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外道が嗤う  作者: アタマ
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交渉

 檻の中の奴隷が見よう見まねで魔法を使った。

 その様子を見て、男はこの奴隷に興味を持った。魔法は簡単に出来るものでは無いことを、研究者である男自身がよく知っている。

 力尽き倒れている奴隷に近付こうとした際、フードを被った人物が再度魔法を詠唱していることに気が付いた。


「やめろ」


 そう静かに呟き、フードを強く突き飛ばす。集中していたフードは何も出来ずに馬車の壁にぶつかり、車体を揺らした。

 御者からの文句はない。その事に男は舌打ちをする。不気味に思い出しながらも、視線を奴隷に移す。当たり前だが、奴隷は檻の中でぐったりと倒れていた。


「……当然、だよな」


 そう呟きながらも、男は慎重に奴隷に近付く。何となく、この奴隷なら気絶したふりをしているのでは、そう考えずにはいられなかった。

 途中フードの方に目を向けると、打ち所が悪かったのか、気を失っているようだ。


「おい、起きているか? 起きているなら返事しろ」


 男は檻から少し離れた所から声をかけるが、返事は返ってこない。今の位置からは完全に気絶しているように見える。

 それでも男は警戒を止めなかった。今度はもっと檻に近付き、爪先で檻を軽く揺らしてみる。

 奴隷は少し身動ぎしたが、それ以外の反応を見せない。ここで男は警戒を解いた。

 檻の中に手を入れ、気絶している奴隷を揺さぶる。そこまでして奴隷は漸く目を覚ました。


「やっと起きたか。気絶する前の事を覚えているか?」

「……ここは、どこ? わたしはだ……、ハイハイ、ボケないからそう睨まないでくれよ」


 目を覚まして早々にそんなボケをかます奴隷。ケラケラと笑う奴隷を更に睨み付けるが、その反応を楽しむかのように笑い続けている。

 いろいろな言葉が喉までこみ上げ、声に出さずに飲み込む。代わりに溜息をついて奴隷に話しかける。


「魔法を使ったことは覚えているか? もう一度使えるか?」


 それを聞いた奴隷がにやりと笑う。そのまま口を開こうとした為、男は手で制止する。

 その後、後ろで未だ気絶しているフードを指さす。それだけで奴隷はどういう意味か理解したのか先ほどより口角をつり上げた。


「ねぇ、空間に水をとどめる魔法ってある?」


 奴隷は年に合わないくらい頭が回るようだ。自分やフードをからかっている時にも思ったが、どうも子供の発想とは思えないことばかり言う。


(前世の記憶を持っている可能性あり、か……)


 極稀ながら生まれてくることがわかっているそれを男は視野に入れる。


(なかなか面白いものを見つけたな)


 そう考えながら、男は奴隷が今まで自分にしてきたことを水に流すことに決めた。


「俺は魔法はサッパリだ。そこのやつなら知ってんだろ」


 男がそう答えると奴隷はあからさまに演技臭く残念そうにした後、フードの方に顔を向ける。

 手錠でつながれた両掌をフードの方に翳し、先ほどと同じように呪文を唱える。


「『ウォーターボール』」


 奴隷の手から両手で包める程度の大きさの水の玉が出来る。しかしそのまま動かず、直ぐに弾けて消えてしまった。

 何とも言えない空気が二人の間に流れる。

 奴隷が困ったように男を見上げてきたが、男は肩をすくめるしか出来ない。結局、男自らフードを起こすことになった。


「と、言うわけでコイツに魔法を教えろ」

「そ~だ~、教えろ~」

「先ずはこの奴隷の顔を水で覆う魔法を……」

「あ、そう言うのは勘弁」


 生意気な事を言う奴隷に呆れながらも、男はフードを見る。まだ冷静とは言えないが、いきなり奴隷に襲い掛かる事は無さそうだ。

 それでも親の仇を見ているような表情だが。


「そう睨むな、コイツはあの方の買った物だ。何かあればどうなるかわからん」


 男がそう言うと、フードは顔を反らし舌打ちをする。その様子に男の口から溜息が漏れる。


「ん~……」


 後ろから奴隷の声が聞こえた。何か考え事をしていたようだが、男が見ている事に気が付くと、肩を竦め嫌な笑みを浮かべる。

 不審に思うも今は無視を決め、男はフードに魔法について説明するよう促す。

 奴隷が小声で呟いた言葉を頭の片隅に置きながら。


「ま、そのうち分かるか……」

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