みんなの様子
みんなはどうだったのだろうか。試合の制限時間は20分間あり、俺は8分ほどで勝ったから10分ほど余裕があるが、みんなはどうなのだろう。
ちなみに試合の制限時間内にどちらのHPも0にならなかった場合、与ダメも多いほうが勝利となる。俺の場合仮に毒だけで倒しきらなくても20分逃げ続ければ一応勝てるわけだ。
チーム内チャットを見てみるとボーロン・ベリリー・エリウムはまだ終わってないっぽいな。ティウとのブラックのいる所に俺も向かった。
「おはよーロージェ!」
「おはよう」
ティウが元気よく手を振ってきた。これだけ人が多くても比較的高めの身長で手を振ってくれるとわかりやすくていいな。
「お前らはどうだったん?」
「ねえ聞いて聞いて! なんかさアタシさ、始まってすぐに『グラシア・カース』っていう凍結魔法を使って凍らせてから、『ブレイズ・デトネーション』使って爆発させたら終わっちゃった!」
「開始から終了まで何分かかったんだい?」
「え、20秒?」
「私は50秒掛かった。どうやらティウに負けたようだね……。」
「いやいやいやいやいやいや、ふたりともちょっ え?? これタイムアタックで競う競技だっけ?? ワケワカンネー」
「あたし、ついこないだ『リアレンジ・クールタイム』っていう魔法覚えて、魔法のクールタイムを詠唱したあとに移せる様になったの。それを3つまで同時に出来るから、上級魔法でも3連発はできるよ!」
「あのさ、おれ、ここに来る時間からして分かると思うけど相手を倒すのに8分掛かってるんだよね……。君ら、おかしくない?」
「まあ、ロージェは攻撃職じゃないし、仕方ないんじゃないかい?」
「僧侶に言われたくはないなっ。ノブラックはどうやってそんなに早く倒したんだよ。」
「私はこの『業火の大杖』っていう杖を……」
「えー!それあたしのとおんなじだー!」
「え?そうなのかい? まあとにかく、これを使って相手にリバースヒールを2回かけたらあっけなく、ね。」
「ノブラックって、僧侶だよな? なんで魔法攻撃特化の杖持ってんの……。しかも確か僧侶って攻撃魔法あんまり無いのに回復手段に富んでいるからほとんどの試合が泥試合になるだろうって話だった気が……。」
「リバース・ヒールには一定時間回復魔法が使えなくなるデバフを付けられるしね。いやあ、攻撃魔法にスキルを振ってる僧侶少なさそうだからこれからも勝てそうだよ。ハッハッハ」
やばい、こいつらと一緒にいるとなんか変なパワーで洗脳されるぞ。いいんだ、俺はちまちまと岩を相手の足元に設置して勝てれば。
全く上級魔法をぶっ放すのが羨ましいなんて思ってない。思ってない。俺には俺のやり方が……。
「いーなー、じょうきゅうまほー。」
「あはは。ロージェも使えたらよかったのにねー」
「うるせえ。」
このイベント終わったらもっと派手な戦いができる道具を作ろう。
お、そんなこんなで気がついたらそろそろ試合開始の時間だ。残りの三人は結局ここに来なかったってことは、結構時間掛かったんだろうな。
盗賊のベリリーはともかく、吟遊詩人のエリウムなんかはどう考えても時間がかかりそうだ。あいつ、バフ・デバフをかける以外になにかできんのかな?
騎士のロージェも、プレイヤースキルは高いけどそれを駆使してひたすら防御しまくるのがいつもの役割だったからなあ。
今回はあんまりうまく攻撃がうまく行っていないのかもしれない。
ま、どちらにせよ俺はさっきと全く同じように勝つだけだ。
「ほんじゃ、ま、次も勝っていこうぜ!」
「頑張ろー!」
「みんなの健闘を祈るよ。」
こうして俺たちは別れ、次の試合へと向かっていった。
正直あと二試合、両方勝つとも思えない。さっきの相手の場合相手が自分に追いつく前になんとか毒で削りきることができたがもう少し走るのが早かったら負けていた。
しかも毒耐性の装備自体そこまで高級なわけではない。今回の試合でどうぐ使いのプレイヤーは魔法が使えないから毒耐性をわざわざ付けてくるような人は居ないとは思う。
しかし上級の装備になればなるほど付属効果も多い。数多く効果がついているアクセサリーの中に毒耐性が付いている可能性が無いとは言えない。
とはいえ一度の試合で使える魔法の数は少ないが、選択肢は多く用意した。これらを駆使して臨機応変に頑張っていこう。
そんなことを思いながら二度目の待合室に入る。すでに勝利しているおかげか、さっきより幾分心に余裕がある。
控室のディスプレイの文章が待機時間を告げるものから「入場してください。今から3分以内に入場しない場合棄権とみなされます。」に変わった。
すでにドアの前に立っていた俺はその瞬間すでにフィールドに足を進めている。
相手も出てきた。
自分よりは身長の高い、標準的な体格の男の人だ。
相手はどうやら革製の装備のようだ。この場合、俊敏型である可能性と、初心者である可能性の2つが考えられるが……。
武器はブーメランだ。少し厄介だが見た感じからして重量系の、飛距離より威力を重視したタイプだ。金属もただの鉄に見える。
そんなことよりまずい、挨拶しなくては。相手もなかなかこちらに話しかけてこない。これだから陰キャって不便だよなぁ。
と思いつつ挨拶する。
「よろしくおねがいします。」
「ああ、こちらこそよろしくおねがいします。」
うん、相手も多分自分と同じような感じだったんだろうな。やはり初対面の人と話すのはハードルが高い。その点一回戦の時に戦った彼は話しかけてくれたから楽だったな。
一見初心者そうに見えるがどうだろうか。
再び試合開始のカウントダウンが始まる。
「試合開始30秒前です」
「試合開始20秒前です」
「試合開始まで10,9,8,7,6,5,4,3,2,1――」
「Battle start!」
「アネクセーション・トキシン!!!!」
さっきと同じように相手に毒をかけた。
「え?」
相手は動揺しているようだ。しかしこっちに向かってくる様子はない。
相手は困惑しているのか、様子を伺っているのか。
どちらにせよ正直これは好都合だ。時間が経てば立つほどあいてのHPは削られていく。
10秒ほど睨み合ったあと、ようやく相手が動き出した。
「喰らえー!」
そういいつつ相手はブーメランを投げた。おそらく相手の投擲スキルか何かを使ったのだろう。きれいに回転し、カーブをしながらこちらへ向かってきている。
しかし、俺の胴体のアーマーに甲高い音をたてて衝突したあと、そのままブーメランは地面に落ちた。
「あっ!」
そう、普通ブーメランは相手を攻撃したあと使用者の手元に帰っていく。しかしあまりにもブーメランの質に対して敵の防御力、又は粘性が高い場合には戻らなくなることもある。
そしてその場合、そのブーメランは誰でも回収することが出来る。
これが敵MOBだった場合、大抵無視してくれるのだが俺は人間だ。俺はブーメランを持ち去って後ろに走り出した。
このゲームは謎に戦闘時の武器・防具の帰属が緩やかで、自分のものはずっと付いてくるなどという保証はどこにもない。
ただ、相手の武器を奪った場合、奪った人が武器を使ってもその武器の数分の一しか能力を発揮できないようになってる。だから今俺がこのブーメランを使ってもなんの意味も無いわけだが、俺は逃げること自体が目的なのだ。
相手は焦って全力で追いかけてくる。距離を見定めて魔法を使う。
「スタンブル・ストーン!」
ここからはさっきと同じだった。短剣で麻痺をかけたあとひたすら逃げる。
しかし今回の相手は武器を失ってしまっているせいか、開始4分ほどで降参してしまった。
お互い「ありがとうございました」の一言で済ませてその試合は終了。なんともあっけないもんだ。
チームのメンバーと合流すると、やはりそこにいたのはティウとノブラック、そして今回はエリウムもいた。
多少感想を言い合ってからすぐに三回戦だ。
俺はフィールドに入って唖然とする。
「なんだあれ……」
思わず口に出してしまった。年は分からないがおそらく学生であることは間違いない女子。格好は少ししゃれた革の防具だが、武器がおかしい。
刃渡りが1.5mほどありそうな巨大な銀色の大剣。
光を反射し輝くそれを両手で掲げていた。




