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悪友で、親友で、相棒で

「王政を廃止するつもりだ」


「は?」


「エリシアに国王は務まらん。お前も王になどなりたくはない。ならばどうするか考えた結果だ。愚王になると分かっている者に国を任せるよりも、民達に自らの王を決めさせて、その者に国を任せる方がいい」


「……」


「そこでだ、お前にはハルオン帝国に行ってもらおうと思う」


「は?」


 唐突な言葉に思わず間抜けな声が出てしまう。

 王政の廃止と俺がハルオン帝国に行くのとはいったい何が繋がっているのだろうか?


「ハルオン帝国は昔の名残で"帝国"と名乗ってはいるが、民主制になって久しい国だ。そこに赴いて色々と見聞してきて欲しい」


「ちょっと待つさね、俺は……」


「あぁ、ついでに他の国も見て回って来るといい。そうだな、期限は特に設けない。無期限の他国視察だ」


「……」


 彼の言いたい事が分かり瞠目する。

 無期限の他国視察。それは、つまり。


「あぁ、それとお前の子供も連れていってやれ。親と離れるにはまだ幼かろう。他の供の者はお前が好きに選べばいい」


「……騎士団団長(スウォン)を連れていくかもしれんよ?」


「構わん」


「構わんって……」


「こちらには勇者が居る。王の護衛にも就かせて貰えぬ騎士団団長が一人居なくなったとて困る事はない」


「それはあんたが…………もしかして、わざとやったん?」


 俺の問いに彼は答えない。

 けれどそれが答えでもあった。

 歴代最強と名高い勇者がここ最近はずっと、国王や王女の護衛を務めていた。それは公の場であっても変わらずに。

 それまでその立場だった騎士団団長は周辺警備などに回され、それを嘲る貴族達が出てくる程になっていた。

 王からの信頼を失った騎士団団長と、全幅の信頼を寄せられている勇者。

 今、失って騒ぎになるのは後者だ。


「あんた、いったいいつから……というより、もしかせんでも全部あんたの計画通りなん?」


「お前も、スウォンも、秘密裏に逃がしてやるにはこの国での存在が大きくなり過ぎた。お前達をこの国から解放するにはそれなりの"理由"が必要だったのだ。他国の視察という"理由"は結構前から思い付いてはいたが、それにスウォンが同行するとなると話が難しくなる」


 それはそうだろう。

 いくら第一王子の護衛だとしてもそれに騎士団団長を当てるのは無理がある。


「だから、勇者召還の話が出た時に『これは使える』と思ったのだ。勇者をスウォンの立場にしてしまえばいい、とな」


「……」


 全てが彼の立てた計画通りだった。

 勇者が召還されてから数ヶ月。あらゆる場に勇者を護衛として連れていきその存在を知らしめていたのは、スウォンが居なくなった時の混乱を最小にするためだったのだ。


「出発の日取りはお前が決めていい。かかる金の全てもこちらで負担する」


「……」


「お前は、自由に生きていい。今まですまなかったな」


「そんなん、今さら謝られたって……っ、遅いんよ……」


 込み上げてきた感情を飲み込む。

 それでも震えてしまった声に彼は小さく苦笑した。


ーーー


「そうか。国王様がなぁ……」


 訓練所を急に訪ねて来た俺に話を聞いたスウォンが洩らした言葉はそんなモノだった。

 へぇ、と感心した様に呟いて空を見ていたスウォンが『それで?』と隣で蹲っている俺へと視線を戻す。


「それでってなんさね? もうちょっと気のきいた言葉はないんか? まったく、そんなんやからモテないんやよ」


「おい」


 俺の言葉に低く唸るような声で答えたスウォンに思わず笑ってしまう。

 笑って、そしてヒクリと、喉が鳴った。


「ごめんなぁ」


「……」


「ごめんなぁ、スウォン。ごめん……」


 "巻き込まれた"と思っていたのだ。

 俺もスウォンも、王族達の、俺達とは全く関係ない奴等の事情に巻き込まれてこの国に連れて来られ、望まない地位に据え置かれたと、そう思っていた。

 けれど本当に"巻き込まれた"のはスウォンだけだったのだ。

 俺は確かに王族の血をひいていて、この国に連れて来られるだけの"理由"があった。

 けれどスウォンは本当に、ただただ巻き込まれただけだったのだ。

 俺に、巻き込まれただけ。

 俺が、巻き込んだだけ。


「別に俺はよ、お前が本当に王子様でも、ただの平民でも、どうでもいいんだよ」


「……」


「俺がこの国に来たのは、まぁ、連れて来られたってのもあるけどよ、ただお前が心配だったからだ。小っせぇ頃から知っていて、一緒に色々やった悪友が見ず知らずの奴等に連れていかれたらそりゃ心配するだろ? だから、お前も来いって言われた時に抵抗せずに着いてったんだ。俺はただ、お前が心配だったんだよ。それをお前は……」


 頭上で特大の溜め息が聞こえた、と思った次の瞬間、俺の前に立ったスウォンの両拳が俺の米神を捉えてグリグリと回される。


「いった!? ちょ、痛い痛い痛い痛い!! やめ、頭割れるさね!!」


 必死の叫びに漸く拳が解かれ、スウォンが俺の前にしゃがみ込んだ。


「めそめそウダウダと。ちょっとはツキヨを見習え! あいつは、俺達が『いい』と言ったその後からは一切、巻き込むだの、迷惑だの言ってないだろうが。それに俺は、この国に来た時にお前に言ったぞ」


「え?」


「『お前のせいじゃない』」


「っ、」


「言っただろうが。忘れたか?」


「いや……いいや、覚えとるさね。あぁ、確かにそう言ってたなぁ……」


 忘れもしない。

 彼が連れて来られ、謁見の間で再会した時のことだ。

 国王にもその周りの貴族達にもふざけるなと怒鳴り、今すぐに彼を元の国に帰せといきり立った俺にスウォンが言った言葉だ。


『お前のせいじゃない。俺が選んだ事だ』


 そう、彼は言った。

 あぁ、だから俺はその時折れたのだ。

 彼が王国騎士団に所属させられる事に内心で反対しながらも、彼の意思だと折れたのだ。


「そうやったなぁ。あぁ、ならスウォン、」


 ここに居るのが彼の意思で、彼が選んだ結果で、俺のせいではないと、本人が言うのなら。

 俺が今、スウォンに言うべき言葉は"ごめん"ではない。


「ありがとうな」


「おう」


 満足そうに笑ったスウォンにグシャグシャと乱暴に頭を撫でられた。

 そうして、ついでの様に言われた言葉。


「ああ、そうだ。俺はここに残るぞ」


「……ええんか?」


 せっかく自由になれる機会だというのに、と問えば再びグシャグシャと頭を撫でられる。


「俺もお前も、この国に大切な奴等が出来た。俺はソイツ等を守る。お前はツキヨに着いてってやれ」


「そっか。分かったさね」


 国王に『遅い』と言ったその意味をスウォンは言わずとも理解してくれていた。

 謝罪と自由をくれると言うのなら、俺達がこの国に来た直後に欲しかった。今さらそれを貰っても、それじゃあと喜び勇んでこの国を去れる程に希薄な人間関係は築いてはいない。

 

「俺が知らない奴等も居るんだろ? 旅立つ前にソイツ等にも会わせろよ」


「あぁ、時間を作るさね」


 旅立つ前の準備の算段を頭の中で立てて行く。

 自分の準備もだが、ツキヨとセーラちゃんの準備にも手と口を出す予定だ。


「楽しみやねぇ。ああそうだ、土産話を期待しとってな、スウォン」


「おう、待ってるぞ」


 ウキウキと笑いながら言った俺にスウォンも笑顔で応えた。

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