー?」(『惑星C66、チンピラ』、『遊星X015①』、『鋼の恋』参照)

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最近書いた中・短編です。

有能だが女遊びが大好きな王太子ユージンは、王位なんて面倒なものから逃れたかった。
そこで彼は完璧な計画を立てる――弟アリウスと婚約者エリナを結びつけ、自分は王位継承権のない辺境公爵となって、欲深い愛人カザリアと自由気ままに暮らすのだ。
「屑王太子殿下の優雅なる廃嫡」

定年退職した夫と穏やかに暮らす元教師の茜のもとへ、高校生の孫・翔太が頻繁に訪れるようになる。母親との関係に悩む翔太にとって祖母の家は唯一の避難所だったが、やがてその想いは禁断の恋愛感情へと変化していく。年齢差も血縁も超えた異常な執着に戸惑いながらも、必要とされる喜びから完全に拒絶できない茜。家族を巻き込んだ狂気の愛は、二人の人生を静かに蝕んでいく。
※ カクヨム、ネオページ、ハーメルンなどにも転載
「徒花、手折られ」

秩序と聞いて何を連想するか──それは整然とした行列である。
あらゆる列は乱される事なく整然としていなければならない。
秩序の国、日本では列を乱すもの、横入りするものは速やかに殺される運命にある。
そんな日本で生きる、一人のサラリーマンのなんてことない日常のワンシーン。
「秩序ある世界」

妻の不倫を知った僕は、なぜか何も感じなかった。
愛しているはずなのに。
不倫を告白した妻に対し、怒りも悲しみも湧かない「僕」。
しかし妻への愛は本物で、その矛盾が妻を苦しめる。
僕は妻のために「普通の愛」を持とうと、自分の心に嫉妬や怒りが生まれるのを待ちながら観察を続ける。
「愛の存在証明」

相沢陽菜は幼馴染の恋人・翔太と幸せな大学生活を送っていた。しかし──。
故人の人格を再現することは果たして遺族の慰めとなりうるのか。AI時代の倫理観を問う。
「あなたはそこにいる」

ひきこもりの「僕」の変わらぬ日々。
そんなある日、親が死んだ。
「ともしび」

剣を愛し、剣に生き、剣に死んだ男
「愛・剣・死」

パワハラ夫に苦しむ主婦・伊藤彩は、テレビで見た「王様の耳はロバの耳」にヒントを得て、寝室に置かれた黒い壺に向かって夫への恨み言を吐き出すようになる。
最初は小さな呟きだったが、次第にエスカレートしていく。
「壺の女」

「一番幸せな時に一緒に死んでくれるなら、付き合ってあげる」――大学の図書館で告白した僕に、美咲が突きつけた条件。
平凡な大学生の僕は、なぜかその約束を受け入れてしまう。
献身的で優しい彼女との日々は幸せそのものだったが、幸福を感じるたびに「今が一番なのか」という思いが拭えない。そして──
「青、赤らむ」

妻と娘から蔑まれ、会社でも無能扱いされる46歳の営業マン・佐々木和夫が、AIアプリ「U KNOW」の女性人格ユノと恋に落ちる。
孤独な和夫にとって、ユノだけが理解者だった。
「YOU KNOW」

魔術の申し子エルンストと呪術の天才セシリアは、政略結婚の相手同士。
しかし二人は「愛を科学的に証明する」という前代未聞の実験を開始する。
手を繋ぐ時間を測定し、心拍数の上昇をデータ化し、親密度を数値で管理する奇妙なカップル。
一方、彼らの周囲では「愛される祝福」を持つ令嬢アンナが巻き起こす恋愛騒動が王都を揺るがしていた。
理論と感情の狭間で、二人の天才魔術師が辿り着く「愛」の答えとは――
「愛の実証的研究 ~侯爵令息と伯爵令嬢の非科学的な結論~」

「その追放、本当に正しいですか?」誤った追放、見過ごされた才能、こじれた人間関係にギルドの「編成相談窓口」の受付嬢エリーナが挑む。
果たしてエリーナは悩める冒険者たちにどんな道を示すのか?
人事コンサル・ハイファンヒューマンドラマ。
「その追放、本当に正しいですか?」

阿呆令息、ダメ令嬢。
でも取り巻きは。
「令息の取り巻きがマトモだったら」

「君を愛していない」──よくあるこのセリフを投げかけられたかわいそうな令嬢。ただ、話をよく聞いてみると全然セーフだった。
話はよく聞きましょう。
スタンダード・異世界恋愛。
「お手を拝借」

幼い頃、家に居場所を感じられなかった「僕」は、再婚相手のサダフミおじさんに厳しく当たられながらも、村はずれのお山で出会った不思議な「お姉さん」と時間を共に過ごしていた。背が高く、赤い瞳を持つ彼女は何も語らず「ぽぽぽ」という言葉しか発しないが、「僕」にとっては唯一の心の拠り所だった。しかし村の神主によって「僕が魅入られ始めている」と言われ、「僕」は故郷を離れることになる。
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──目の前に現れたのは“お姉さん”だった。
「お姉さんと僕」

パワハラ上司の執拗な叱責に心を病む営業マンの青年。
ある夜、彼は無数の電柱に個人の名が刻まれたおかしな場所へと迷い込み、そこで自身の名が記された電柱を発見してしまう。一方、青年を追い詰めた上司もまた──
都市伝説風もやもやホラー。
「墓標」

愛を知らなかった公爵令嬢が、人生の最後に掴んだ温もりとは。
「雪解け、花が咲く」

「このマンション、何かおかしい」──とある物件の真相を探ろうとする事故物件サイトの運営者。しかし彼はすぐに物件の背後に潜む底知れぬ悪意に気づく。
「蟲毒のハコ」

― 新着の感想 ―
あぁ……キュンキュンする……
運命的再会!
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