開墾
裏庭といっても表の庭と同じように広いし、簡単な塀に囲まれているものの川に面していて開放感のある感じではある。
芝生……というには草が茂っているこの裏庭をどうしたら素早く耕すことができるだろうか。
一応市場から 合金のクワC というのを買ってきているからそれを使ってみるか。
俺は自分が出せる精一杯の力を出して地面にクワを振り下ろす。
そして強く引き……たいがうまく引けないな。攻撃力不足かの可能性が高いか。
しばらく薬剤師レベルを上げるための経験値を稼ぐためにポーションを手動で作っていたらみんなが帰ってきた。
「ただいまー! とりあえずアイテム整理しようぜ!」
「おっけー」
5人で帰ってきたときはエリウムとティウはやたら元気なんだよな……
無限迷宮はストレスが溜まるとか言ってた割に全く疲れが伺えないところに感心するな。
それに引き換えボーロンとノブラックはすぐリビングのソファに座っているし。
「あれ? べリリーはどうしたんだ?」
「ああ、なんか一人で用事があるって言って出かけていったな」
でた。べリリーの謎の用事。盗賊のスキルを使ってグレーなことでもしているのだろうか。べリリーは前作のときからそうだったがゲームの世界観が大好きなようだからまたNPCの話の盗み聞きでもやっているのかもしれないな。
「あ、エリウム、ところでさ、今から裏庭を耕して畑にしようと思うんだけどいい?」
「ん? 全然構わないぞ」
「良かったよかった。そんでさ、俺攻撃力が無いせいか全然クワで耕せないんだよね。だからエリウム手伝ってくれない?」
「え、オレ吟遊詩人だからそんなに攻撃力高くないぞ?」
あっ……。そうだ、エリウムは見た目運動系だし実際部活は運動部なのにゲーム内で吟遊詩人じゃないか。
しかしよく考えてみるとこのパーティーって純粋に攻撃力の高い職業の人っていないんだなぁ。比較的攻撃力の高いベリリーは出かけているし。
「まあ、俺よりはLvが断然高いだろうから頼むって」
「わかった。」
「これが耕すためのクワな」
二人で一緒に裏玄関から裏庭に出ていく。
さて、エリウムでどうなるか……。
「うおりゃっ!」
おお、流石に俺よりは遥かにしっかり土に食い込んでいるし、しっかり耕せている感じはあるが……
「はあ、はあ。結構これしんどいな」
「やっぱり厳しいよなあ。この庭かなり面積が広いし、みんなで手分けしてやってもらったとしても結構時間かかるだろうな。」
そう悩んでいたとき、突然小さな地鳴りが聞こえてきた。
と思っているうちに、まるで機械が自動で耕しているかのごとく自分たちが立っていた付近一帯が同心円状に耕されていく。
「うわ! なんじゃこりゃっ」
エリウムがバランスを崩して転びそうになっている。というか、一体何が起きたんだ……
「ふふ~ん。すごいでしょ! 魔法使いっていろいろな便利魔法があるのよねー!」
あ! ティウの仕業か。
まさかの二階のベランダからの登場である。しかも普段は着ていない黒いローブみたいなの着ているし。
そう、このILでは各職業に戦闘面以外で役に立つことが振り分けられている。例えば今のように魔法が得意な職業であれば農業系の魔法をクエストで習得することができるし、聖騎士だと王城の護衛クエストを受けることが出来るのだとか。
ちなみに吟遊詩人は唯一路上で楽器を弾けるとかいう話を聞いた気がするが本当かどうかは知らない。
「あのなあ、ティウ。そんな便利な魔法があるなら先に言ってくれよ!」
「ごめんごめん、最後に使ったの割と前のことですっかり忘れちゃってたー」
「まあ仕方がない、オレはアイテムの整理してくるかな」
「いってら~」
俺もはじめからティウに聞いておけばよかったんだよな。今度からは何かかるたびにティウに聞いてみることにしよう。
「んじゃティウ、今から俺が畑にしてほしい範囲を言うから全部やってくれる?」
「うん、いいよー」
俺たちは――実際手を動かしたのはティウだけだが――1時間ほどかけてすべての範囲を耕し終えた。
地面を耕す魔法、「プロウ・ザ・グラウンド」はなぜか円の範囲で耕すせいで無駄に時間がかかってしまった。
ティウに聞くと、もともとこれは俺たちのクランハウスの表の庭でやっているガーデニングなどに使う魔法であるから円状であるほうが便利な場合が多いのだとか。
くそ……。おかげで角の部分は手作業になってしまった。
まあそんなことはともかく無事に終わったから良しとしよう。
「あれ? ひょっとしてティウって表の庭で自分で種から植物を育てていたりする?」
「もちろん! 私この間種から育成難易度Bとか言われている 《スカーレットクリスタル・ローズ》を種から育てて花を咲かせたのよ!」
なんじゃそりゃ……。花とか全くわからないがとにかくすごいのだろう。
「まあ……私も大きい畑で何かを育てたことは無いんだけどねー。ところでロージェは何を育てるの? 野菜?」
「いや、薬草」
「え? 薬草っていつも私達が使っているHPポーションに使われているあの薬草?」
「そう」
「薬草のためだけにこんな大きな畑作ったの!?」
「ああ」
「いや……『ああ』じゃないでしょ! この畑だったら一回で1000個くらい栽培できちゃうってば!」
「え、これだけやっても1000個?」
「いやいや、1000個も同時に作れれば十分じゃ…」
俺一日に売っている5000個に加えてMPポーションの材料としてさらに1000個近くのHPポーションを作っているから十分じゃないんだよなあ。
まあこのゲームではプレイヤー一人に付き一つの土地を買えるから最悪誰か俺以外のチームメンバーに土地を買ってもらって借りればいいか。
「ま、とりあえず1000個でいいや、育て方を教えてくれ」
「わかったわ。えーと、まず肥料を撒いたほうがいいかなー」
「何を撒けばいい?」
「たぶん薬草なら干鰯とかで十分だと思うよ。 それをインベントリから出して畑に撒いて『少し肥えた耕地』っていう表示が出ればおっけー。」
「なるほどなあ」
そう返事しながら俺は早速畑に干鰯を撒き始めた。
「じゃ、頑張ってねー! また何かあったら遠慮なく聞いてね! 」
「ありがとう」
ティウが植物栽培に詳しくて助かった。といってもまあこっちは品質よりも量重視で向こうは圧倒的に品質重視だろうから全く立場が違うし、今後レクチャーを受けることもそんなに無いだろう。
肥料を撒いていていくつか気づいたことがある。
1つ目は畑というものは全体で一つとみなされるのではなく、ある程度以上に大きいと分割されてそれぞれが別の畑という扱いになある、ということだ。
具体的にはだいたい2×2で4平方メートルくらいが一つの畑という判定になっている。
そのため、しっかり肥料が撒かれたかどうかはそれぞれの区画ごとに判定されるようだ。
もう一つは、肥料は必ずしも万遍に撒かなくてもいいということだ。
初めのうちは真面目に万遍に撒いていたが、途中から適当に袋から直接バサバサと撒いてみたらしっかりと『少し肥えた耕地』という判定になった。
しかしもっとふざけて袋から全部一気に足元に干鰯を放出してみたら流石にだめだった。
ただし全部出して山積みになった干鰯をスコップで適当に広げていたら『少し肥えた耕地』に変化してくれた。
これらの性質を利用して比較的簡単に肥料を撒く裏技を見つけてしまった。裏というより小技みたいな感じだが。
区画分けされている畑の境界線の交点に干鰯を積み、それを広げるだけだ。
そうするだけで一気に4つ分の畑を肥えさせる事ができる。
しかし……それでもやはり1時間弱かかってしまった。
薬草はやっぱり鉢にでも植えて育てたほうがいいかなあ……
とりあえず全部『少し肥えた耕地』に変えることができたから、明日いよいよ種を植えてみよう。
もうしばらくロージェの試行錯誤作業が続きます
市場を引っ掻き回すのを楽しみに見守っていてください。




