MPポーションの増産
ボーロンが倒れたということは……あのチームに壁役はいなくなった。残りの四人は大丈夫か?
取り敢えず状況を聞いてみるとするか。
「おい、なにがあったんだ?」
「さっき伝えたとおり今挑んでいるところには、一定時間踏んでいると強制的に大ダメージを食らう罠が多いところなんだよ。
そしてボス戦でも同じ罠が複数設置されていて、流石に避けて戦闘なんてできないからエリウムとのブラックに防御力の上がるバフを掛けてもらって自分から罠を踏んでいっていたんだ。
でもどうやらその罠は一定時間ごとに復活して、しかも食らうダメージが増えていくみたいで、徐々に圧迫されていっていた。
回復スピードも追いつかなくなってきたから、途中からノブラックがMPポーションを使いまくって強引に回復魔法を使っていたみたい。
それでなんとかボスを倒せそうになったて、相手のHPを1/8くらいまで削ったとき、急に巨大な罠が現れたんだ。
だから仕方なく俺が『アトラクト・ダメージ』を使って、自殺しながら防御したってわけ。」
たしかアトラクト・ダメージはチーム全員のダメージを10秒間全て自分に受ける代わりに食らうダメージは2.5倍になるっていうスキルだったかな。
まあほとんど死ぬので今回みたいな使い方が基本となる。
ということは残りの五人は一応生きている可能性が高めなのか。
なんとかクリアしてくれることを願う。
ティウ:mp
エリウム:m
ノブラック:m
ベリリー:m
あっ! やばい、完全にチャット見るの忘れてた!
たぶん来てから10秒位経ってしまったのではないだろうか。べリリーからも来ているということはそれだけ急いでいるということか。
俺は慌ててMPポーションをそれぞれのアイテム転送機の上に置いていった。
俺も今回の戦闘に参加しているようなもんだもんな。
「あ、そうそう、今回俺が死んじゃったからもう一回同じボスに挑む事になると思うんだけど、その分のMPポーションってある?」
「うーん、ないな。」
やばい、MPポーションはいまマナタケを用意する時間がなくて一日に100本しか生産していない。
幸い昨日の分は売らなかったが、それでも残り10個程しかない。俺も鉱山の中で使いまくっているからな……。
「よし! こうなったらみんながクリアしてからマナタケを取りに行こう! 移動速度上昇の魔法を使って!」
そう、マナタケを取るときに一番大変なのがある程度の高低差がある丘陵を、探索しなければならないというところだ。
だからバフ魔法を使えば効率よくマナタケを採集できる。
いつもは一人でほそぼそとやっているからなぁ。
10分位経ってべリリー以外のメンバーが帰ってきた。どうやら無事にボスを倒すことができたようだ。残りのMPポーションは5個しかない。
俺達は早速レメント丘陵に向かった。ここは背が高めの木が乱立している普通の林のような感じのマップだ。
採集ポイントの候補は決まっている。その中から40箇所くらいが選ばれて採集ポイントとなるわけだ。
最終ポイント自体は近づけばアイコンが表示されるためわかりやすいが、マップが広いため40個すべてを見つけるのはとうてい無理だ。
まあ10の採集ポイントを見つけることができれば6人で60個、それをポーションにすれば120個分だ。そのくらいあればいいだろう。
今回俺たちは6人ばらばらで行動し、誰かが見つけたらその地点の座標をパーティーのチャットに記していく。
しばらくしてある程度採集ポイントが見つかったらみんなでまとめて取りに行く、という作戦だ。
「ウィンド・ガイダンス!」「レイズ・スピード」
ティウとノブラックがそれぞれ移動速度上昇のバフを掛ける。
レイズ・スピードとかもう何のひねりもなく技名そのままだな……
しかし技の効果が直感的にわかりやすいとかで、技名を気にしない勢は結構助かっているようだ。まあ俺も別に不満なわけではないしどうせ使わないからそこまで気にしてはいないが。
バフに関しては魔法ごとに乗算なのか加算なのか効果時間が足されるのかが変わってくる。ちなみにそれはあとに掛けた魔法の効果が優先されるようだ。
といっても序盤のバフ魔法は大抵効果時間が伸びるだけだ。それでも今回はかなりありがたく使わせてもらう。
今回女子達は「厚手の手袋C」というものを装備している。確かにあれはあまり素手で触りたくはないな。
まあ俺はすっかり慣れてしまったが。何十回も包丁で加工していたのがとても懐かしい。
早速俺は採集ポイントを見つけた。チャットに座標を打ち込んでおいて……と。それにしても体が軽いな。これなら相当速く動けそうだ。
もしかしてみんなは常時この状態でダンジョンを突き進んでいるのか? だとすると相当速くすすめることになるな。
なんて考えていたら3個めの採集ポイントが見つかった。採集ポイントは一日ごとに変わっていくが何日も採集していればだいたい場所は覚えてしまう。
まあ候補は多分200箇所以上あるので知らない場所もまだまだありそうだが。
そんなこんなでみんな2箇所または3箇所見つけたようなので、各自でお互いが見つけた場所からマナタケを採集し、プレイヤー転送機で帰った。
周りに人がいないかどうか細心の注意を払って転移した。まあプレイヤーの上に表示されるアイコンは木や岩越しでも10m以内なら見えるので、周囲にいるかどうかはなんとなく分かるのだが。
この仕様のせいでPKは影に隠れて奇襲――ということは殆どできないようだ。大抵は優しく人を案内するフリをして襲うとかしているみたいだ。
でもこのゲームではあまりPKの話を聞かないな。俺もいままで一度も遭ったことがないし。
俺が獲った分のマナタケは採集してその場で加工して即拠点に転送したのですでにMPポーション製造機は動いている。
残りの人の分のマナタケも数本加工して製造機にセットして……と。
みんなは20分位したらここを出るようだ。それまでは一旦ログアウトして作戦会議をし、その後装備などを整えると言う。
俺は久しぶりにMPポーション製造機をいじる。
地下室に入るといつも通り多種多様で見た目がなにかのからくりで動くおもちゃみたいに見えなくもないMPポーション製造機が動いている。
この中で特に時間のかかる加熱と冷却の工程を何本かの瓶で並列に加工することが出来るようにしていきたい。
結構ゲーム外で考えてきた。一番めんどくさいのは転移魔法陣はアイテムを同じ場所にしか転移できない、というところだ。変数の研究はめんどくさそうだし……。
そこで思いついたのが、何らかの方法でアイテムを加工し終えるごとに別の場所に移動するようにすればいい、ということだ。要は自動車工場と同じような感じにすればいい。
冷蔵する工程では、中を水で満たし、その中に瓶を上から落とし込むようにした。こうすることによって冷蔵庫――冷蔵水槽とでも呼ぶか、の中をゆっくり冷やされながら沈んでいき、前のMPポーションの上にぶつかる。
冷蔵水槽は筒状にしてあるのでポーション瓶は下から順に長い時間冷やされたものとなる。そしてちょうど適正な時間冷やされたところで中から転移される。
こうすることによって幾つものポーション瓶を同時に冷却することが出来るのだ。
加熱は残念ながらこうはいかないので転移魔法陣を使って移動させることにした。
といってもいつもと違い加工し終えたポーション瓶だけを取り出す機構を作らないと行けないので、冷蔵水槽に似た仕組みが必要となる。
そういうわけで転移魔法陣の効果を「上にある瓶(全て)を東に5mm移動、1秒間隔」にした。
こうすると面白いことに瓶がベルトコンベアーのごとく横にスライドしていくのだ。
これでマナタケの加工の高速化は済んだ。二つあたり三分ほどで作れるようになった。
まあ今たまたま高速で作る必要があったから高速化したが、本来は一日100個しか作っていないのでどちらかと言うとマナタケの確保のほうが問題だ。
クランハウスのローンがある以上お金はあまり多く使えないから極力マナタケやMPポーションを買いたくはない。
あ、もしかしてら卸売市場なら安く売っているかも……?
早速俺はクランハウスを出た。




