表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
★★ろくでなしSpace Journey★★(連載版)  作者: 埴輪庭


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/114

26.惑星U101⑦

 ◆


 海を知らない君ではあるが、空に広がる大海にはある種の神秘性を感じざるを得ない。


 空に浮かぶ水の海は透明感があり、その中を泳ぐ生物たちと思しき影が見え隠れする。


 広がる草原もまたいいと君は思う。


 こういった自然は、少なくとも下層居住区には存在しない。


 君はこれまでこの手の雄大な自然を映像データでしか見た事がなかった。


 映像データで見た事がない光景もある。


 例えば地表と空の海を繋ぐかのように立ち昇っている巨大な水の柱だ。


 ──他にも俺が見た事がないものが沢山あるのだろうな


 君の胸中に酒とも女体ともヤクとも違う別種の快楽が生まれていた。


 それすなわち好奇心、である。


 君は酔おうと思えば酔えるし、抱こうと思えば抱ける。ヤクは別だが。


 しかし、どれもこれもがどうにも生身の頃とは別の感覚に思えて仕方ないのだ。


 だからこそ、以前と同じ感覚を抱く事ができる好奇心の充足を追い求めているのかもしれない。


 ・

 ・

 ・


 ──空に海があるなら、そうか。そこに色々生き物がいても別におかしくはないよな。あの影は魚か何かか?


 君はそんなことを思いながら、ちらちらと空を見上げつつ歩を進める。


「うーん、心が二つ欲しい」


 思わずつぶやいたそんな言葉に、ドエムがギギ?と調番が錆びた扉を開けるような音を立てる。その音は余人には兎も角、君の耳には明確な疑問の問いかけに聞こえた。意味としては「なんて?」と言った所だろう。


「いや、俺はもっと色々見たいんだけどね、ここも物騒だしボケッとしてるわけにはいかないだろ?カジュアルな俺とシリアスな俺の2人が必要だなって」


 次の目的地まではそう遠くはないが、決して安全な星ではない事は既に知れている。


 だから君は注意を周囲に向けつつ、しかし周囲を警戒しながら移動していた。何かとフワフワ軽くモノを考える君ではあるが、ひょんな事で空からドカンと一発来て死にかねない星では流石にそこまでカジュアル思考では居られない。


 周辺警戒はガイドボットの職分ではあるが、君とドエムは事前の話し合い?によって双方が警戒にあたることにしていた。調査に便利なドエムではあるが、如何せん最安価モデルであるため能力には不安がある。


 自身のスペックを説明する際「ビガビガ」と君の耳にはどこか申し訳なさそうに聞こえるが、それを聞いた君の返事はカジュアル&シンプルであった。


「オッケー!じゃあ2人で警戒しような!」


 ・

 ・

 ・


 目的地に向かって暫く歩を進める君だが、やがて空に揺蕩う大海に何かが浮かんでいるのを見つけた。


 またぞろ何かの生き物かと目を凝らせば、どうやらそうではないようだ。


「あれは……宇宙船、か?」

挿絵(By みてみん)

 無数の宇宙船の残骸だ。10や20では利かない数が宙に浮いている。


 これらはおそらく水膜圏を突破しようとしたが、失敗した船たちの名残であろう。


 錆びた金属片、破壊された船体。


 惑星U101を訪れたのは君が最初ではない。


 これまでも数多くの事業団員が訪れている。


 水の豊富さが開拓候補地としての優先度を高いものとしているからだ。


 しかし、実の所つい最近までこの惑星への着陸は成功していなかった。


 その主な障害は惑星を取り巻く厚い水膜にある。


 大気の層よりも遥かに抵抗が大きい水膜は、これまでの科学技術では突破が難しかった。


 惑星開拓事業団も幾度もチャレンジを重ねていた。


 具体的にいえば、素行が悪い団員を船首を鋭くした流線形の宇宙船に乗せ、第一宇宙速度で水圏に突っこませたりといった事だ。


 よしんば水膜突破に成功すればそれはそれでよし。失敗してもダニの処分が出来るわけだからとても合理的である。


 この様にして事業団は人類生存権拡大の為に努力を重ねていたが、犠牲者が増えるばかりだった。


 その状況が打破されたのは、君の "棺桶号" にもそなわっている斥力シールド技術が普及し始めてからのことだ。


 君が目にした無数の宇宙船の残骸は、科学技術がまだ未熟だった時代の錆色をした残照なのだ。


 §


「なんであの辺だけに集まってるんだろうな」


 そんな事を呟くと、胸元からピコピコと音がする。


 ドエム曰く、海流の関係で滞留しているのだろうという事だった。


 ──吹き溜まりか


 君はどこか皮肉気にそんな風に思う。


 壊れ、用を為さなくなったガラクタがどこからともなく流れ着き、誰からも顧みられることなく朽ち果てて消え去っていく──…それは自身が暮らしている下層居住区のそれと似ている様に思えてならなかった。


 ◆


 ネガティブで、しかも何の意味もない想像のせいで気分が少しクサクサしてしまった君だが、すぐに機嫌を直す。


 なぜなら──…

挿絵(By みてみん)

 ふわり、ぱちん。


 ふわり、ぱちん、ぱちん。


 そんな風に空から泡が降り注いできたからだ。


 空から降る泡を見て、君は思わず心が軽くなる。


 上空の水膜は大量の気泡が発生しているのか、まるで雲にも見える。


 そんな雲から水泡がキラキラと輝きながら降ってくる様は幻想的と言ってもいい。


 君は子供のような無邪気な笑顔を浮かべた。泡が手の届く範囲に降り注ぎ、君はそれを掴もうと手を伸ばす。


 触れると泡はぱちんと音を立てて弾ける。


 いいね、と君は笑って降りしきる水泡を見上げた。


 ・

 ・

 ・


 明らかに普通の泡ではなかった。


 泡は水膜から降り注いでいる。


 つまり上空の水膜も普通ではない。


 普通の水、例えば海水ならば気泡は出来るにせよ、このシャボン玉のような泡などは形成されないだろう。ましてやそれが地表に辿り着くまで形を保てるとも思えない。


 この惑星特有の物理現象が関与しているか、あるいは何か特殊な成分が含まれているのかもしれない。


 しかしそれを考えるのは君の仕事ではなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最近書いた中・短編です。

有能だが女遊びが大好きな王太子ユージンは、王位なんて面倒なものから逃れたかった。
そこで彼は完璧な計画を立てる――弟アリウスと婚約者エリナを結びつけ、自分は王位継承権のない辺境公爵となって、欲深い愛人カザリアと自由気ままに暮らすのだ。
「屑王太子殿下の優雅なる廃嫡」

定年退職した夫と穏やかに暮らす元教師の茜のもとへ、高校生の孫・翔太が頻繁に訪れるようになる。母親との関係に悩む翔太にとって祖母の家は唯一の避難所だったが、やがてその想いは禁断の恋愛感情へと変化していく。年齢差も血縁も超えた異常な執着に戸惑いながらも、必要とされる喜びから完全に拒絶できない茜。家族を巻き込んだ狂気の愛は、二人の人生を静かに蝕んでいく。
※ カクヨム、ネオページ、ハーメルンなどにも転載
「徒花、手折られ」

秩序と聞いて何を連想するか──それは整然とした行列である。
あらゆる列は乱される事なく整然としていなければならない。
秩序の国、日本では列を乱すもの、横入りするものは速やかに殺される運命にある。
そんな日本で生きる、一人のサラリーマンのなんてことない日常のワンシーン。
「秩序ある世界」

妻の不倫を知った僕は、なぜか何も感じなかった。
愛しているはずなのに。
不倫を告白した妻に対し、怒りも悲しみも湧かない「僕」。
しかし妻への愛は本物で、その矛盾が妻を苦しめる。
僕は妻のために「普通の愛」を持とうと、自分の心に嫉妬や怒りが生まれるのを待ちながら観察を続ける。
「愛の存在証明」

相沢陽菜は幼馴染の恋人・翔太と幸せな大学生活を送っていた。しかし──。
故人の人格を再現することは果たして遺族の慰めとなりうるのか。AI時代の倫理観を問う。
「あなたはそこにいる」

ひきこもりの「僕」の変わらぬ日々。
そんなある日、親が死んだ。
「ともしび」

剣を愛し、剣に生き、剣に死んだ男
「愛・剣・死」

パワハラ夫に苦しむ主婦・伊藤彩は、テレビで見た「王様の耳はロバの耳」にヒントを得て、寝室に置かれた黒い壺に向かって夫への恨み言を吐き出すようになる。
最初は小さな呟きだったが、次第にエスカレートしていく。
「壺の女」

「一番幸せな時に一緒に死んでくれるなら、付き合ってあげる」――大学の図書館で告白した僕に、美咲が突きつけた条件。
平凡な大学生の僕は、なぜかその約束を受け入れてしまう。
献身的で優しい彼女との日々は幸せそのものだったが、幸福を感じるたびに「今が一番なのか」という思いが拭えない。そして──
「青、赤らむ」

妻と娘から蔑まれ、会社でも無能扱いされる46歳の営業マン・佐々木和夫が、AIアプリ「U KNOW」の女性人格ユノと恋に落ちる。
孤独な和夫にとって、ユノだけが理解者だった。
「YOU KNOW」

魔術の申し子エルンストと呪術の天才セシリアは、政略結婚の相手同士。
しかし二人は「愛を科学的に証明する」という前代未聞の実験を開始する。
手を繋ぐ時間を測定し、心拍数の上昇をデータ化し、親密度を数値で管理する奇妙なカップル。
一方、彼らの周囲では「愛される祝福」を持つ令嬢アンナが巻き起こす恋愛騒動が王都を揺るがしていた。
理論と感情の狭間で、二人の天才魔術師が辿り着く「愛」の答えとは――
「愛の実証的研究 ~侯爵令息と伯爵令嬢の非科学的な結論~」

「その追放、本当に正しいですか?」誤った追放、見過ごされた才能、こじれた人間関係にギルドの「編成相談窓口」の受付嬢エリーナが挑む。
果たしてエリーナは悩める冒険者たちにどんな道を示すのか?
人事コンサル・ハイファンヒューマンドラマ。
「その追放、本当に正しいですか?」

阿呆令息、ダメ令嬢。
でも取り巻きは。
「令息の取り巻きがマトモだったら」

「君を愛していない」──よくあるこのセリフを投げかけられたかわいそうな令嬢。ただ、話をよく聞いてみると全然セーフだった。
話はよく聞きましょう。
スタンダード・異世界恋愛。
「お手を拝借」

幼い頃、家に居場所を感じられなかった「僕」は、再婚相手のサダフミおじさんに厳しく当たられながらも、村はずれのお山で出会った不思議な「お姉さん」と時間を共に過ごしていた。背が高く、赤い瞳を持つ彼女は何も語らず「ぽぽぽ」という言葉しか発しないが、「僕」にとっては唯一の心の拠り所だった。しかし村の神主によって「僕が魅入られ始めている」と言われ、「僕」は故郷を離れることになる。
あれから10年。
都会で暮らす高校生となった「僕」は、いまだ“お姉さん”との思い出を捨てきれずにいた。そんなある夕暮れ、突如あたりが異常に暗く染まり、“異常領域”という怪現象に巻き込まれてしまう。鳥の羽を持ち、半ば白骨化した赤ん坊を抱えた女の怪物に襲われ、絶体絶命の危機に陥ったとき。
──目の前に現れたのは“お姉さん”だった。
「お姉さんと僕」

パワハラ上司の執拗な叱責に心を病む営業マンの青年。
ある夜、彼は無数の電柱に個人の名が刻まれたおかしな場所へと迷い込み、そこで自身の名が記された電柱を発見してしまう。一方、青年を追い詰めた上司もまた──
都市伝説風もやもやホラー。
「墓標」

愛を知らなかった公爵令嬢が、人生の最後に掴んだ温もりとは。
「雪解け、花が咲く」

「このマンション、何かおかしい」──とある物件の真相を探ろうとする事故物件サイトの運営者。しかし彼はすぐに物件の背後に潜む底知れぬ悪意に気づく。
「蟲毒のハコ」

― 新着の感想 ―
[良い点] あなたの想像力やばすぎwww [気になる点] あなたは、埴輪というのですが何故? [一言] ええ、星には抗えませんよね。 僕も地球で二回目の骨折を味わっています。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ