トーナメントの厳しさ
ルールに抵触していない以上、俺のやり方には何も問題ない。俺が魔道具の方面で努力して磨いた技術をそのまま使っているだけだ、と思い込み、一旦それ以上は考えないことにした。
その結果2試合目から4試合目までは至って順調に進んだ。ひたすら単調な作戦で実況者も黙り込むほどだ。
そして5戦目。
流石にここまで進んでくるとスタジアムの観客席にいる人の数もだいぶ増えてきて、もう個々人の声援や罵倒が聞き取れることは殆どなくなっていた。
そしてフィールド上に出て俺は驚いた。今回の対戦相手は予選で三回目に戦った大剣持ちの女子だった。
「あえてよかったわ。もうあの石には引っかからないからね!!」
「こっちこそ、何度でもあの大剣は躱してみせるさ」
こうしてお互い試合開始の位置につく。
「さあー! いよいよ始まるバトルトーナメントどうぐ使い第バトルトーナメントどうぐ使い第五回戦!! 実況・解説は私、専用NPCのカセイツがお送りしまぁす!」
「今回の試合はぁーーーー!! 仮名『大剣使い』VS仮名『謎の魔法道具使い3スリー』の勝負だぁーー!!」
やはり、あの銀色の大剣は何度見ても威圧感がある。
「試合開始30秒前です」
「試合開始20秒前です」
「試合開始まで10,9,7,6,5,4,3,2,1――」
「バトルゥスタートォーーーー!!」
「アネクセーション・トキシン!!!!」
一応毒魔法だけはかけておく。だが今回はこちらの「スタンブル・ストーン」を警戒して全くその場を動こうとしない。
俺は一先ず相手を警戒しつつ徐々に距離を取っていく。
すると相手は初期の位置から真横に走り出した。結果的にお互いが距離をとった形だ。
そう思った次の瞬間、自分に一直線にではなく少々外れた角度からこっちに向かってきた。
不味い――このスタンブルストーンは自分の前後の直線上にしか打つことができない。したがって回りながら迫ってこられるとかなり当てるのは困難になる。
俺はまだ一度も使っていない魔道具を使う決意をする。
ただ、消費魔力が大きいからこの相手でなければ使えないだろうから特に今後の戦闘に影響することはないだろう。
俺は逃げながら相手の声に耳を澄ます。
「おおっとぉー、魔道具使い3、今回は得意のスタンブル・ストーンを一切使っていないぞー!? これはどういうことだぁー??」
こういうとき、実況の声は邪魔になるな。
「スパイラル・レーザー!!」
相手がスキル名を叫んでいる間に俺は右手をミスリルのプレートアーマーのヘルメット部分に触れた。
「転移」
おそらくこんなにボソッと呟いては相手にも、実況者にも観客にもなんと言ったのか全く聞こえていないだろう。
こうして俺は元いた場所から瞬時に1mほど右に転移し、その横を――銃弾のごとく回転しながら一直線に進む大剣が通り過ぎていった。
「痛て!!」
この大剣、衝撃波なんてものを発生させてやがった。それをモロに食らってしまい、多少HPが削れる。
相手はここまでの力を持っていたのか……と今更恐れつつ、もはや武器を持たない相手をスタンブルストーンで威嚇しながら近づき、短剣で二回ほど切りつけて再び俺は勝利した。
「決まったぁー!! 大剣を矢のように放った『大剣使い』だったがそれを簡単に避けた『魔道具使い3』が、その後短剣で切りつけて試合はフィニーッシュ!! どうやら大剣使いは攻撃力極振りだったようだぁぁ!!」
俺の残りMPを見ると1割もない。やはり転移魔法は魔力の消費量が多くてとても連発できるものじゃないな。
いつか転移魔法に活用できる触媒となる宝石も見つけたいと思いつつ、俺は次の試合の会場に向かった。
フレンドチャットでベリリーが五回戦で敗退した、という連絡が入った。お疲れ様、と伝えつつやはりこのあたりから敵が相当強くなってくるようだと言われた。
まあ、実際四回戦までとは違う感じしたもんな。
そんなことを思いつつ六回戦もなんとか勝てた。相手がかなり精度の高いブーメラン使いで何度か首に攻撃をくらいHPが尽きかけたが残り5%ほどで相手が倒れた。
ここでボーロンとエリウムが敗退したと連絡が入った。
これで残っているのは俺、ノブラック、ティウの三人になったわけだ。
予想外に俺も進んでしまったな。
お、ボーロンからなにやら長めのメッセージが飛んできたな。
ボーロン:ロージェの次の試合の相手、今調べたら見たこともない超重量級の装備を付けているんだって。気をつけてね。ちなみにその金属は魔法耐性、物理攻撃耐性、それと状態異常耐性もあるらしいよ……。その敵はどの試合も一歩も動かないからいつもの石のやつも効かないかも。
ロージェ:げっ。
いよいよここからっていう感じだ。もはや次の相手に毒は効かない。ここでまた用意していた別の切り札を使うことになりそうだ。
俺は控室で宝石の付け替えをした。このトーナメントでは予選の初めに登録した装備をあとから変更することはできない仕様になっている。だが宝石は装備の装飾とみなされているのか付け替えができてしまうのだ。
もはやそんな重い装備の相手にスタンブルストーンなど効きはしないだろう。足のアンクレットからスモーキー・クォーツを取り出して手袋に甲の部分に付け替えた。
よし、行こう!
「さあー! いよいよ始まるバトルトーナメントどうぐ使い第七回戦!! 実況は私、レメント王国放送局所属アナウンサーのクストです。」「解説はレメント王国騎士団軍事戦略部門兵器部のツェンホートです、よろしくおねがいします」
「今回の試合はぁーーーー!! 仮名『重量装備使い』VS仮名『魔法道具使い3』の勝負だぁーー!!」
「重量装備使いはここまでの試合で名前からも分かる通り他を許さない最強とも言われる固く重い装備で他を圧倒してきました。それに対して魔法道具使い3は魔法道具を駆使して魔法を巧みに使い敵を圧倒してきました。今回この両者がそれぞれどう戦っていくのか楽しみですねー。」
ついに王国のNPCが導入されてきたようだ。しかし今はそんなことを気にしている暇はない。
目の前に立つ巨漢は、その体以上の巨大な防具を身に着けているのだ。色は黒紫色とでも言えばいいだろうか、闇の色をしている。
フィールド上を歩くだけで軽い地響きが聞こえてくる。相手は常に俺を睨みつけてくる。
「よろしくおねがいします。」
「よろしく」
相手は一言しか話さなかった。そのやり取りを終えると早速カウントダウンが始まる。
「試合開始まで10,9,7,6,5,4,3,2,1――」
「バトルゥスタートォーーーー!!」
「うおっ……ビルディング・コンストラクト!!」
試合開始と同時に俺は勝手に名付けた魔法の名前を叫んだが、あいてはその場で大きく足踏みをしたようで姿勢が崩れた。
恐ろしいことに、HPが1%減っている。
まさかこいつ、歩くだけで敵にダメージを与えるのか……?
だがそんなことはもう関係ない。俺の魔法が発動し敵を中心とした半径2mほどの円がまるで地面をくり抜いて抜き出したかのごとく上昇していく。速さは高層マンションのエレベーターくらいか。
その円柱は敵を載せたままひたすら上昇する。もう10mを超えただろうか。この土魔法の終了条件はない。つまり俺のMPが切れるまでずっとこの円柱は上に登り続ける。
スタジアムの天井が50mほどあるが流石にそこまでは届かないだろう。
ひたすら俺はなるべく高く敵が昇らされることを祈った。
そして俺のMPはゼロになる。
「いっけえええええええええ!!」
円柱はまるで何もなかったかのごとく一瞬で消滅し、地面も元通りになっている。そこに40m以上の高さから敵が落ちてくる。
ここが重要だ。この次の瞬間には勝敗が決まる。
「うぉらあぁぁ!!」
俺は全力でジャンプした。ゲームの世界では立体機動に甘く、適当に跳んでも1mほどは跳べる。
俺がジャンプした次の瞬間、敵は地面に衝突した。
おそらくスタジアム全体を地震が襲ったはずだ。
「高所から落下した『重量装備使い』のHPは? おぉっとー、完全にゼロになったァァァァ!! 『魔法道具使い3』、見事に勝利しました!! このレベルにもなって戦闘時間が1分を切るのはかなり稀……」
「どうやら今入った情報によりますと他の職業部門では依然として短期決戦が行われている模様です。ただ、どうぐ使いでは今の所既に試合が終了しているのはここだけですねえ。」
「ベスト16に駒を進めたのは巧みな魔法を使いこなす、『魔道具使い3』だーーー!!」
観客席からも歓声があがる。今回使った戦法だと見ていても地味じゃなくて観客受けも良かったのだろう。おっと、相手に挨拶もしないと。
「ありがとうございました。」
「ああ、いい勉強になった。またいづれ。」
ひいい……。やっぱりこの人怖い。
そんなこんなで次はとうとうベスト16だ。




