本戦前
巨大な大剣は少々小柄な体格の彼女とは合っていないように思う。
しかしこのゲームでは定められた攻撃力や体力値に達すると重量のあるものでも装備できるようになり、プレイヤーは少し重い棒を持ったような感覚になる。
確かにどうぐ使いはステータス構成がバランス型であるため、攻撃力にステ振りすれば装備できるようになるだろう。
とはいえここまでするプレイヤーは見たこと無い。相手も相当自信満々のようだ。
笑顔で挨拶してくる。
「よろしくおねがいしますね!」
「こちらこそ、よろしくおねがいします。」
流石にこれは厳しそうか……?
しかし相手も戦士のように強力な大剣用のスキルが使えるわけではあるまい。勝機はあるだろう。
「Battle start!」
試合が始まると同時にいつものように毒をかける。
相手が一瞬気にするような素振りを見せたと思った次の瞬間、いきなり斬りかかってきた。まずい、リーチが長い!
とっさに後ろに避け、そのまま後ろ向きに走り出した。
「スタンブル・ストーン」
「ターニング・シュート!」
俺より一瞬遅く、彼女がスキル名を叫んだ。
あれ、ブーメランのスキルじゃね……?
スタンブルストーンで転びかけている彼女の腕から大剣がすっぽ抜け、20メートルほど離れた所に落下した。
危ねぇ!! あれにあたってたら間違いなく即死だっただろう。おそらく今までの敵も同様にして瞬殺してきたのではないか。
しかし今彼女は派手に転がっている。悪いが俺は勝ちたいのだ。
無言で短剣を振るう。
「うっ」
確かにダメージが入ったようだ。しかしあいてのHPを確認するとすでに半分に差し掛かっている。
やはり攻撃力に極振りしていたようだ。
これは石で引っ掛けるよりもう二回短剣で切りつけたほうが速いな。
そう思った俺は麻痺で動けなくなっている相手を短剣で切りつけた。
想像以上に短剣による攻撃力も弱く、三回掛かったがなんとか倒せた。
結局試合開始から2分ほどしか経っていない。
「悔し~~~~!! なんなのよこの石!! よくわからないけど、あんた、もしトーナメントで会ったら絶対に勝つからねっ!」
「楽しみにしてますよ。それでは」
冷静を装っているが心臓の鼓動がかなり鼓動が早くなっているのを感じる。
自分が先にスタンブル・ストーンを使ったから良かったものの、大剣の飛ぶ速さには正直かなりビビった。あれが自分の方向に飛んできたら間違いなく恐怖で何もできまい。
試合中は夢中で何も思わなかったが、今思い出すと空気を裂く音すら聞こえた気がする。
本来「ターニング・シュート」はブーメラン用のスキルで、しかもかなり回転させながら弧を描いてブーメランが飛ぶ、要はブーメランの基本スキルだ。
普通に考えたらとても大剣を飛ばせるようなスキルじゃない。おまけにあれは一切回転せず矢のごとく放物線を描いて飛んでいた。
スキルの応用の幅は相当広いようだ。これから先もどうぐ使いの垣根を超えた技が多く出てくるのだろうか。
もはやどうぐ使いのバトルと言えない気しかしないが、俺自身魔法使いの真似事をしているわけだ。
さて、今からトーナメント本戦まで1時間以上ある。既に試合の終わったメンバーとチャットで話した結果、一旦各自自由行動にしてその後集まるという話になった。
俺はいつもの日課のポーション製造の確認と販売に行こうかな。どうせ全く売れないだろうが。
一先ず売れるだけポーション類を市場に流し、生産機構の動きも確認した。最近かなり安定してきてほとんどバグって止まることも無くなったな。
昼休みはクランハウスで全員集合って事になっているから一旦俺は一階のリビングに登って座って待つことにした。
「ただいまー」
お、ボーロンが帰ってきた。
「やっぱり家は落ち着くなあ。トーナメント会場はどうにも人が多くて疲れるんだよね」
「そうだよなあ。普段あんな人口密度でこのゲームをやること無いもんなあ。試合中はまだしも客席とか通路は多くのサーバーで混んでるんだろうな。ま、どうぐ使いの戦いはあんまり観客が居ないのかそこまで混んでなかったけどな。」
「え~。いいなあー」
そんなことを話しているうちに他の面子も続々と帰ってきた。
「よし!! それじゃ今からみんなで自分の状況の報告をしていこう!」
「オッケー」
そうして報告会が始まった。初めにティウ、ノブラックが報告していたがこの二人はどちらもさっき聞いたように結局三回とも瞬殺して勝ったようだ。
「俺は先手で相手を毒状態にしてあとはひたすら逃げ続ける、それだけだ。」
「うわ! 地味だなオイ。」
エリウムから真っ当なツッコミを受けてしまった。だが実際地味なのは本当だ。
「まあどうぐ使いの場合あまりにも攻撃手段が乏しすぎるせいで大剣を投げてくるやつとかもいたが、基本的に魔法を使えるやつがいないからこの戦法で三回とも勝つことができた。」
「確かに、僧侶も攻撃を得意とする人は殆どいないからね、その点では有利だったかな。」
「次オレ言っていい?」
「ああ」
「オレもお前ら二人と同じ感じで、吟遊詩人なんかに攻撃できるやつがいないんだわ。しかも普段は集団バフとか範囲デバフをかけるのがメインの役割だろ?」
「そうだねー」
言われてみれば確かに、僧侶のノブラックやどうぐ使いの俺よりも吟遊詩人のエリウムのほうが更に戦いにくそうだ。
「どうすっか考えたんだけどよ、オレはこいつで敵を殴ることにした!」
そう言ってエリウムがインベントリから取り出したのはギターだ。それもなんか金属でテカテカしていて楽器と呼べるか怪しいやつだ。
「この『ヘヴィメタルギター』で相手を殴ると、めっちゃダメージ入るんだわ。面白いくらいにな!」
いや、ヘヴィメタルギターって、まじで重量のある金属のギターかよ。そういう意味じゃねえだろ本来。
まあとにかくそれで殴って倒せるのならいいだろう。
「あれ? でもだったら戦闘はすぐに終わっても良さそうだけど……?」
ティウが疑問に思ったらしく聞いている。確かにこの中で早くに先頭を終えているのはティウ、ノブラック、俺の順番だよな。
「いや、やっぱり吟遊詩人ってだけあってみんな割と回復魔法が使えてさ。しかも攻撃力低下とか移動速度低下とかのデバフをガバガバかけてくるせいで結構攻撃が通らねえんだわ。」
「ま、それなら20分かければ与ダメ判定でほぼ確実に倒せるということだね。」
「そういうこと。」
如何にも体育会系らしい戦闘方法だ。恐れ入った。こんなのを相手にする吟遊詩人さん、可哀想だなあ……。
吟遊詩人は女性プレイヤーも多いって言うしなおさらだ。
「次、僕からいい?」
「よ! プレイヤースキルゴリ押し騎士」
なんかエリウムが変な煽り方してる。しかしボーロンは実際戦闘時の動き方はすごいからな……。まあエリウムもそれに劣らずうまく立ち回るが。
「いや、まあそこまでプレイヤースキルがってわけでもないけど、やっぱりみんなと同じ感じで騎士も防御力が高い人が多いから、どうしてもロングゲームになっちゃうんだよね。
とは言っても細剣とかロングソードとかを持っている人が多いからそこまで泥沼試合ってほどではなかったけど。」
「ボーロンってダメージ食らうことあるん??」
気になって俺が聞いてみた。
「三戦やって一回だけ食らった。」
「やば、マジかよ」
「流石ですねー」
エリウムとベリリーが驚いてる。まあ実際いつもダンジョンでボスと戦うときも大盾を駆使してかなりダメージを軽減させているからそんなものだろう。
「残りはベリリーだけだが、どうなんだ様子は?」
「うーん、どうもやっぱり私は戦闘に向いたスキルが少ないようで……。相手の攻撃を躱すのも攻撃するのもどれも中途半端なんですよね。
それで一回負けてしまいました。」
まあ盗賊という職自体、主に活躍するのはダンジョンの中で、通路の探索や罠の探知、宝箱の解錠など戦闘に関係のないスキルを多く持つ。
だが一方で普段からプレイヤーキルをしている輩だったり、ダンジョン外の森林などで敵からアイテムを強奪するタイプの盗賊なんかは戦闘に慣れている傾向がある。
そういった人たちに相対するとどうしても不利になってしまうようだ。
「乱戦とかだと良かったんですけどね。」
確かに乱戦であれば持ち前の隠密行動をかなり活かせるな。
「ま、だいたいみんな想定通りって感じだな!! 前にも言ったとおりこのトーナメントは初のPVPイベントでまだ各職業ごとのPVPのテンプレが確立していない。だから奇抜な戦略も多く出てくるだろうがゴリ押して行こーぜ!!」
「ゴリ押すのはエリウムだけだけどな。」
まあ、全員トーナメントに進めるわけだし、行けるところまでいこう。
「景品のスキルの秘宝?? とか言うのも楽しみよねー!」
「スキルの宝玉じゃないですか?」
いまティウとベリリーが言っていたアイテムが今回のトーナメントの景品で、具体的な効果は言われていないが前作、VLのイベントの傾向からして有用なアイテムである可能性は高い。
公式で発表されているのは、この宝玉を使うといくつかの選択肢の中から一つ、大会に参加した職業専用のスキルが手に入るということだ。パッシブスキルがメインであるとも書いてある。
まあどうぐ使いなら重量制限+〇〇とかだろう。この宝玉とやらが装備アイテムではないおかげで装備品を圧迫する心配がないのは助かるな。
「よし! それじゃあみんなで本戦も頑張っていこう!!!!」
「「「おーー!」」」
今ふと見ると、ノブラックとボーロンはゲーム内で売られているカツ丼を食べているな。くそ、俺も食いてえ。買ってくればよかった。




