せこくていいのかだめなのか
飯を食ってる二人以外の四人で再びバトルートーナメントの会場に向かった。
予選ではかなりの数を同時に行うため本来のマップ上に設置されている巨大なスタジアム、それの近くに建てられている小さめのスタジアム以外にも多数の臨時闘技場が別サーバーに建てられていた。
トーナメントも序盤は同時試合数が多いため臨時会場も使いつつ、徐々にマップ上のスタジアムのみに収束していく形らしい。
ベスト4と決勝戦は他の職業と同時に行わず、誰もがその試合を観ることができるようになっている。
逆に言えば、俺らのパーティーも仲間の試合を見れるのは早々に自分が死ぬか、誰かがベスト4まで勝ち登ったときのみということになる。
まあ正直ベスト16行けばかなりいいほうだと思う。もしかしたらティウ・エリウム・ノブラックのうち誰か一人くらいはその上に行くかもしれないが。
そんなことを思いつつ午前中と同じように臨時会場のスタジアムの控室に入る。
本戦ということもあってかかなり緊張してきたな……。
もともと出る予定がなかったから念入りに準備はしていないとは言えやはり出るからには勝ちたいところだ。
控室に入るとディスプレイにはフィールドに入るまでの時間以外にもなにか表示されているな……。
一つは今回のトーナメント表で、全部で11回戦えば優勝、という事が書かれている。
もうひとつは匿名で参加する場合にこのトーナメントに限り授けられる仮名の表示か。にしてもゲームの中のプレイヤーネームを隠して更に仮名ってのも複雑な感じだな。
俺のプレイヤーネームは「謎の魔法道具使い」だ。
仮名は予選の様子を判断して付けられるとか言ってたな。
これ、名前だけで戦略バレするのではないだろうか。まあ一般的な魔法と言えば直接的に魔法を相手にぶつけてダメージを与えるものだから大丈夫だろうけれども。
「入場してください。今から5分以内に入場しない場合棄権とみなされます。」
控室のディスプレイに表示されるこの表示はいつもと全く変わらないんだな……。
そう思いつつ俺はフィールド上に入っていく。
お、予選のときよりは少しざわついているな。流石に本戦は観客もそこそこいるか。
「さあー! いよいよ始まるバトルトーナメントどうぐ使い第1試合!! 実況・解説は私、専用NPCのカセイツがお送りしまぁす!」
うわっ。まじか、そう言えば実況する人がいるとか言ってたな。正直うるさい気もするが盛り上がる為には仕方がないか。
「今回の試合はぁーーーー!! 『タスケ』VS仮名『謎の魔法道具使い3』の勝負だぁーー!!」
会場がどよめく。そりゃあそうだよな。そもそも魔道具を現時点で所持している人自体そこまで多くない。それにしても、俺が3とナンバリングされているってことは少なくとも、あと二人は俺と同じように魔法を使う戦闘形態のプレイヤーが居るってことだな……。
相手はおそらく大学生くらいだろうか。雰囲気的にはそんな感じのする、俺と同じくらいの身長の人だ。防具は鉄製のようだ。
「試合開始30秒前です」
「試合開始20秒前です」
「試合開始まで10,9,7,6,5,4,3,2,1――」
「バトルゥスタートォーーーー!!」
「アネクセーション・トキシン!!!!」
いつものように開始早々魔法を唱える。
会場が一層どよめき、対戦相手のタスケという男も戸惑ったようだ。
「おおーーとぉ!。 魔法道具使い3、いきなりなにかの魔法を使ったぁー。これはデバフ、もしくは状態異常でしょうか!! タスケも戸惑っています」
実況と解説を同じ人が担当するというのは若干違和感があるきがするが今はそんなことを気にしている場合じゃない。
それにしても詠唱した魔法の名前までは実況NPCには伝わらないのか。これは助かるな。
相手と俺は以前初期の位置から一切動かずにじっとしていた。
毒を食らってでも相手の動きを見続けたいということだろう。しかし俺に対してそれは悪手となる。
「アクセネーション・トキシン!!」
そう、この魔法は自分の位置からの相対座標で付与する相手を指定し、毒を付加する。
一度かかった状態異常は、もう一度かかると若干効果時間と効果自体の強さが大きくなる。
それに焦ったのであろう相手はすかさず走ってきた。
「タスケ、遂に前に出たぁーー。魔法道具使い3は一目散に逃げていくが、逃げるだけではダメージは入らないぞ?? どうでるのか!!」
焦った相手が自分を追いかけてくればやることは一つしかない。
「スタンブル・ストーン」
「うお!?」
「おおーーとぉ!! ここで魔法道具使い3、土魔法を繰り出したー―。これはおそらく土属性初級魔法、スタンブル・ストーンでしょうか!! 巧みな使い方にタスケ、思わず転倒してしまいます」
ここから二分ほどはいつもの流れが続いた。俺はひたすら逃げ、相手はただ転ぶ。何度目かに相手がころんだあと想定もしていなかったことが起きた。
「せこいぞーー!!」
「そうだそうだーーーー!!」
「真面目に戦えーーー!!」
「タスケー、あんな奴に負けるなーー!!」
相手のチームメンバーが何やら叫んでいる。ひょっとしてあのチームの中ではこいつだけがトーナメント本戦に勝ち上がったのかもしれないな。
無視すればいいだけというのは分かって入るのだがなんとも言えない罪悪感に襲われる。
あのタスケというプレイヤーはおそらく今日まで必死に敵に勝つために仲間と特訓してきた。それに対して俺は既に持っている技術を少し応用しただけで何も努力を積んでいない。
これでいいのか?? なにかもっと他の戦い方を――
そんなことを考えているうちに隙が生まれたのか、気がついたら相手は俺のすぐ後ろまで迫っていた。
「ぅおらあああ!!」
俺はとっさに手に持っていた短剣で同じように持つ相手の短剣による攻撃を受ける。
金属同士の高い音が一瞬スタジアムに響く。
「おおーっとぉーー!! ここでついにタスケが反撃に出たァァーー!!」
「いけーー」
「そのまま押せーーーー!!!!」
相手の仲間の声援が余計に耳に入る。
そうだ、これが本来の戦い方であって、さっきまでのは『戦い』ではなくて――
俺の短剣を受け流した相手は防具の薄い肩口を思いっきり切りつけた。HPが10%ほど削れる。
俺は一目散に逃げ出した。しかしスタンブルストーンは使わない。
別に使えないわけではないのだ。だが、使わないでやってみたらいいんじゃないか、そう思い始めた。
「おおっとぉ!? 魔法道具使い3、スタンブル・ストーンを使わなくなったぞ!? ここに来てMP切れかー?」
やはり、スタンブル・ストーンを使わなければ相手にはすぐに追いつかれる。
体力値も相手より低いだろうし、ゲーム内でも現実で走るときのフォームくらいは反映される。
ま、初のトーナメントなんてこんなもんだろう。
「ロ……、魔法道具使いーー!! あんたはいつもどおりの戦い方をすればいいのよーーー!!」
あの少し高めの元気な声はとても聞き慣れた声だった。
ティウは、またしても開始からまもなく敵を倒して、わざわざ俺のところまで応援に来たのか……??
そう思った瞬間にはもういつものを起動していた。
「出たーーー再びスタンブル・ストーン!! どうやら一旦使うのをやめて相手を油断させる作戦だったようだァー!」
そうだ、俺の仲間はいつだって俺のやり方に何も言わずに応援してくれていたんだ。そう、全てはいつもどおりにしていればそれで済む話だ。
ティウが観客席にいると思うだけでだいぶ気持ちが楽になり、あと30秒ほどで相手のHPが切れるかというところでなんとか首筋に短剣を切りつけてそのまま逃げ切った。
試合後、スタジアムを出るとすぐにティウに捕まった。
「ちょっと、何動揺してんのよ~。 あの敵、そこまで強くなかったんでしょ? もっと落ち着きなさいってば。」
「ああ、済まなかった。どうもやっぱり観客の雰囲気に圧倒されて……。」
「まあ仕方ないわ。それでね、私、次からはベリリーのところに観に行くからロ……あなたはちゃんとひとりで頑張んなさいよ!!」
「わかった。今度こそいつもどおり頑張るよ。」
今回はマジでティウに助けられた。次からは余計なことを考えずに頑張っていかないとだめだな。
そう思っているうちにボーロンとノブラックが来た。
「ロージェはどうだったんだい??」
「なんとか勝ったよ。ボーロンは??」
「僕も今回は勝てたかな。」
どうせノブラックは勝ってるだろう。聞かなくていいや。
「あ、今チャットが来たね、エリウムもベリリーも勝ったみたいだ。」
おっ、みんな勝ち進んでるな。この調子で残りの試合も勝ち進んでいかなければ。




