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15:アヤカ、騎士にスカウトされる

 第四騎士団の医務室から退院して第二騎士団に戻った瞬間、アヤカの部屋にブリギッタが突撃してきた。


「アヤカ、こんなに早く復帰して大丈夫なの!? 第四騎士団に運ばれてきた時に、私も様子を見に行ったんだけど……あんた、血まみれで今にも死にそうだったじゃないの!!」

「大丈夫だよ、今日から仕事にも復帰できるし」

「無理しないでよ! あんたに潰れられたら、私が困るんだからね!」

「うん。ありがとう、ブリギッタ」


 アヤカの怪我は、すでに完治していた。

 しかし、ユスティンには、そのことをしばらく伏せておけと言われている。

 今のところ、アヤカの驚異的な治癒力を知っているのは、団長のユスティンと担当医のアドルフだけだった。


「午前中は新人騎士が手伝ってくれるから、あんたは休んでいいわ。夕食の準備から復帰してちょうだい」


 ブリギッタ去っていくのを見送ったアヤカは、休みである午前のうちに部屋を片付けることにした。

 必要なものは街で購入したが、部屋の中は埃まみれのままだ。

 窓を開けて部屋を綺麗に掃除し、不要なものは捨ててスペースを確保する。

 ボロボロのカーテンは新しいものと交換し、ベッドのシーツや布団カバーも新しいものに付け替えた。アヤカのセンスで選ばれたカーテンや布団カバーは、決しておしゃれではない。モノトーンの茶色や白という、無難で地味でベーシックなものだ。

 完璧ではないが、大体の部屋の模様替えが済んだところで、トントンと誰かがアヤカの部屋の扉をノックする音が聞こえる。

 アヤカが扉を開けると、そこにはユスティンとマルクが立っていた。


「おはようございます、アヤカ。今から騎士たちの訓練を見てもらいたいので、僕についてきてもらえますか?」

「へ……? 私が訓練なんて見てどうするの?」

「ふふ、アヤカは僕の言ったことを忘れてしまったのですか? 業務内容の変更があると伝えたでしょう?」


 確かに、第四騎士団に保護されたアヤカの見舞いに来た際、ユスティンはそのようなことを言っていた。


「そうだけど……」

「細かい話は後です、僕について来てください。」


 穏やかな……ではなく、穏やかに見えるだけの有無を言わせない笑顔で、ユスティンはアヤカを騎士たちの訓練場へ連行する。

 隣にいる副団長のマルクはというと、何かを言いたそうにユスティンを見ては、強引な笑顔で押し切られるというやりとりを繰り返していた。


「アヤカ、あなたには今日から騎士の訓練に参加してもらいます」


 騎士たちの訓練場に着いた途端、ユスティンがそう宣言した。


「はあ!? 聞いていないよ!! 私は、騎士団宿舎の職員であって騎士じゃないし!」

「雇用契約書に、配置先は適正に応じて決定する……と書いてあったはずですが」

「で、でも……副団長のマルクさんに言われた業務内容に、そんなことは含まれていないよ!?」


 同意を求めるように、アヤカはマルクの方を向く。

 しかし、マルクは気まずそうにアヤカから目をそらせてしまった。


「……アヤカ。悪いが、ここでは団長がルールだ」

「なにそれ!!」


 憤るアヤカの手を、ユスティンが優しく……力強く引き、訓練場の騎士たちの前に引き立てる。


「皆さん。()は、今日から新人騎士として第二騎士団に配属になる、アヤカ・スズキです。職員として採用しましたが、適性があるので騎士にしました」


 ユスティンに突っ込む者は、誰もいなかった。

 騎士団での彼は、逆らってはいけない人物として認識されているようだ。


「……で、でも、ユスティン! 私が騎士になっちゃったら、ブリギッタが一人になるよ? あの業務量を一人でこなすのは、無理だよ!」

「心配いりませんよ、アヤカ。前に逃げ出した職員を捕獲しましたから」

「えっ……捕獲!?」

「掃除洗濯、その他もろもろの業務は、ブリギッタとその職員に任せます。なんなら、今日みたいに新人騎士を手伝いに回してもいいですしね」

「わ、私も新人だよね? 今から、ブリギッタを手伝いに行って来る……」

「アヤカには、食事のみ担当してもらいます。その他の業務は手出し不要ですよ」


 すでに、アヤカの中でのユスティンは、無害な「朝寝坊グルメ騎士」などではなく、「暴君団長」という厄介な人物へと変わっていた。


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