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28:アヤカ、ハンマーを振り回す

 アヤカは、ユスティンから対幽獣用の武器の使い方を指南されていた。


「赤い夜まで、あと二ヶ月。そんな短期間で、弓が扱えるようになるとは思いませんので……アヤカには、打撃系の武器の基礎を学んでもらいますね」

「うん、わかった!」


 神殿で破壊した諸々の弁償をするためには、騎士として働くしかない。神妙な顔で頷く。

 ユスティンは、アヤカのために巨大なハンマーを用意していた。今度から、アヤカの使う武器はこれになるのだ。


「とにかく、それを振り回して幽獣に当ててください。当てさえすれば、なんとかなりますから」

「折れたりしない?」

「木剣よりは丈夫ですが……万が一ということもありますね。こちらでスペアを用意しましょう」


 アヤカは、片手でひょいとハンマーを持ち上げる。

 軽い、おもちゃのハンマーのようだ。


「それ、力自慢のマルクでも両手で持ち上げるのがやっとという武器なんですけど……」


 ユスティンは、遠い目をしている。


「騎士達は、普段は弓を使うの?」

「弓も剣も扱いますよ。騎士団の大半の者がそうです」

「ユスティンは?」

「僕も、例に漏れずですね。第五騎士団のブリギッタなどは、少々違いますが……」


 片手でハンマーを上げ下げしているアヤカに、ユスティンが近づく。


「持ち方は、こうですよ。そのほうが、力がかかります」


 彼はアヤカの手をとって、基礎の構え方を指南する。後ろから抱きかかえられるような体勢に、

アヤカは柄にもなくソワソワしてしまった。

 ユスティンが気になって、彼の教えが頭に入らない。


(ダメだ、集中しなきゃ!)


 意識的に、ユスティンを気にしないように努める。


「ねえ。ユスティンは、どうして私に親切にしてくれるの?」


 弁償や雇用契約は容赦ないが、なんだかんだ言って彼はアヤカの面倒を見てくれる。


「ああ……なぜか放っておけないんですよね。初めて会って時から気になっていましたし……」

「初めてって?」

「あなたが、騎士団宿舎に面接を受けに来た時ですよ。ヘンテコな服を着た女の子が、騎士団宿舎内に侵入して勝手にグリモを撫でているなんて……ものすごく衝撃的でした」

「そういえば、この世界にはTシャツに短パンって服装はないものね」

「普通、女性は足を出しませんから」

「夏場は大変だね。蒸れそう……」


 アヤカの様子にため息をついたユスティンは、夏場の服装に逸れていた話を戻す。


「で、その女の子が実は聖人で……それなのに、何も言わずに慣れないこの世界で一生懸命働こうとしているのだから、手も貸したくなりますよ」

「ユスティン……」

「……僕は、聖人であるアヤカを利用しています。普通の女の子を急遽騎士に仕立て上げ、幽獣と戦わせようとしています。我ながら、あきれ返るほど騎士道精神に反する行いだ」


 自嘲するように笑ったユスティンは、アヤカの体を抱えて自分の方へ向けた。


「アヤカ……それでも、僕は騎士団長という立場上、このような卑怯な行いを続ける気でいるのです」


 彼と向かい合ったアヤカは、苦しそうな騎士団長をまじまじと見つめる。


「……ユスティンって、案外真面目なんだね」


 強引にアヤカを騎士にしたり、幽獣退治に巻き込んだりしているものの、心が痛まないわけではなかったらしい。

 どちらかというと世話焼き体質のアヤカは、このような人間に弱かった。つい、守ってあげたり、手助けしたくなってしまうのだ。


「いいよ、気にしなくて。「赤い夜」とやらまで、騎士をやってあげるから。その代わり、それが終わったら、元の世界へ帰れる方法を探すのを手伝って欲しいんだけど。私は、この世界の人間ではないから……やっぱり、元の世界へ戻りたい」


 アヤカの言葉を聞いたユスティンは、少し悲しそうに眉をひそめた。


「そう、ですか。……ただでさえ、この世界に無関係のあなたを、幽獣退治に巻き込んでしまっています。「赤い夜」が過ぎた後も残ってくださいというのは、我儘すぎますね」


 そう言って仕方なさそうに頷く騎士団長は、どこか哀愁を漂わせている。


「僕自身は、あなたのことを気に入っていますし、こちらに残ってくださったらと思いますよ。あなたのお手伝いはしますが、気が変わればいつでも言ってくださいね」

「……うん」


 なぜか、ユスティンの顔がほんのり赤いような気がした。


「そろそろ、晩御飯の準備の時間だ。ユスティン、今日は武器の使い方を教えてくれてありがとう。食堂に行ってくるね!」

「ええ、いってらっしゃい」


 ハンマーを片付けたアヤカは、食堂を目指して一目散に駆けて行った。

 準備時間に遅れると、ブリギッタがうるさいのである。


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