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11:アヤカ、異世界で鳥と戯れる

 一羽が荷馬車の下を覗き込と、その中には二人の男と一人の女が肩を寄せ合って隠れていた。

 手前にいた男が、鳥のくちばしに腕を掴まれて引き出された。彼の抵抗する声が生々しく広場に響く。

 アヤカには、彼を助けることなどできない。動けば自分が狙われることがわかっているからだ。

 ただ息を殺して壁に背を預け、自分が狙われないことを祈る他なかった。

 もう一羽の鳥は、別の獲物を探して周囲を歩き始めた。先ほどの一羽と同じ獲物を分け合えば良いのに、新たな獲物を確保したいらしい。

 石畳の上をゆっくり移動する鳥は、だんだんアヤカのいる方へと近づいてくる。


(来るな、頼むからこっちへ来るな……!)


 だが、そんな時に限って拒んだ相手が近くへ来てしまう。

 そうして、壁に背を張り付かせているアヤカを鳥が目ざとく発見した。物陰に隠れきれなかったアヤカは、鳥にとって見つけやすい獲物だったのだ。

 甲高い奇声を発しながら、鳥が石畳すれすれを架空する。咄嗟にジャンプすることで迫りくる鳥のくちばしから逃れたアヤカは、自分の体の動きに違和感を感じた。


(なんだか、いつもより高くジャンプできた。それに、鳥の早い動きも良く見える……ような?)


 獲物を捕らえ損ねて過ぎ去った鳥は、Uターンをしてアヤカの方へ戻ってくる。

 ふと、馬車の下に隠れた女と目が合った。間一髪で難を逃れた彼女の目は、自分が助かるため、アヤカが鳥に捕食されることを望んでいた。

 厳しい状況に思わず眉をひそめたアヤカだが、女の姿は先ほどまでの自分と同じだと思い当たる。


(でも、あんな化け物に食べられるなんて、冗談じゃない!)


 アヤカは、おとなしく鳥に食われてやる気なんてサラサラなかった。


(ダッシュで鳥の入れないような場所に逃げ込むことができればいいけれど……)


 あいにく、そんな場所はない。ならば、アヤカに取れる方法は一つだけだ。

 鳥と、戦うこと。抵抗して、鳥を追い払うこと――

 普通に考えて、そんな真似ができるわけがない。アヤカは丸腰だし、鳥は人間の五倍ほどの大きさだ。


(でも、やらなければ、私が食べられてしまう。そんなのは、嫌だ!)


 わけのわからない場所で、日本にも戻れないままで、気味の悪い化け物の餌になることなどあってはならない。

 再び滑空してきた鳥の爪が、アヤカの腕をかすめる。鋭い爪で割かれた薄い皮膚からは血がにじんだ。鳥の羽ばたきによって吹き飛ばされた屋台が、建物の壁に当たり、崩壊した屋台の木片と崩れた建物の破片が散乱した。

 アヤカは、とっさに近くにあった大きな建物からこぼれ落ちた石の破片を拾う。

 それと同時に、狩猟の成功を確信した鳥が、歓喜の叫び声を上げながら迫ってきた。獲物が負傷したことに気がついたのだろう。だが、素早い鳥の動きが、アヤカにはスローモーションのように映る。


「ギャアギャアうるさい! チキンカツにすんぞ!」


 地面すれすれを滑空して迫ってくる鳥の顔面に向かって、アヤカは大きな石の破片を振り下ろした。グシャリと確かな感触が、手に伝わる。鳥の頭が砕けたのだ。

 アヤカが鳥の頭に石をたたきつけたのとほぼ同時に、鳥は石畳に落下した。


(助かった……?)


 アヤカは、鳥の血で赤く染まった石の裏側を見て、呆然とその場に立ち尽くす。

 自分に鳥の頭を潰せるほどの力があるということが、単純に信じられなかったのだ。


(もしかすると、あの鳥の頭は特別に柔らかいのかもしれない。動きも思ったよりゆっくりだったし……あ、そういえば、もう一匹いたんだった)


 そう思い振り返ると、アヤカのすぐ後ろに鳥が立っていた。先ほどまで男を食べていたせいで、真っ赤に染まったくちばしからは、ポタポタと血がたれている。

 突如目の前に現れた光景に、アヤカの思考が停止した。

 急に曲がり角から出現したトラックや、突然落下してきた工事現場の鉄の柱――通常の人間は、そのような不意を突く事態に咄嗟に対応できないものである。

 真っ赤な目で獲物を見つめる鳥は、鋭いくちばしをアヤカに向かってまっすぐ突き立てた。

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