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31:アヤカ、シュウジと再会する

 ブリギッタにパンを買ってくる旨を伝え、街に出る。なぜか、ミルも一緒についてきた。

 どうやら、ブリギッタにお役御免を言い渡されたらしい。


「うふふ〜、アヤカさん。これって、デートみたいですわねぇ〜」


 ミルは、始終上機嫌だ。

 近くのパン屋を回り、大量にパンを買い込む。荷物は、全部アヤカが持った。

 何件目かのパン屋を回っていると、不意にミルがアヤカの腕を引っ張った。


「アヤカさん。あの人、知り合いですか? さっきから、アヤカさんのことをずっと見ているのですが……」


 そう言われたアヤカは、立ち止まって周囲を確認する。

 ミルの指差した先には、ハインと二人の男が真剣な面持ちで立っていた。全員整った顔立ちをしている。


「アヤカ様!!」


 顔見知りであるハインが、アヤカの方へ走ってきた。


「どうか、我々をお助けください!! シュウジ様が……!!」


 懇願する彼の顔には、以前会った時とは違う焦燥が見て取れた。


「ミル。悪いけど、騎士団宿舎に戻って、ユスティンに伝えてくれる? 弟に何かあったみたいだから、神殿に様子を見に行ってくるって」

「は、はい、わかりましたぁ〜」

「それから、三人のうちの誰でもいいんだけど、このパンを騎士団に届けてくれない?」


 アヤカの言葉に、ハイン以外の一人がパンの配達を請け負った。イケメンと一緒に帰宅できることが嬉しかったようで、ミルは機嫌が良い。

 ハイン達に連れられて、アヤカは急ぎ足で神殿へと向かった。



 神殿では、憎きウモウジールがアヤカを出迎えた。

 盛大に文句を言ってやろうと意気込んでいたアヤカだが、彼の様子に言葉をなくす。

 ウモウジールは、左腕に包帯を巻いていたのだ。それだけではない、顔にも数箇所の傷がある。


「どうしたの? 誰かの恨みを買って、夜道で襲われた?」


 アヤカの嫌味に苦笑したウモウジールは、片腕をかばいながら恭しく頭をさげる。


「よく、お出でくださいました。アヤカ様……」

「頭なんて下げなくていいよ、怪我が痛むんでしょ?」


 ウモウジールの礼を止めたアヤカは、どういうことかとハインに目で問いかけた。


「大神官ウモウジール様の怪我は、シュウジ様によるものです。あの方が部屋で暴れられた際に、ウモウジール様が止めに入ったのですが、聖人様の持つ強大な力に抗いきれず左腕を骨折してしまったのです」

「シュウジがやったの?」


 アヤカは、幽獣を退治できるような怪力を持っている。聖人であるシュウジもまた、同じ状態なのだ。普通の人間が、その中でも特にひ弱そうな大神官が、彼に太刀打ちすることなどできないに決まっている。


「一体、何が起こっているの?」


 問いかけに答えたのは、後ろに控えているハインだ。

 彼は、シュウジが幽獣を拒絶して部屋に引きこもったことや、その後は神殿に反抗して暴れるようになったことなどをアヤカに説明した。


「あの馬鹿……」


 とはいえ、弟のとった行動は無理のないものだとも思う。

 いきなり見知らぬ世界に呼び出され、関係のない人間達のために幽獣退治をしなければならないなんて、理不尽にも程がある。

 適当で流されやすいアヤカとは違って、弟のシュウジは繊細な性格をしているのだ。最初は聖人と崇め奉られて気を良くしていたのだろうが、現実を知るにつれて嫌になったのだろう。


「シュウジ様は、今も神殿の奥で暴れておられます。どうか、あの方を……」

「言われなくても止めてくるよ」


 これ以上、怪我人が出るのは避けたい。

 聖人であるシュウジを止められるのは、アヤカだけだ。

 ウモウジールとハインにシュウジがいる場所を聞き出したアヤカは、まっすぐ弟の元へと向かった。


 神殿の奥は、ひどい有様だった。白くて繊細な彫り物がされている壁や床が無残に抉られており、壊れた家具類が散乱している。


(これって、弁償させられるのかな……嫌だな)


 アヤカの頭の中を、笑顔でそろばんを持つユスティンがよぎる。


(とにかく、今は、早くシュウジを止めないと)


 細工にある扉に手をかけて強引に開くと、約一ヶ月ぶりに会ったシュウジが部屋の奥にうずくまっていた。

 不平があって暴れても、神殿を自ら出て行くことはしない。小心者の彼らしい反抗の仕方だった。


「シュウジ。あんた、どうしたの? こんなに大暴れして」


 姉の声に反応したシュウジが、驚いた様子で顔を上げる。


「アヤカ……どうして、お前がここにいるんだ?」


 シュウジの顔は、ひどく憔悴している。アヤカは、彼の元へ駆け寄った。


「大丈夫?」

「大丈夫なわけあるか! おかしいだろ、こんな世界。なんで、俺があんな化け物を退治しなくちゃならないんだよ! この前見たやつでも酷い姿をしていたのに、神殿の奴らは、あれよりももっとデカくて凶悪なやつの相手をしろとか言ってくるし!」

「シュウジ……」

「俺、元の世界へ戻りたい! でも、神殿の奴らは、もう戻れないって言いやがる……」


 ウモウジールを攻撃したのは、そのことが原因らしい。


「私も、そう聞いた。代々の聖人は、こっちの人と結婚して暮らしていくんだって……でも、大丈夫だよ。「赤い夜」が終わったら、元の世界に戻る方法を一緒に探してくれるっていう人がいるから」

「大丈夫じゃねえよ、馬鹿アヤカ! それで見つかる保証はないだろ! それに、その前に「赤い夜」で死んぢまうよ!」


 再び暴れ出すシュウジの腕を、アヤカが抑えつける。

 シュウジの顔は、今にも泣き出しそうだった。感情が高ぶると、彼はいつもこうなるのだ。

 だが、ここには、そんなシュウジを慰めてくれる母親はいない。


「シュウジの代わりに、私が「赤い夜」で幽獣を退治するよ。私も聖人だったみたいだから」


 弁償の件もあるので、どのみちアヤカは幽獣退治に参加しなければならない。


「だから、シュウジは幽獣退治に関係なく神殿で過ごせばいい。居づらくなれば、アインハルド騎士団に来ればいいし」


 アヤカの言葉に、シュウジは少し落ち着きを取り戻した。


「部屋、片付けなよ。あと、怪我させた人に謝って」


 ふてくされた顔をしているが、シュウジは黙って頷いた。


「……アニータを呼んでくれ、ヒルダとリリー、モニカとノーラも」

「誰、それ?」

「俺の妻達だ」


 双子の弟の衝撃発言を聞いて、アヤカは体をこわばらせる。

 幽獣退治に反発し、異世界を拒絶していた割に、妻の方はしっかりゲットしているらしい。


「わかった、神殿の人に言ってくる」


 アヤカは、色々な衝撃でふらつく足を動かし、ウモウジールの元へと向かうのだった。

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