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主人公以外ほぼ鬼か妖怪です。
どうか、瑠璃の地獄ライフを一緒にお楽しみください!
※隔日17時更新予定です!
社会人三年目目前の三月。
仕事にも慣れて、小さいながらも雑誌の記事になる取材を任せてもらえるようになった今日。
どういうことだか、死んでしまった。らしい。
痛くも苦しくもなかったことは不幸中の幸いだった。それでも死んだことには納得がいかない。
まだ若い。人生これから。掴みかけていた、雑誌編集者の夢。
それくらい神様も知っているだろう。どこにいるかも、実際にいるかもわからない。でもこればっかりは神様とやらに八つ当たりしてもいいと思う。
一瞬見えた景色が地面だったということは、おそらく事故にでもあったのだろう。
今日取材してきたメモは無事だろうか。この記事はちゃんと掲載されるのだろうか。
やり残したことはたくさんあるというのにこんなに簡単に死んでしまうなんて。
人間という生き物は、なんて脆いのだろうか。
そんなことを考えながら、漫画とかアニメによくある真っ白に染まった死後の世界を放浪していた。音もない、温度もない、風もなければ太陽らしきものも見当たらない。本当の意味で何もない、この空間。たった一人のはずなのに不思議と孤独感は感じられない。何もないのにどこか楽しい気がする。
しばらく歩くと突然目の前に建物が見えた。あまりにも突然すぎるそれには「現れた」という表現のほうが的確かもしれない。
それはまるで田舎にぽつんと立っている駅で、かろうじて有人駅を保っているくらいの規模感のような。そんな見た目の、木造、平屋の建物。何もないこの空間ならばもう少し前から認識できても不思議ではないのだけれど、現実から切り離されたこんな空間なのだから何が起こったって不思議じゃない。
近づくと、駅名が書かれている代わりに「welcome」と彫られた看板がかかっていた。
英語表記がこの建物の雰囲気に合わずに浮いている。
この中に入ったら生まれ変わりの儀式などといったファンタジックなイベントが起こるのだろうか。
だとしたら次は同じような人生で、途中で死なないパターンがいい。
そう思うくらいにはあの人生に未練がある。生き返れるというのなら尚いい。むしろそうして欲しい。それくらい、必死でつかんだ楽しい理想の人生だった。
淡い期待を込めながら片足だけふみこんで、ふと後ろを振り返った。
私以外には誰もいない。この建物以外に何もない。色もない。さっきから変わることなくただただ真っ白。何があるわけでもないこの空間に、この先に進まないと何も起こらないことを思い知らされた。
足を踏み入れたその中は、本当に田舎の駅のようだった。あるものは中央に木製のカウンターと、それだけ。奥にはまた真っ白な世界が広がっていて、さっきまでいた外のような場所の中にあるゲートのようなものなんだなとそう思った。
人もいないし、特別何かできそうな雰囲気もない。本当にただの建物。
こういう時は何かあるものである、という想像は見事に打ち砕かれてしまった。
ここにとどまっていたってらちが明かない。でも、振り返ってさっきの場所まで戻ったところで白いだけ。何もないことはわかっている。
どうしようかと途方に暮れて、やっぱり戻ろうかと振り返った。
待ち受けているのは、右も左も、上さえもよくわからない、ただ白いだけの世界のはず。また長い散歩が始まる。はず。
壁だった。
入ってきた場所を見ているはずなのに、そこには壁があった。
さっきまでは確かになかった。何なら扉すらなかった。本当なら真っ白な世界が見えるはずなのに、見えるのは茶色の壁だけ。最初からありましたけど。みたいな顔して当たり前のように立っている。
いくら死んだ後の世界だからってこれはないだろう。
不本意に事故死した挙句この仕打ちということは、私は自覚がないだけでそれだけの悪事を働いてしまっていたのかもしれない。
もはや死んだこともなにもかも、夢なんじゃないかと思えてきた。
元の人生に戻れるかもしれない。そんな淡い期待を持っていたことが無駄だったかと感じて、ただの壁とにらみ合った。
リアルすぎる夢を見ながら何をしても目覚めない自分と、何が起こるわけでもない現実にため息をついてカウンターのほうに向きなおろうとしたその時だった。
「お待たせしました瑠璃様。この度はご愁傷さまでございます。」
目に入ってくる情報よりも先に、鼓膜を震わせた音がなだれ込む。
「うわっ、」
驚いて振り返ると、その声の主はカウンターの向こう側でお辞儀をしている。いったいどこから出てきたのか、どこにいたのか全く分からないが、車掌さん風の服を着ていることから、ここが駅的な何かの施設であることは明らかだった。
「驚かせてしまって申し訳ありません。」
そういって顔を上げる。
「うわ、え、ちょっと待って!」
あまりにも信じがたい光景に思わずあとずさり、さっきまでにらみ合っていた壁に背中が当たった。
はて?ととぼけた目をするその人、そもそも人なのかもわからないその声の主は、顔の中心に大きな目が一つ。口もなければ鼻もない。本当に目が一つだけ。妖怪図鑑でしか見ないような見た目のそれは、はっきり言って不気味。気持ち悪い。人を見た目で判断してはいけませんと、さんざん先輩から言われてきたけれど、こればっかりは見た目で判断してもいいだろう。さすがに怖すぎる。
というか、口がないのにどうやってしゃべっているのだろう。加えてこういうのにありがちな脳に直接聞こえてくるような訳の分からない聞こえ方ではなく、普通に人間と会話しているように声が聞こえる。その奇抜すぎる見た目以外は案外普通なのがまたよくわからない。
「もうお分かりかと思いますが、瑠璃様。あなたはお亡くなりになりました。」
こっちの戸惑いなんてそっちのけで話が進んでいく。やっぱり、死んじゃったんだ。
知ってはいたけど、改めてこう、宣告されると急に悲しくなってくる。
「ここは、寿命を残してなくなってしまった方が来る場所でございます。瑠璃様のような事故死などといった唐突な死を迎えてしまった方の魂を新しい場所へと導くのがわたくしの仕事であります。」
「寿命を残したまま死んだってことは、私が死んだのって何かの手違いのようなものってこと?」
これで「はい、そうでございます」なんて言われたらたまったもんじゃない。それで「はい。そうですか。」なんて言えるほどの余裕なんてない。
一つしかない相手の目を、二つの目でにらみつける。
「誠に申し訳ないのですが、そういうことになります。そのような方たちには、わたくしがこうしてご案内を差し上げている次第です。」
悪びれる様子もなく、にらみつけた大きな一つ目が瞬きをする。
冗談どころの話じゃない。この化け物は人の人生を何だと思ってるんだ。
「で?どうなんの?私。」
言葉に棘が、声色に怒りが隠し切れない。
「今は三月。来月から新年度ですので通常時よりも一つ多い、三択でございます。このまま天国へ旅立って、自由気ままにお好みの長さ滞在していただくコース。あなたの世界でいう異世界転生というものを果たし、記憶や体をそのままに新しい世界に旅立ち、新しい生活を今のままのあなたでスタートさせるコース。そして、このまま地獄で職員として働いていただくコースがございます。」
ご丁寧にカウンターの上に案内の紙を三枚並べながらそう言って、私を見つめる一つ目。その顔以外が何の変哲もない人間だ。
さあ、どうしますか。
言葉は聞こえないけれど、目がそう言っていた。




