神官は耐える
「ふふふっ、いよいよここまで来ちゃったねえ!!」
「どうなるか楽しみです!」
ティウとベリリーは興奮を抑えきれていない。まあ俺も似たようなものだ。
ノブラックはその後、9回戦、10回戦を危なげなく勝ち進み、なんと今は11回戦である。神官はどうぐ使いより参加者が多いため一つ試合数が多くなっている。
準決勝となると観客の数も相当多い。客席は満席近いのではないだろうか。とはいってもここは小さいスタジアムで、メインスタジアムではない。
メインスタジアムで試合が行われるのは決勝だけだ。
「さあー! いよいよ始まるバトルトーナメント神官部門第十回戦!! 実況は私、レメント王国放送局所属アナウンサーのリシャラーです。」「解説はレメント王国騎士団後方支援部門回復支援部副部長のホイラです、よろしくおねがいします」
「今回の試合はぁーーーー!! 仮名『攻撃魔法神官2』VS仮名『不死身の神官26』の勝負だぁーー!!」
「攻撃魔法神官2はここまで積極的にダメージを重ねて相手を倒すというまったくもって神官らしくない戦い方を見せてきました。ですが強力な回復魔法も当然のように使いこなすようです。一方不死身の神官26はその名の通りこれまで一度も倒れることなく、常に相手に自分が喰らうダメージより少し多いダメージを与えながら勝ち残ってきました。」
ちなみに今回、ノブラックが使う魔法はほとんどボーロンが把握しているため解説者がわからなくてもチャットに送ってくれることになっている。
すぐ横にボーロンはいるが、どうせ歓声でよく聞こえないしな。
「試合開始まで10,9,8,7,6」
見る側だとこのカウントダウンってかなりテンポが速くて短いんだな。
「5,4,3,2,1――」
「バトルゥスタートォーーーー!!」
試合開始早々不死身の神官26はノブラックから距離をとって何やら自分に魔法を使っている。
「不死身26は下がって自分に魔法をかけました、あれは一体何なのでしょう」
「これまでの試合から見るにおそらく継続回復系のバフだと思われます。光具合からも『スーバー・リジェネレーション』あたりではないかと。」
「なるほど! これで死なないようにしているわけですね~」
お、ノブラックが結構長めの詠唱をしているな。そしてそれが敵に当たった。エフェクトが闇属性魔法っぽいな
「おっと! 攻撃魔法神官2が攻撃を仕掛けたァァァ!! あれは見たことないぞ!?」
「私も初めてみました。光かたを見ると『リバース・ヒール』のようにも見えますが少し違いそうですね」
ボーロン:あれね、ダークヒールって言ってリバースヒールの上位版みたいだね。追加効果として十数秒間回復無効になるらしい。
ノブラックもいつの間に新しい魔法を覚えていたんだな。
「不死身の魔法使い、焦っているようです。ですが『マジック・プロテクション』などを展開しようとしません。これはどういうことでしょうか」
「攻撃魔法使いが使った魔法はおそらくリバース・ヒール系の魔法で間違いないと思われます。あの魔法は物理防御・魔法防御共に無視してダメージを与えることができるんです。」
「そして不死身の魔法使い、反撃に出た!! 「ホーリー・ジャベリン」だーー!! だがそれを攻撃魔法使い、軽快な動きで躱していく!!」
お互いが回復魔法を使えるせいでなかなか勝負が決まりそうにない。流石にノブラックも短時間の間に削り切ることは厳しそうだ。
ボーロン:今回の相手、最大HPすらバフを掛けて拡張しているっぽい。これは多分制限時間内に倒し切ることはないだろうね。
「ああっとぉ!? ここで攻撃魔法使い2、氷属性の魔法を使ったぁ。と思ったら今度は雷属性だ!! 初級魔法ですが明らかに神官の範疇を超えています!!」
ボーロン:あれは昔ロージェが作った魔法道具かな。多分狙いは相手を動揺させることくらいだろうけど。もしかしたら麻痺とか狙ってるのかも。
やっぱりMPが潤沢だと試合中の選択肢も増えて楽しそうだ。
俺もこのトーナメントが終わったら魔石使って色々やりたい。
「試合終了ーー!! 与ダメは、攻撃魔法神官2が3476、不死身の神官26が1980だぁーー! よって決勝進出は『攻撃魔法神官2』に決まりました!!!!」
「っしゃあああああ!!!!」
「やったーーー勝った勝ったーーー」
「よし、みんなでノブラックを迎えに行くぞ!!!」
「みんな来てくれたんだね。ありがとう。」
「ねえねえ、次の試合の相手なんだけどさ、」
「おいボーロン、早いって! 今から決勝戦まで2時間以上あるんだぞ!? ノブラックも今終わったばかりなんだから少しは休ませてやれって。」
「んじゃ、みんなで一旦休憩かなーー」
「流石にかなり長い時間ログインしてますから、皆さん一旦体ほぐしたほうがいいでしょうねー。」
「じゃあ今から30分後、またここに集合な!」
「オッケー」
「ばいばーい」
「じゃあな」
みんなそれぞれログアウトしていき、俺も落ちた。
長くVRヘッドギアをつけていたせいで顔の表面が少ししびれているような感じがする。さて、軽食でも取りながらトーナメントの他の部門の様子でも見てみるか。
今回行われたすべての試合は録画されており、公式サイトから観れるようになっている。ちゃっかり広告までついていて、運営もせせこましいことこの上ない。
掲示板などの情報を軽く見ると、どうやら召喚士の試合がかなり盛り上がっているようだ。上位の人達は見たこともないような大型のモンスターを扱い敵をなぎ倒していっているとか。
他に見応えがありそうなのはやはり戦士、魔法使い、武闘家あたりだろう。道具使いはかなり地味だと思っていたが、交易人はもっとひどいようだ。
前衛職と魔法使い以外はどうしても装備の差だけで勝負が付く傾向にあり面白くない、というのが多くの人の総評だ。
まあ運営もある程度予想していただろうしおそらく今回のイベントは今後のイベントをやるためのテスト的な意味合いもあり、そこまで大きな力はいれていないのだろう。
決勝戦に進出したプレイヤーの情報などを調べていたらすっかり約束の時間になってしまった。急いでトイレを済ませVRヘッドギアを被った。
「悪い、おまたせ」
「おっす、これで全員揃ったな。それじゃ、会場に行こうぜ!」
本来のレメント王国のマップに配置されている、巨大な地下スタジアムに入る。流石に決勝ともなると観客席は大賑わいだ。
決勝戦だけはチケット制になっていて、入るのには事前にゲーム内通貨を払わなければならない。一応ゲーム外からの客用に現金でも観戦チケットは買えるようになっていた。
「にしてもよくボックス席買えたよな」
「先着順で先行販売されていたから、なんか普通に取れた」
そう、ボーロンは先着順のチケット類を取るのが昔からうまいのだ。本人は普通と言っているが、もちろんこのチケットだって秒で売り切れていたはずだ。
このボックス席は便利なことに、自分たちで自由に防音の壁を設定できるのだ。だから俺たちがあまり外に聞かれたくないことを話しても他人に聞かれる心配はない。
逆に他の観客の声や試合しているときの効果音などはしっかり入ってくるので静寂の中試合を見るということもなくて済む。
その設定をして暫く待っていたら試合が始まった。まずは戦士だ。
「さー! いよいよ始まるバトルトーナメント決勝戦!! 始めは戦士です! 実況は私、レメント王国放送局所属アナウンサーのヴィラウベートです!」「解説はレメント王国騎士団軍事戦略部総裁のウォガドーゼです、よろしくおねがいします」
解説の人は上に行くほど上部の人間になっていくんだな。
「今回の試合はぁーーーー!! 仮名『炎の剣士46』VSソードマンの勝負だぁーー!!」
プレイヤーネームがソードマンって、よっぽど剣が好きなんだろうな。
と思って試合を見てたらこれあれだ、多分リアルでも剣術の類やってる人だ。
戦士同士の試合はやはり迫力があって見ていて面白い。俺たちのパーティーにいないだけに参考になる戦い方も多くあった。
その後騎士、武闘家、魔術師、盗賊、召喚士、狩り人と試合をやって、いよいよ次が神官だ。
みんなもはや何も口に出さない。ああ、俺も緊張してきた。
巨大なスタジアムのフィールドの中に、俺達の見慣れた白と赤を基調にしたローブのような服を着た神官がまっすぐ入場してくる。
「次の試合は神官だぁーーーー! 対戦者は仮名『攻撃魔法神官2』VSカリスケ!!」
「「「キャーーキャーー」」」
なんか甲高い歓声が響いているな、対戦相手のやつ有名なのかな?
「なあボーロン、あいつ誰?」
「あの人ね、動画サイトで有名な実況者で、日々フィールドとかダンジョンで困っている冒険者を回復して巡るプレイで人気を集めているみたい。かなり有名らしいよ。」
「へー、そんなんいたんか。知らなかった。」
「あのプレイヤーは見た目もかっこいいせいで女性プレイヤーから人気なんだってさ」
エリウムが不満そうにつぶやいているな。
しかし俺にはゲーム内で人助けをする人の気持ちがわからん。こういうことを表に言うと色々言われるから黙って入るものの、ゲームくらい自分第一でやっていくのが一番だと思うんだがなあ。
おっと、もう始まるのか
「試合開始まで10,9,8,7,6,5,4,3,2,1――」
「バトルゥスタートォーーーー!!」




