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30:アヤカ、ハニートラップを躱す

「団長の読み通り、神殿側がアヤカに接触してきたわ!」

「そのようですね。……どういうことでしょうか、神殿側には正式にお断りの返事を出したはずですが?」


 ユスティンの威圧感に、ハインは一瞬ひるんだ様子を見せた。しかし、再び勢いを取り戻して口を開く。


「それでも、私は、大神官から聖人様を説得するように言われています。判断をするのは、あなたではなくアヤカ様だ」

「騎士団に拒否されたから、今度はアヤカを直接狙う気ですか? 言っておきますが、彼女に、ハニートラップは効きませんよ?」


(ハニートラップってなんだ!?)


 アヤカは、大いに戸惑った。疑問に答えるかのように、ユスティンがハインに言い募る。


「おおかた、あなたはアヤカの夫候補といったところでしょうか。いかにも神殿側が使いそうな手口です」

「夫候補!?」


 アヤカの声が裏返る。


「そうですよ、アヤカ。彼は、神殿側が用意したあなたの夫候補の内の一人です。ホイホイついていったら、神殿に監禁されてしまいますよ?」

「怖っ!!」

「早く騎士団宿舎に帰りましょうね」

「か、帰る!」


 落とさないように荷物を抱え、アヤカは騎士団宿舎を目指す。

 その背中に向けて、ハインが声を張り上げる。


「いいのですか、アヤカ様? シュウジ様は今、大変な状況に置かれております! たった一人の弟を見捨てて、あなた様は自らの役目を放棄されるのですか!?」


 アヤカは、ハインの言い分にイラッとした。

 そもそも、最初にアヤカを見捨てたのは、シュウジや神殿である。それを、今更どのツラ下げて糾弾するのか。


「言われなくても、幽獣退治はするってば! ただし、神殿の聖人としてではなく、アインハルド騎士団としてだけど! 帰って、ウモージーにそう伝えて!」


 盛大に啖呵を切ったが、最後の最後で人名を間違える。アヤカ、痛恨のミスだった。

 憤慨したまま、ブリギッタやユスティンと共に宿舎へ帰る。

 ハインは、それ以上何も言ってこない。


(シュウジが大変って、どういうことなんだろう)


 それだけが、小さなトゲのようにアヤカの心に引っかかっていた。



「うーん、どうしたものか……」


 翌日、朝の訓練を終えたアヤカは、食事の用意をしつつ頭を悩ませていた。

 そんなアヤカの傍には、笑顔のミルが立っている。


「アヤカさぁん〜、どうされたのですか? 憂い顔も素敵ですわね〜」


 ミルは、アヤカのことを男だと思っている。

 聖人であることが判明したアヤカを我が物にしようと、虎視眈々と妻の座を狙っていた。

 アヤカの性別を知っているのは、ユスティンとブリギッタ、そして第四騎士団副団長のアドルフだけなのである。

 当初は元貴族のユスティンに思いを寄せていたミルだが、アヤカの正体が明るみに出るとあっさり鞍替えした。「強かな女ね!」と、ブリギッタが憤慨している。


 アヤカが悩んでいる原因は、今朝届いた手紙だった。

 その手紙の送り主は、神殿にいるハインだ。

 手紙には、双子の弟シュウジの現在の様子や、聖人の重要性……あと、なぜかアヤカを褒め称える言葉がつらつらと書かれている。

 ハイン曰く、現在シュウジは神殿で引きこもりと化しているらしい。


(どうしたんだろう、日本にいた時は部屋に引きこもることなんてなかったのに……)


 生意気な弟だが、異世界で引きこもりになってしまったと聞けば心配になる。


(様子を見に行きたいけど……)


 ユスティンは、きっと反対するだろう。

 彼は、ハインに会って以来、彼をやたらと敵視している。

 そして、ことあるごとに「神殿に行けば監禁される」と言ってアヤカを脅してくるのだ。

 監禁されるのは避けたい。でも、弟が心配だった。


 思い悩んでいるアヤカの背後で、ブリギッタが怒声をあげている。


「ちょっと、ミル! パンが焦げているじゃないの!! どうするのよ!!」


 どうやら、ミルがいつものドジをしたらしい。彼女は、ほぼ毎日仕事関連でミスをし、ブリギッタに叱られているのだ。


「ごめんなさぁ〜い」

「夕食分のパンが足りなくなるわ。買い出しに行かないと!」


 困っているブリギッタのために、アヤカはパンの買い出しに行くことにした。

 騎士として働いているアヤカだが、食事を担当していることもあり、非常時は訓練時間の融通が効くのだ。

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