39:アヤカ、高級茶を飲む
神殿では、険しい表情のウモウジールがシュウジを出迎えた。
「シュウジ様、ご無事で何よりです。無断で外出することは控えてください」
「黙れ、偉そうに! だいたい、神殿側が無礼な態度を俺に取るから……!」
「無礼な態度とは……?」
「俺のことを馬鹿にしたり、種……いや、とにかく腹が立ったんだ!」
顔を赤くしたシュウジは、尚もウモウジールにくってかかる。
「アヤカも、化け物退治なんかに参加させないからな! 俺らにこの世界は関係ない!」
シュウジの言葉に慌てたのはアヤカだ。
「えっ、私そんなこと言ってないけど。アインハルド騎士団と一緒に幽獣退治に参加するつもりだよ?」
「黙ってろ、アヤカ。神官長、こんなことを言っているが、こいつも本当は乗り気でないんだ」
「デタラメ言わないでよ。私は、シュウジとは違う」
冷静に双子の喧嘩を眺めていたウモウジールは、近くにいた神官に小声で何かを指示している。
「シュウジ様、アヤカ様。こんなところで喧嘩をしていても埒があきません。一度、落ち着いてください」
そういって、アヤカとシュウジを客室へと案内する。
二人とウモウジールが客室の長椅子へ座ると、先ほど指示されていた神官が、三人分の茶を運んできた。
「神殿で栽培している高級茶です。これを飲んで、一度気を沈めてください」
「気を静めなきゃならないのは、シュウジだけだと思うけど」
弟と一緒くたにされたアヤカは、ウモウジールに反論する。
しかし、せっかく出された茶に口をつけないのも悪いので、とりあえず高級茶とやらを味見した。
高級茶と聞いて期待していたが、普通の緑茶だった。
シュウジも、ふてくされた顔で茶を飲んでいる。
「それで、今後のことなのですが……」
「今後も何も、俺らは化け物退治には参加しない。元の世界に戻るんだ!」
話し始めるウモウジールを遮って、シュウジが叫ぶ。
「いいえ、聖人様が元の世界へ戻られた前例はありません。あなたがたのいた世界から、こちらへの通路は一方通行。戻ることなど不可能なのです」
「そう言って、俺らを帰さない気だな!」
「ですから、戻る方法がないのです。そもそも、この世界の者があなたがたを呼び出した訳ではなく、あなたがたは勝手に落ちてきた。そんな自然現象の逆を行えと言われても、無理があるのです」
ウモウジールの言葉は、もっともだった。
「逆の自然現象はないの?」
アヤカは、彼に問い返す。
「見たことはありませんし、そんな自然現象に遭遇した聖人も皆無です。彼らは、全員がこの世界で生を全うしています」
「なんだよ、それ! 俺らは、絶対に元の世界へ戻れないっていうのか!?」
激高したシュウジが、ウモウジールに掴みかかる。
聖人の握力で攻撃されれば、普通の人間はひとたまりもない。
アヤカは、慌てて弟を止めようとした。
しかし、アヤカが手を出す前に、シュウジが前のめりになり床に崩れ落ちる。
「シュウジ!? どうしたの、コケた?」
彼は、床に倒れたままで微動だにしない。
弟の状態を確認しようとして、アヤカが彼を抱えあげようとするが、不意に猛烈な眠気が襲ってきた。
「……ウモウジール、お茶に何か入れた?」
遠のく意識の中で、アヤカは質問するが、大神官は笑みを深めるだけで何も答えない。
限界がきたアヤカは、シュウジの上にうつ伏せに倒れて意識を失った。
アヤカ、39話目にして神官長の名前を覚える。




