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34:騎士団長、遅い初恋に悩まされる

(矛盾していますね)


 ユスティンは、アヤカの小さな手を引きながら帰路を急いでいた。

 顔を真っ赤にした彼女は、羞恥心を霧散させようとひたすら足を動かしている。


 そんなアヤカを微笑ましく思いながら見つめるユスティンには、彼女に対する大きな負い目があった。

 自分の都合でアヤカを騎士に昇格させ、幽獣退治を手伝わせている。その上、「赤い夜」にも彼女の力を借りようとしている。

 聖人としてのアヤカを、誰よりも利用しているのはユスティンだった。


(それなのに、そんな彼女に想いを寄せているなんて……)


 自分の厚顔無恥ぶりが滑稽で、思わず苦い気持ちがこみ上げてきた。


(元の世界へ返すつもりなどないくせに、彼女の頼みで異世界に戻る方法探しを手伝うという約束まで取り付けて)


 こちらの世界から、アヤカを元の世界に返す方法はない。過去に、神殿出身のアドルフが言っていた。

 けれど、元の世界に帰る気満々のアヤカに、それを伝えられないでいる。

 昔から仕事一辺倒だったユスティンは、彼女に対する自分の不可解な行動に困惑していた。

 告白するつもりなど当初はなかったのだが、夫候補が現れたことにより、つい口が滑ってしまった。自分の行動が自分で制御できないなんて、生まれて初めてのことである。


(初恋とは、厄介なものですね。自分は理性的な方だと思っていたのですが、そうでもなかったようだ)


 最初に彼女に出会ったのは、騎士団宿舎の庭だった。

 不思議な格好をしたアヤカは、細い腕を伸ばしてグリモの首を撫でていた。なぜか、その光景が神秘的に見えたことを覚えている。

 騎士団の人間は、アヤカのことを男だと認識したらしいが、ユスティンは彼女が女だと気づいていた。女以外に見えなかった。

 ユスティン以外でアヤカのことを見抜いたのは、ブリギッタだけだ。彼とは、仕事を通じて知り合ったのだが、不思議と気が合う。ブリギッタの方もそうだったようで、一緒に働きたいと声をかけられた。

 それ以来、第二騎士団で情報系の仕事に就いてもらうことになったのだ。第五騎士団長は、元々変わり者のブリギッタの扱いに困っており、快く彼を送り出した。

 神殿関係はもちろん、幽獣の出現情報や、他の騎士団の動き、王侯貴族の動き、彼に調べてもらう内容は様々である。非常に優秀なブリギッタだが、彼は少々変わった思考回路の持ち主だった。そのうち第五騎士団の部下数名を第二騎士団へ引き込んで、自身は第二騎士団の職員として居着くようになってしまう。……自由人すぎる。

 職員不足で困っていた矢先のことだったので、助かるといえば助かるのだが。


 ユスティン以外は知らないが、ブリギッタも貴族である。

 ただし、自ら家を出たユスティンとは違い、現役貴族だ。騎士団で働かなくても食扶持には困らないだろうに、彼はなぜかこの環境が気に入っている。

 ついでに、アヤカのことも気に入っているようだ。珍しいことに、何かと世話を焼いている。

 新人いびりのブリギッタとして、気に入らない人間を退職に追いやっていた人物とは思えないくらいの面倒見の良さである。

 とはいえ、ブリギッタがいびる人間は、職員として難のあった相手ばかりだったので、ユスティンは、それほど強く注意してこなかった。


「ユスティン、もうすぐ騎士団宿舎だね」


 アヤカがユスティンを見上げて、嬉しそうに顔を輝かせた。神殿の中は、彼女にとって居心地の悪い場所だったようだ。

 新人の少年騎士向けの服を着たアヤカは、とても女性に見えない。女性らしい格好をさせれば可愛らしいのだが、本人は動きやすいものを好む。


(それにしても、神殿側は厄介な人物を送り込んでくれますね)


 ハイン・リーベル――大神官ウモウジールの従兄弟で、神官でありながら神殿騎士団の副団長を務める人物だ。

 そして、アヤカの夫候補。候補などと言っても、夫となることは、ほぼ確定していると言っていい。


「アヤカ様ぁ〜!!」


 騎士団宿舎の前でアヤカのことを待っていたのだろう、ミルが鼻にかかった声を出しながらアヤカを出迎える。彼女は、アヤカのことを男だと勘違いしているのだ。アヤカの性別が明るみに出ると、ショックを受けることだろう……


(あ、そうだ。明日には、神殿のエリートがこの騎士団へやってくるではありませんか)

 

 良からぬことを思いついたユスティンは、ミルの今後の活躍に期待することにした。

 色々と、面倒なことが山積みだ。

 だが、そんな状況下で、騎士団長はだんだん開き直り始めている。

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