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40:アヤカ、閉じ込められる


 アヤカが目を覚ますと、高級そうなベッドの天蓋が見えた。


(……あれ、いつものボロ天井じゃないな)


 寝具もふわふわだし、なんだか良い匂いもする。

 頭を起こして周囲を見渡せば、整えられた神殿の部屋らしかった。


「ウモウジールのやつ、絶対に茶になにか混ぜていただろ……シュウジは無事かな」


 ベッドから起き上がり、部屋の外に出るために歩く。なぜか、いつもより酷く体が重かった。


(まるで、この世界へ来る前に戻ったみたいに、体の動きが鈍い)


 元の世界でも運動神経はあった方だが、今の世界のように機敏に動けたり、力があったりする訳ではなかった。これらの恩恵は、聖人の性質によるものだ。


 豪奢な部屋に不釣り合いな鉄の扉に手をかけるが、開かない。外から鍵をかけられている。


(あんの、クソ神官!)


 手に力を込めて、もう一度扉を開こうとしたが、ガチャガチャとドアノブが回る音がするだけで、鍵が外れたり扉が壊れたりすることはない。


「なんで……!? いつもなら、この程度の扉は壊せるはずなのに」


 困ったことに、聖人の力が発揮されない。


(通常なら、ここで扉が壊れて開くはずなんだけど……聖人の力が使えていないなんて、どういうこと?)


 しばらく扉と格闘していると、外からウモウジールの声がした。


「アヤカ様、お目覚めになりましたか?」

「ウモウジール、私を閉じ込めてどうする気なの!? シュウジはどこ!?」

「無駄な抵抗はやめることです。あなた方の聖人の力は、しばらくの間封じることにしました。心配しなくても、赤い夜には解放して差し上げますからね」

「聖人の力を封じるって?」


 アヤカの問いに、ウモウジールは素直に答えた。

 含み笑いの混じった、腹の立つ声で。


「その部屋の中には、聖人の力を奪うことのできる神殿の秘伝の薬を撒いております。良い香りがするでしょう? 壁に天井に家具に寝具、すべてのものに染み込ませていますからね」

「ば、バル◯ン……」


 ダニ、ノミ退治の薬品名を思い出したアヤカは、すぐに部屋を換気しようとした。

 しかし、窓がない。


「香りが薄れないように、定期的に薬を撒きに行きますね。心配しなくても、人体には害のないものですよ」

「ふざけんな!」


 とはいえ、薬を撒きに神官が部屋を開けた瞬間が脱走のチャンスでもある。


「お食事は、三食運ばせていただきますのでご安心を。女性の神官が入浴などのお手伝いもさせていただきますし……ただし、逃げようだなどと考えない方が良いですよ。その薬は一度嗅げば二日は聖人の力を奪いますから」


 力がなければ、アヤカなどただの女子高生。

 この世界に来た当初、聖人の力が使えなかったアヤカは、神殿に所属する屈強な男達にいとも簡単に持ち運ばれ、神殿の外へ追い出されていた。


(どうしよう、アインハルド騎士団の皆に心配をかけてしまう)


 アヤカは焦った。

 この様子では、ウモウジールは、赤い夜の当日にしかアヤカを解放しなさそうだ。


「こんな風に、今までの聖人の力も奪っていたの?」

「ええ、そうですよ。役目を終えられた聖人様に普通の生活を送っていただくために。それから、たまに自分の力の制御ができずに日常生活に支障をきたす聖人様もいらっしゃるようで、そういう方にも使っていたと記録されています」


 今になって、アヤカは気がついた。

 聖人の子孫が神官になるということは聞いていたが……

 たとえお膳立てをされても毎回聖人が神官に恋をする訳ではないだろう。


(これが、最終手段ってわけ?)


 初対面の時以上に、アヤカはウモウジールに怒りを覚えた。


「シュウジ様はご無事です。無事に彼の子もできたようですし、赤い夜には参加していただくことにします」

「はあ!? シュウジに子供!?」

「ええ。おめでたいことに、彼の妻の一人が身ごもったそうで……」

「あいつ、高校生のくせになにやってんの!!」


 アヤカは、シュウジを説教したい気持ちにも駆られたが、ここに閉じ込められていてはそれも叶わない。


「赤い夜を無事に乗り越えた暁には、アヤカ様にも元気な子供を生んでもらいたいところですがね。ただでさえ、ここ数十年間で神殿の権威は失墜しているのですから……ここで聖人の血を取り込んでおかないと」

「絶対に嫌だ!! あんたらの事情なんて、知ったこっちゃない!」


 ウモウジールの代わりに、扉を蹴り飛ばす。だが、頑丈な扉はビクともしなかった。

 足音が遠ざかっていく。ウモウジールが部屋の前を去ったのだ。


(あいつめ、絶対に許さないからな)


 しかし、いくら憎き大神官を罵っても、ここから出られるわけではない。

 心の中で、あらんかぎりの悪態をついたアヤカは、八方ふさがりの状況に頭を抱えたのだった。


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