season2-204 第6話 対峙 Ⅱ
「高速飛翔体探知!」ミサイルです!!」
日米海軍交流会から横須賀基地へ帰港中、停戦海域であるのにも関わらずデングリーヅ連邦は国際同盟海軍を襲撃後、海上自衛隊艦艇へ威嚇行動とも取れる行為を実施した。その報告と同時に、CIC内の空気が一変した。レーダースクリーンには、海面すれすれを超高速で飛翔する複数の光点が映し出されていた。飛翔高度は極端に低く、典型的なシースキミング飛行である。対艦ミサイルであることは誰の目にも明らかだった。
「飛翔体数!」
「現在4!さらに増加の可能性あり!」
「目標は!?」
「先頭艦隊方向!当艦および『あまつかぜ』へ接近中!」
島川艦長は即座に迎撃を命じた。
「ESSM発射用意!CIWS自動迎撃許可!全艦回避運動!」
「了解!」
直後、「なかすかぜ」の艦体が大きく傾いた。高速回避機動により艦首が左へ切り込む。艦内では固定されていない物品が激しく揺れ、警報音が絶え間なく鳴り響いていた。「なかすかぜ」VLSから迎撃ミサイルが次々と発射される。轟音とともに夜空へ白い噴煙が突き上がり、暗闇の海を一瞬だけ昼のように照らした。数秒後、遠方海域で激しい閃光が発生する。
「1発撃墜!」
「続け!」
しかし全てを止め切れなかった。
「右舷方向、高速接近!」
「CIWS作動!」
20mm機関砲が猛烈な速度で火を噴く。曳光弾の帯が夜の海面を切り裂き、接近するミサイルへ向かっていく。
その直後、凄まじい衝撃が艦を襲った。轟音とともに艦体が激しく震え、CIC内部の照明が一瞬消える。隊員たちはコンソールへ叩きつけられ、天井から配線や火花が降り注いだ。
「被弾!!」
「右舷後部被弾!」
艦橋が激しく揺れ、島川艦長は咄嗟に手すりへ掴まった。被弾したのは右舷後部甲板付近だった。CIWS近辺にミサイルが命中し、炸裂した弾頭によって艦尾側区画が炎に包まれる。爆発の衝撃で通信アンテナの一部が損傷し、右舷側の外部監視カメラ映像も途絶した。
「機関室状況確認急げ!」
「推進維持しています!速力18ノットまで低下!」
「火災発生区画は!?」
「第3区画で火災拡大中!負傷者多数!」
艦内には焦げた金属と火薬の臭いが広がっていた。消火班が耐火装備を着込み、煙が充満する通路へ突入していく。赤色灯に照らされた艦内では、負傷した隊員が担架で運ばれ、衛生員たちが必死に止血処置を行っていた。
その頃、「あまつかぜ」も至近弾を受けていた。海面に着弾したミサイルの爆風と破片により艦橋窓ガラスの一部が破損し、レーダー装置にも障害が発生していた。さらにレーダー員が新たな脅威を報告する。
「艦長!敵艦隊さらに接近!距離42km!」
スクリーン上では、6隻の不明艦隊がなおも艦隊方向へ進出していた。
停戦海域外縁部とはいえ、事実上の交戦状態に入ったことは明白だった。島川艦長は被害報告を聞きながら、静かに命じた。
「各艦へ通達。防御を維持しつつ後退。補給艦群を絶対に下がらせろ」
その表情には焦りよりも、指揮官としての覚悟が浮かんでいた。被弾から数分後、「なかすかぜ」CICでは損害確認と同時に上級司令部への緊急報告準備が進められていた。右舷後部ではなおも断続的に火災が続いていたが、消火班の活動によって延焼は徐々に抑え込まれつつあった。艦内各所では応急修理班が破損した電源系統や通信ケーブルの復旧を急ぎ、負傷者は艦内医務室へ次々と搬送されていた。
「艦長、統合通信回線復旧しました。海上総隊および横須賀地方総監部への通信可能です」
「繋げ」
通信員が暗号化回線を開設する。深夜の横須賀地方総監部では、当直幕僚たちが突然の緊急通信に騒然となっていた。停戦海域周辺を航行中の艦隊からの被弾報告は、想定されていた最悪の事態に近かった。
『こちら海上総隊司令部。当直幕僚長、応答せよ』
「こちら第9護衛隊旗艦『なかすかぜ』。艦長の島川です」
島川艦長は騒音と警報音が響くCICの中で、努めて冷静に状況を報告した。
「03時41分頃、ハワイ地区北東海域において不明艦隊より対艦ミサイル攻撃を受けました。当艦右舷後部に被弾。現在火災発生中ですが航行継続可能です」
通信の向こう側で一瞬沈黙が流れる。
『攻撃主体は確認できているか』
「現時点で断定はしておりません。しかし、直前に国際同盟海軍艦艇UNM-07より“デングリーヅ連邦海軍巡洋艦2隻、駆逐艦複数”との救難通信を受信。また不明艦隊による火器管制レーダー照射を確認しています」
その報告は、停戦条約そのものを揺るがしかねない内容だった。海上総隊司令部では、当直幕僚だけではなく幹部自衛官の緊急招集が始まっていた。防衛省統合作戦司令部、首相官邸、外務省危機管理センターへの第一報も同時並行で進められていく。
『被害状況を報告せよ』
「『なかすかぜ』右舷後部被弾。推進維持。速力18ノット。死傷者確認中。『あまつかぜ』軽損傷。補給艦および多用途支援艦は現時点被害なし」
島川艦長は続けて、艦隊周辺状況も報告した。
「現在、不明艦隊6隻が接近継続中。こちらは防御戦闘を実施しつつアラスカ方面へ後退中です。武器等防護発令下において必要最小限の迎撃を実施しました」
横須賀地方総監部では、作戦図上に次々と情報が書き込まれていく。ハワイ周辺停戦海域、UNM艦消息不明、海上自衛隊艦艇被弾、不明艦隊接近とどれもが一歩間違えれば全面衝突へ発展しかねない情報だった。やがて海上総隊司令部から新たな指示が下る。
『各艦は補給艦群護衛を最優先とし戦域から離脱し航行を継続せよ。増援については現在検討中。航空自衛隊および米軍やグレーシス共和国、国際同盟とも情報共有を開始した』
「了解」
通信終了後、島川艦長はスクリーンを見つめた。レーダー上ではなおも複数の敵性反応が艦隊を追尾している。
その時、新たな報告がCICへ響く。
「艦長!ハワイ方面より高速航空目標多数探知!」
誰もが次の瞬間を悟っていた。戦闘は、さらに拡大しようとしていた。
次回もよろしくお願いします!




