season2-210 第12話 God bless you
2030年10月11日21:10 アメリカ合衆国・ホワイトハウス 大統領執務室
全米主要テレビ局は通常番組を全て中断し、緊急特別放送へ切り替わっていた。ニュース速報のテロップは絶え間なく流れ続け、SNS上では「戦争」「核」「ハワイ沖」「DEFCON1」という言葉が全国規模で拡散している。執務室には静かな緊張感が漂っていた。大統領執務机の背後には星条旗と大統領旗。普段であれば歴史的重厚感を感じさせる空間だったが、この夜だけは違った。部屋全体が、国家そのものの重圧に包まれているようだった。
やがてカメラの赤ランプが点灯する。ジョセフ・マルティネス大統領はゆっくりと口を開いた。
「アメリカ国民の皆さん。そして、自由と平和を守るため共に立つ国際同盟加盟国の皆さん。本日、私は極めて重大な報告を行います」
低く落ち着いた声だった。しかし、その声の奥には明確な緊張が滲んでいた。
「先程、デングリーヅ連邦はヴェルス停戦条約を一方的に破棄しました。さらに、ハワイ周辺海域において、国際同盟監視艦艇および日本国海上自衛隊艦艇に対する武力攻撃を実施しました」
画面にはハワイ沖の映像が映し出され、炎上する海面や夜空を横切る迎撃ミサイル、損傷した海上自衛隊の護衛艦が映っていた。
「我々は停戦を維持しようとしていました。外交努力も続けていました。しかし、デングリーヅ連邦政府は、自ら戦争という道を選択したのです」
大統領は一度言葉を切り、静かに呼吸を整えた。
「私は本日、日本国首相・宮崎夏帆閣下、ならびに国際同盟加盟各国首脳と緊急協議を実施し、その結果我々は一つの結論に至りました。デングリーヅ連邦による軍事行動を阻止しなければ、更なる大規模被害は避けられない。そして、自由主義諸国に対する深刻な脅威が継続するということに」
スクリーンにはグリーンランド地区の衛星映像が表示される。氷雪の中に広がる軍事基地や滑走路に並ぶ攻撃機が映し出されていた。
「諜報分析の結果、デングリーヅ連邦グリーンランド地区は長距離攻撃準備を進めている可能性が極めて高いと判断されました。この長距離攻撃によって日本本土、西海岸、アラスカ、国際同盟加盟国に対するミサイル攻撃の危険が高くなっています」
大統領の表情がさらに険しくなった。
「私は合衆国大統領として、アメリカ国民を守る責任があります。同時に、我々と共に戦う同盟国を守る責任もあります。その責任から逃れることはできません。私は本日、アメリカ軍に対し、デングリーヅ連邦グリーンランド地区軍事拠点に対する限定的戦略攻撃を承認しました。攻撃対象は軍事施設のみです。司令部、戦略兵器基地、長距離攻撃拠点に限定されます。民間人への被害を最小限に抑えるため、あらゆる措置を講じます」
その言葉は慎重だったが誰もが理解していた。これは核兵器使用の事実上の宣言だった。
「私は、この決定が持つ重みを理解しています。核兵器という言葉が持つ恐怖も理解しています。広島、長崎以降、人類は二度と同じ過ちを繰り返さないと誓いました。だからこそ、この決断は、私の人生において最も苦しい決断でした。しかし今、我々は現実に向き合わなければならない。敵は既に我々に対して全面戦争を仕掛けています。もし我々が何も行わなければ、さらに多くの都市が炎に包まれ、さらに多くの命が失われるでしょう。私は、それを許すことはできません」
大統領は真っ直ぐカメラを見つめた。
「アメリカは侵略国家ではありません。我々は自由を守る国家です。我々は、平和を守るために戦います。日本、グレーシス共和国、ヴェルディ連邦共和国、そして全ての同盟国と共に、国際秩序を守り抜きます。これから困難な時代が始まります。皆さんの中には、不安を感じている人もいるでしょう。家族を心配している人もいるでしょう。私も同じです。しかし、アメリカは決して屈しません。我々は恐怖によって自由を手放したりはしない。この国は、幾度もの危機を乗り越えてきました。そして今回も必ず乗り越えてみせましょう」
この演説は全米各地で人々が息を呑みながら演説を見つめていた。
「そして兵士諸君へ。今この瞬間も、海の上で、空で、極寒の地で、自由を守るため戦っている全ての将兵に、私は心から敬意を表します。皆さんは一人ではありません。国家が、国民が、同盟国が、皆さんと共にあります」
そしてマルティネス大統領は最後に一言締めくくった。
「神よ、アメリカ合衆国を守りたまえ。そして、自由を守る全ての国々に加護を」
「God bless you」
「And God bless the United States of America」
演説終了と同時に、ホワイトハウス地下では最終発射認証コードがワイオミング州のフランシス・E・ワーレン空軍基地に駐留する第90ミサイル航空団第319・第320・第321の3個ミサイル中隊に送信された。
次回もよろしくお願いします!




