イベント景気
年度初めが多忙で執筆が遅れ、前回からかなり時間が空いてしまいました。申し訳ありません。
話が思い出せない方はぜひ数話戻ってお読みください。
今回も採掘メインです。
「どうしてもイベントが来ると必要なアイテムの価格は高騰するんだよなあ。」
「需要が上がるから当然だろ。まあ今回もイベントが終わる前に全部の在庫を払えば問題ないさ。」
「いつバブルが崩壊するのかには注意してね」
俺はいま宝蔵と一緒に学校を出ている。宝蔵とアイテムの価格の推移について話していた。
日頃から掲示板をあさっているだけあって、物の価格の変動に気がつくのも早い。
現実の原油や金みたいに価格の推移が載っているチャートでもあれば良いんだか流石にそんな便利なものはない。
まあいずれゲーム内で誰かがそういうサービスを始めるかもしれないし、もしかしたらすでに始まっているのかもしれない。
取り敢えず宝蔵と別れて家に帰りすぐにILにログインした。
どうも最近金属を加工する鍛冶師達に加工を頼むとかなり加工代を多く取られてしまうので、武器防具を直接使うのでなければインゴットのまま市場に流したほうが良いようだ。
さっそく完成したインゴットを市場に持っていく。
いつもだったら現在の最安値付近に置いておくのだが値上がりも激しいのである程度価格を分けておく。
単純なインフレ対策だがこれでも結構効果はある。
あまりいい例ではないがいまのIL内の経済事情は近場で戦争が起きているときと少し似ているな。と言ってもゲーム内に出回るお金の量が定まっていないおかげでお金は増え続けるから常に少しずつインフレは進んでいく。
かつてMMORPGでは流通するお金の量を減らすために緊縮政策もどきのことを実行したことがあったらしいが、プレイヤーからはすこぶる不評だったようだ。
そんな面からも、VRMMORPGの運営は世界観は現実に近づけすぎないように気をつけているようだ。
ゲームバランスを調整するってのも相当大変なんだろうな。
いろいろなことを考えながら、俺は日課になったレメント鉱山での採掘に向かった。
レメント鉱山に向かう道中の人の数もやや増加傾向にある気がする。やはりイベントがあるおかげで金属の需要量が高いのだろう。
ILのダンジョンは無限迷宮で無い普通の迷宮は大きさが決まっているから周回するごとに新たな発見がある、ということは起きにくい。もっとも定期的にダンジョンの通路や部屋の配置は変わるからその都度最短ルートを探し出さなければならない。
今回は……。
まだ配置が変わっていないようだ。ガツガツ進んでいこう。
今回は道中でもディグ・ディープリーを使ってみることにした。
穴を掘る対象を魔法陣の真下ではなく、数メートル前方にずらしてみた。
それをゴーレムの目の前で使う。
轟音がなった。想定通りだ。
ゴーレムの片足だけが1メートルほどの穴に入り込んだ。ゴーレムは体の構造上、こうなってしまっては身動きが取れなくなるのだ。今はストーンゴーレムで試してみたがブロンズゴーレムなどにも応用出来るだろう。
これで更に手間が少なくレメント鉱山を攻略できそうだ。
15階にあるボス部屋への通路の重厚な扉をゆっくりと押す。
待っているのはアイアンゴーレムだ。
いつもなら風魔法陣で攻撃を加えているが今回はディグ・ディープリーで嵌める。
10階でのブロンズゴーレム戦ではまんまと嵌ってくれたが……
よし!
取り敢えず穴に片足が嵌った。この隙きに次々と攻撃を加えていく。
ん?
アイアンゴーレムが自分の足元を鉄で埋めている?
自身の技であるアイアンナイフを足元に撃ったか……
まあそれでも結構な時間を稼げたから良しとしよう。
もう相手のHPバーは半分以下だ。
そんなこんなで安定してすばやくアイアンゴーレムも倒すことに成功した。
さて問題の採掘ゾーンだ。前回の反省を生かしてディグ・ディープリーの金属板に少し穴を開け、ロープを通してある。
そして魔法陣の金属板の数自体も増やした。ディグ・ディープリーとブレイズ・デトネーションの金属板をそれぞれ3つずつ用意した。
走りながらその3つを正三角形の頂点となるように配置していく。
ディグ・ディープリーが穴を彫り終えるまでに先に出口付近を登りやすいように斜めに掘っておいて……っと。
強めの風魔法陣を起動しておく。掘削中に発生する砂ぼこりを吹き飛ばすためだ。
完全に掘削が終わったな。上に出しておいたロープを引っ張って魔法陣を回収。そして急いでブレイズ・デトネーションの金属板を投げ入れた。
爆発したあとの時間を無駄にしないためにも風魔法は起動させっぱなしにしておこう。
前回より地面が揺れたな。そして3つの大きなクレーターのようなものが地面に現れた。クレーターのような穴の底には膨大な量の鉱石が落ちている。
触れたものから回収できるので両手両足を限界まで広げた。傍から見たらどう見えているのだろうか。とにかく口で回収回収と急いで唱える。眼の前に表示されるウィンドウをタップするかアイテムに触れている状態で回収と言わなければ回収できない。
しかしやっぱり時間がかかる。あ、「かしかしかしかし」って言っても反応してくれた。意外と判定は適当なんだな。
もし回収の時間を短縮出来るならこの採掘ゾーンのアイテム全部収得出来るから誰か人を雇ったりしようかなぁ。
しかしそれをやると魔法陣の秘密が他人にバレてしまう。やっぱり無理か。
おっと、いまさら思いついたがアイテムの転送陣を使えばいいだけの話では……。
確か……あったあった。何かのときに作ったのを忘れてもう一つ作ってしまった「真上のものを自分のインベントリに転送する魔法陣」だ。
これを下向きにして鉱石の山に投げ込む。
インベントリを見てみると凄い勢いで鉱石の獲得ログが出ていた。成功だ。
あ!! こんどはインベントリがいっぱいになった!!
大急ぎで低品質な鉱石から順に捨てていく。そしてミスリル鉱石らしきものから順にインベントリに入れていった。
地鳴りだ。そろそろ潮時だ。
まだ少し鉱石が残っているが諦めよう。
そんなこんなで怒涛の回収タイムを終えた。
インベントリの問題は考えていなかったな……。道具使いのインベントリは結構容量は大きいがそれでも満杯になると言うことはかなり多くの鉱石を採れたということか。
……ミスリル鉱石D-が70個もあるじゃないか。これは大量だ。すぐにでも錬金をしよう。
そして今までに錬金し終えた金属はミスリルを除き売っていく。
少し前まで1インゴットあたり3000Gほどだった銅インゴットは今では5000Gか。相当景気が良いな。一気に売ると価格が急落することになるから少しずつ分けて売ろう。
旧作で遊んでいたときにうっかりあるアイテムを一万個売った瞬間一気に価格が暴落したことがあったからな。需要と供給を見ればそこまでバランスを崩す程の数では無かったのに何故落ちたのか当時は分からなかった。
後に世の中ではゲーム内外関係なく売りが売りを呼ぶという現象が起こるということがわかった。これがいわゆる経済危機の発端になったりするのだが、要するに一度誰かが大量にアイテムを売ると何かそのアイテムを早く売っておいたほうがいい訳――例えば運営によるバランス調整――があるのだろうかと心配になった人たちが一斉にそのアイテムを売る。
その結果本来の需給のバランスを無視して価格の崩壊が起こるのだ。
そういうわけで最近はアイテムを出品するときに値段も20個ごとに若干変えて、こまめに売りに出している。
しかし凄いな……。今回の採掘だけでざっと30万Gは稼げた計算だ。
大丈夫なのかこれ。運営が調整を入れてきたときのために早めになるべく多く鉱石を採掘したほうが良いだろうな。
しかしもうリアルでも結構遅くなってしまった。
明日の学校での授業の予習もしなきゃだし今日は落ちるか。
これからも着実に書き続けて参ります!(せめて……プロットが完成している4章までは……)
これからも自動量産をよろしくおねがいします。




