14話 兄の力
本当に兄なのかは分からないが、彼が来た事により2対1になった。
これならあの盗人を追い詰める事が出来る…!
「ちなみに言っておくとあいつは人の能力を奪える。ただし触れた時のみ…だから触れられないように気を付け…てください」
俺は思わずタメ口で話そうとしていた。
彼を兄だと内心はもう思っているのかもしれない。
「そもそも触れられる気なんてねぇから大丈夫だぜ…」
彼のその一言は何故か信用出来た。
この人なら本当に触れられない… そんな気がした。
彼はその瞬間、少年との距離を詰める。
彼は炎を拳から飛ばしつつ、彼の顔だけを目掛けて殴りかかる。
その殴り方は空手のような動きだった。
だが、どこか俺にやはり似ている…
いや、もし本当に彼が兄なら俺に似ているのではなく、彼に俺が似ているんだろう。
彼が触れられそうになって後ろに下がったタイミングで俺が前に出る。
俺も触れられないように気をつけながら、少年の顔を一発一発正確に狙って拳を放つ。
だが、彼の動きはやはり只者じゃない。
これだけやっても彼は全てを避けて触れられそうなタイミングで掴みに掛かってくる。
そして今度は俺が下がる。
すると赤い髪の青年は俺に呟いた。
「俺と殴り方もやっぱり似てるなぁ… そう思わないか?」
確かにそう思っていた。
だが、ここで認めたら何かに負けた気がするから俺は何も言わなかった。
黙って緑の少年をひたすら追い込む。
だが、俺は兄の存在に少し動揺していた。
少年に殴りかかって連続で右手を出した時、彼はさっきまで避けていたところを掴んできた。
掴まれた時、すぐにもう片方の左手で殴るが、既に彼の手は炎に包まれていて、俺の左手も掴まれた。
右手は本物だから危ないと思ってすぐに引いた。
だが、左手の義手も彼に盗まれた炎で少し溶けていた。
それに気付いて彼の腹に蹴りを入れると同時に後ろに下がる。
義手の左手は小指辺りが溶けていた。
小指の動きが悪くなったが、それ以外に問題は無さそうだった。
「まだまだ甘いな弟よ…」
隣に居た彼はそう言ってきた。
「俺が本当の強さを見せてやる…」
彼はそう言って右手を強く握り、右の手首を左手で押さえる。
そして呟く。
「最終時間だ」と。
その瞬間、気を失いそうになる程の熱と吹き飛ばされそうになるくらいの風が彼から飛んできた。
彼を包む炎はもう一人の俺の時とは比べ物にならないくらい凄まじい炎だった。
彼はその炎と共に少年に近付く。
流石に俺の炎を持ってもあの力には敵わないと気付いたんだろう。
俺の炎で抑えながらも彼は避ける事に徹していた。
しかし、彼の力は炎だけじゃなかった。
彼はだんだん動きが速くなっていた。
最初は普通の速度だったのに、今の彼の拳は目に見えない速度で放たれていた。
それでも少年は避けている。
あの少年の動体視力はどうなっているのか不思議でしょうがない。
だが、その少年の動体視力を彼の速さは上回った。
少年の腹に彼の拳は命中した。
一発食らった少年は思わず前かがみになる。
そこを彼は見逃さなかった。
彼は速い動きで拳を出せるはずなのに目に見える速度で少年の顔面を殴る。
恐らく、手加減で遅くしたんじゃない。
遅くなるほどの力を拳に込めていたんだろう。
彼は普通じゃありえないくらい後ろへ吹き飛んだ。
走り幅跳びでもそこまで飛べないだろうと思うくらいに。
もちろん、彼はそのまま気を失っていた。
もしかすると死んでいる可能性もあるだろう。
その瞬間、俺には彼に盗まれていた力が戻ってきた。
「勝ったのか…」
と俺は呟いた。
だが、驚く事が起きた。
攻撃を食らって居なかったはずの青年は炎が消えると同時にうつ伏せに倒れた。
「兄さん!大丈夫か?」
もう俺は彼を兄と認めていた。
だが、彼が倒れた事が気になって仕方なかった。
うつ伏せだとどうなっているのか分からなかった俺は仰向けにさせる。
すると、彼は「疲れた…」と寝言を言いながら寝ているようだった。
そんな急に寝る…!?
それにはそれで驚いたが、まあ異常が無いようで良かった。
俺は3人が倒れて1人寝ているその場で立ち竦んでいた。
その時、分かれた金剛と風音の事を思い出した。
「そうだ、報告…」
携帯を取り出してすぐに彼等に「こっちは男子2人の2人組と戦って勝った。そっちは?」とメッセージを送る。
だが、何分待っても彼等からメッセージは返ってこなかった。
メッセージが返ってくるのを待っていると、兄は目を覚ました。
「ん… あっ、また寝てたのか…」
そう言って目を擦りながら起きた。
急に寝た事も気になるが、今はそれどころじゃない。
「仲間達が危ない…」
彼に助けを求めるように俺がそう言うと彼は顔色を変えて、すぐに立ち上がった。
「分かった、早く行こう」
彼がそう言ってその場を去っていく後ろで、俺は樋川の死体を見て怒りと悲しみを拳に込めて、その場を去った。