ミスリルの需要
イベントの告知はゲーム外でも運営から行われている。ILからログアウトしてからさっそく見てみた。
今回のPvPイベは完全な個人戦だ。そして同じ職業同士で戦っていくようだ。初めにランダムに複数人と戦ってその勝敗によってトーナメントに進む――よくある感じのやつだ。
ルールは各職業ごとに若干異なってくる。道具使いのところも一応見てみたが「消耗品の使用は禁止」となっている。これは本当に俺が関われることはないな。
まあどの職業でもアイテムは使えないのだが。今作は同じ職業の中でもステ振りが自由であったり、装備可能な武器の種類もかなり多くなっているためPvPに有利、不利が出てきそうだという意見が多いようだ。
部活が終わったらすぐにログインした。掲示板を見まくっているボーロンによると生産メインの人も対人用の武器防具の生産にかなり追われているようだ。
このイベントはLvによって有利、不利は変わらないため装備は相当重要になってくる。イベントガチ勢は装備のためのいい素材を取るために各地の高難易度フィールドに挑みにいっているらしい。
ボーロン:なんかミスリルの価格が上がり始めているみたいだけど、ロージェってミスリル作れたよね?
何!? そうか、ミスリルはまだ取れる人があまりいなくて、しかも錬金にかなり時間がかかるのか。これは結構チャンスかもしれない。
それに俺だってミスリルはあればあるだけ使いたい状況だ。今動かしているポーション製造機の合金板だってミスリル合金板に置き換えればかなり魔石の消費量を減らすことが出来る。
さて、まずやるべきは鉱山のボスを倒したあとに行ける制限時間付き鉱石取り放題ゾーン(仮称)で効率よく掘れるようにするための道具を揃えることだな。
いままでは鋼鉄でできている風属性の魔導付与されたツルハシを使っていたが、これにもミスリルを使えないだろうか。
ミスリル自体は鉄より少し硬い、くらいでそこまで優秀なわけではないが何と言っても魔力に対する適性が高いため、魔導付与したときのMP消費効率が格段に上がる。
要するに普通のツルハシよりも高い効果の魔導付与をすることが出来るのだ。
おれはさっそく鍛冶クランに行ってみた。
「いらっしゃいませ。御用を申し付けください。」
鍛冶クランとは思えないほどしっかりしているな。まあNPCでもないし鍛冶をやっているところは客との対応が雑……というイメージが通用するはずも無いか。
おれは受付にいる男子に注文をする。
「ツルハシの作成を頼みたいんですけど。」
「わかりました。材料は持ち込みでしょうか?」
「はい。これでお願いします」
といいながらミスリルを取り出す。
「え!? ミスリルですか?」
びっくりした。突然大きな声で叫ばれてもなぁ……。
「本当にこれでツルハシを作るんですか? いま武器用のミスリルが不足しているのでこちらに回してほしいくらいですけど……。まあ了解しました。」
いやいや感が半端ないな。まあ周りの事情なんて知ったこっちゃないのでそのまま注文した。
それが完成するまで風属性付与の魔法陣でも書くか。新しい魔法陣を書くのは久しぶりな気がする。
常に風属性が働いてももったいないから鉱石に触れている瞬間だけ発動させればいいか。
属性付与には強さのようなものがあるようでそれも指定することができる。
初級魔法陣ではIかIIかのどちらかしかできなかったが中級魔法陣では一気にXまでに範囲が広がった。
もちろん強ければ強いほど使用するには多くのMPまたは魔石を要するため使用目的に合わせて効果を選ばなければならない。
そういうわけで風属性Xを付与した。まあどうしてもMP消費が厳しかったら下げれば良いだろう。
魔法陣に書き込む文字は
Middle grade magic wind circle IF[the something touches this],on this,Wind attributes X apply,Imsec,Endif
と言った感じか。日本語で「中級魔法陣、もし何かがこれに触れたら、これに、風属性Xを付ける、0.001秒間、仮定終了」だな。
これで掘っている瞬間だけ風属性が付与できるはずだ。ちなみに掘る速度が風属性によって上昇するという情報はすでに出回っている。
これらを持ってさっそく鉱山に行った。敵はいつもどおりに難なく倒せた。しかしここに来ると未だに初回に挑んだ長期戦を思い出すな……。
アイアンゴーレムを倒し終わったら慌てずに準備していく。ボス部屋にいるうちはまだ制限時間付き鉱石取り放題ゾーン(仮称)でのカウントダウンは始まらない。
表面にある石材はあまりいらないし、その下にある質の低い銅鉱石、鉄鉱石もミスリル優先のために爆発で吹き飛ばすことにした。
ブレイズ・デトネーションによって少しダメージを喰らってしまうがそこは今回も無視。そして技を使う魔道具は一度使うと人が使ったときと同様のクールタイムに見舞われるため同じものを二つ用意してきた。
今回この鉱山のために手持ちのミスリルは全て使ってしまったからな……。なんとしても多く回収したい。
ブレイズ・デトネーションの魔法陣を手に持った状態で全速力で制限時間付き鉱石取り放題ゾーン(仮称)に入る。
そしてすぐさま使用して、と。
かなり強めの爆風がきたが踏ん張る。まだ砂煙が晴れていないが待っている時間も惜しいのですぐさま開いた穴を降りていき二回目のブレイズ・デトネーションを発動させる。
よし、多分ミスリルが埋まっているところまで来たな。視界が悪くても無視して風属性ツルハシを取り出し掘り始めた。
おお! これはかなり早く掘れるぞ。今までの二倍くらいの早さで掘ることができているように思う。
そしておれは試してみたかった二刀流をやってみるが……。これはダメだな。
おそらくゲームの仕様で掘る速度が半分くらいに抑えられている。おまけにうまく体のバランスを取ることができないし、片方は今までの鋼鉄のツルハシだ。
すぐに風属性が付与されたミスリルのツルハシにもどした。無我夢中で、ひたすら掘り続けていく。
しばらく掘っていると前にも当たった硬い岩にぶつかる。すこし掘ってみようとしたら僅かに削れた。しかしやはりかなりの時間を取られそうなので諦めた。
いまはミスリル優先だ。そう思った矢先地面が揺れだした。
ここで焦って逃げるのはもったいない。俺は限界まで掘るぞ。
いよいよ天井にヒビが入り始める。坂状に掘ったのですぐに出られるようになっている穴を
急いで駆け上る。
このタイミングと掘り方もだいぶ慣れた。まあ今まで崩落に巻き込まれて死んだことなんて一度も無いけども。
そんなこんなで今回も無事に鉱山をクリアした。
クランハウスに帰ったら収穫物を見てみる。
ミスリルは……よし! いままで手に入っていたミスリル鉱石D-は15個と少なめだがそれより上のD、C-、Cがそれぞれ10個前後ある。
今回は、というよりも行くごとにだがMPポーションの消費量が多くなってきている。しかし元は楽に取ることができたな。
これなら結構多くのミスリルインゴットを作ることができそうだ。
ミスリルはかなり多くの用途で使うからこれからみんな掘り出すだろう。
そうなると必然的に市場での値段は下がるだろうからそれまでに売りさばいておきたい。
しかしまずはボーロンに安く売っとこうかな。あいつは多分ミスリルの防具を使うだろうし。
さて、錬金を始めるか。




